2010年7月20日火曜日

ザ・ロード

(THE ROAD)

 ポスト・アポカリプスもの。
 文明崩壊後の荒廃した世界で旅を続ける──って、あれ?
 ナニやらつい最近も似たような映画を観ましたなあ。デンゼル・ワシントンの『ザ・ウォーカー』。
 〈ウォーカー〉と〈ロード〉か。題名まで似ている(笑)。邦題ですけど。

 とりあえずこれはSFなのだろうか。
 原作は『血と暴力の国』──映画化邦題は『ノーカントリー』──のコーマック・マッカーシー。
 近年、主流文学にもSF的設定で物語が書かれることが多くなりましたね。『白い闇』──映画化邦題は『ブラインドネス』──なんてのもあるし。これは喜ばしいことなのか。
 厳密にはSFなのかどうかという疑問は残る。
 なんせ文明崩壊の原因は描かれていないのである。荒廃した世界あるのみ。
 一応、回想シーンで、ある夜に突如として窓の外で大規模な火災が発生しているのを目撃する、というシチュエーションが描かれてはいるものの、理由は明確ではない。
 どうやら戦争ではなさそうではあるが……。
 暗く陽の射さない曇天。寒冷化する気候。ときおり襲ってくる地震。
 何か天体衝突によるカタストロフのようではある。〈核の冬〉というやつか。

 世界の描写が『ザ・ウォーカー』とは実に対照的である。あちらは、乾燥化した世界とギラつく太陽という、マカロニ・ウェスタン的世界だった。

 暑いか寒いかだけの違いではあるが、荒廃した世界で食糧供給が絶たれてしまえば、行き着く先は同じである。
 カニバリズム。人肉食が横行する外道の世界である。もはや弱者はエサとなるしかない。この描写が実にエグい。
 したがって人間同士は互いに接触を避ける。もし徒党を組んでいる連中を見かけたら、全速力で逃げ出さねば命の保証はない。
 集団でいる輩は、まず間違いなく人喰いなのだから。

 かつてラリー・ニーブンとジェリイ・パーネルの合作SF『悪魔のハンマー』でも描写されていましたな(そういえばアレも天体衝突による世界滅亡モノでした)。

 さて、明らかに作者としては原因の説明などするつもりもないし、興味の対象ではない。物語は過酷な環境の中で、人間性を失うことなくサバイバルする親子の描写に終始する。
 パパ役はヴィゴ・モーテンセン。
 『指輪物語』のアラゴルン様ですが、ここでは線の細い元インテリ中年という役柄。デンゼル・ワシントンのように──あるいはメル・ギブソンのように──、悪党どもに囲まれても不敵に笑みを浮かべるようなタイプではない。
 むしろ神経質な小動物のように周囲に気を配り、人喰い集団が誰かを襲っていたら、その誰かが喰われている間にスタコラ逃げ出すタイプである。間違っても助けに行ったりはしない。
 何故なら幼い息子が一緒だから。
 息子の命を危険にさらすなど断じて出来るわけがない。

 この少年がまた実にかわいい。
 BL好きな腐女子のお姉さま方の心臓鷲掴みであろう(笑)。
 純真な子供、とはまさにこの少年のことである。
 そもそもヴィゴが息子にそう教え込んだ所為でもある。破滅前の世界のこと、正義のこと、善き人であるとはどういうことか。息子はただ教えられたことを忠実に実行しているに過ぎないのだが、大人のように本音と建て前を使い分けないので、思わぬところで息子の言葉にドキッとさせられる。

 まことに「子は親の鑑」ですね。

 『ザ・ウォーカー』ともうひとつ対照的なのが、宗教に対する姿勢か。
 「聖書さえあれば神の御言葉で人心は救われ文明は復興するのデス」という『ザ・ウォーカー』に対して、『ザ・ロード』には聖書も神様も出てきません。
 「神などいない」と明確に主張しています。
 神はいない>だからすべて許される>略奪も人肉喰いもOKよ。

 そんな神無き世界で倫理を保つというのは、とてつもなく難しい。コーマック・マッカーシーの小説は、そんな過酷な世界の物語ばかりのようである。
 ヴィゴも息子がいなければ、とっくの昔に外道と化していたであろう。

 印象的な場面としては、旅の途中で偶然に食糧を貯蔵したシェルターを発見する場面がある。ここで親子は久しぶりにまともな食事にありつく。
 幼い息子はお礼をしたいと父に云う。誰かは知らねど、食料をここに残してくれた人々に。
 「ありがとう……皆さん(“Thank you, people”)」という「祈り」の形で。

 神はいない。宗教もない。しかし「感謝の気持ち」と「祈るという行為」は残る──と云う、実に美しい場面です。
 陰々滅々とした映画ではありますが、それだけにこの場面は美しい。

 この映画に於けるヴィゴ・モーテンセンの役作りは非常に気合い入ってます。
 もう痩せまくり。ガリガリと云っても過言ではない。役者って大変だなあ。
 滝壺で身体を洗う場面や、座礁した船を見つけて食料を探しに行く場面の二カ所で、ヴィゴの全裸が拝めます。観たくなかったが(汗)。
 『イースタン・プロミス』以降、全裸に対する抵抗が無くなったかのような潔い脱ぎっぷりである。いつの日か『ハリウッド映画ヌード大全集・男性編』が作られた暁には必ずや収録されるでしょう(爆)。

 全編にわたり父と息子の物語なので、他は脇役ばかりであるが、これが豪華。
 回想シーンでのみ登場する奥さん役が、シャーリーズ・セロン。
 行きづりの〈老人〉役が、ロバート・デュバル。
 そしてラストに登場する〈復員軍人〉役が、ガイ・ピアース。

 特にガイ・ピアースは出番が少ないが、いい役もらったなあ。
 ジョン・ヒルコート監督はオーストラリアの人で、異色西部劇『プロポジション/血の誓約』の監督さんですが、ガイ・ピアースをここでも起用している。気に入ってるのね。
●余談
 ヴィゴの息子を演じたコディ・スミット=マクフィーくん(14歳)の次回作は……スウェーデン映画『ぼくのエリ/200歳の少女』のハリウッド・リメイク作品であるそうな。
 キミがオスカー役か!

 え。でも監督は『クローバーフィールド』のマット・リーヴスなんですけど。大丈夫なのか。
 それよかエリ役は誰なの?

 クロエ・モリッツ? 『(500)日のサマー』に脇役で出ていた。ジョゼフ・ゴードン=レヴィットの妹の役。ああ、いたいた。そういえば、失恋した兄貴を慰める非常におしゃまな女の子でした。
 クロエちゃんは──もはや「ちゃん付け」である──リメイク版の『悪魔の棲む家』にも出演しているのか。むう。
 他には香港ホラー映画のリメイク版『アイズ』にも出ている。
 やはりカワイイ女の子はホラー映画には必須なのですね(笑)。




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