原作は翻訳がハヤカワ文庫NVから『MORSE/モールス』(上下巻)として昨年末に出版されておりますな。これもまた不思議な翻訳タイトルですね。
映画を観た者にはすぐに判りますけど、「モールス」というのは、モールス信号のことで、劇中でも効果的に使われております。
作者はヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト。「スウェーデンのスティーヴン・キング」だそうで、映画の脚本も自ら書いております。ちなみにこの人の次回作はゾンビ小説だそうな(笑)。
原題は、吸血鬼の「家人に招かれないと屋内に入ることが出来ない」という設定に基づく題名だそうで、ハリウッド・リメイク作では『LET ME IN』という題名になっているとか。
もうハリウッド・リメイクが決定してるのかいッ。
もはやバンパイア・ムービーは万国共通やね。
しかしどうして皆、そんなに吸血鬼を恋人にしたいのでしょうか(笑)。
やはりロマンチックなんですかね。日本でも『ポーの一族』とかあるしなぁ。
今回は主役の少年少女が十二歳(少なくとも見た目は)なので、吸血鬼版『小さな恋のメロディ』とも云えるでしょう。
この映画の成功の鍵はナンと云っても主役のエリのキャスティングであります。リーナ・レアンデションの愛らしさは一見の価値ありデス。特に血まみれになってもカワイイというのが素晴らしい。ブラッディ萌え(爆)。
北欧社会に於いて、黒い瞳に黒髪であるという時点で、既に異邦人ぽい。
一応、主役である少年オスカーくんの方が、いかにも北欧人でございます的な金髪碧眼なので、対比がなかなか効果的です。まぁ、少年の方はいまいちパッとしないが、「いじめられっ子」であるという設定なので、それはそれで良し。
かくして友達のいない少年と、人外の少女との淡いロマンスへと発展していくのですが……。
どう見てもオスカーくんは、エリにいいように利用されているようにしか見えない。相手は見た目は十二歳ですが、ホントは齢二百年ですからな。
特に吸血鬼には、下僕が必要である。日中は行動に制限があったりするし。
劇中でもちゃんとそういう描写がある。
物語の前半で、巷を騒がす連続殺人事件の犯人が、実はエリの下僕だったと明かされる。この中年男性はエリの為に、生き血の収集に奔走していたのである。
このオヤジ、警察に逮捕されそうになるや、躊躇うことなく自決の道を選ぶ。
なんという忠誠心。
うーむ。見方によっては、エリは便利な下僕を失ってしまい、替わりを探していたのだと思えなくもない。いや、どう見てもそうでしょう。
オスカー、キミは欺されてるぞ。
まぁ、女性に貢ぐことに生き甲斐を感じるというのなら、それも良しですが(爆)。
総じて世界各国での受賞履歴も納得の出来映えではありますが、ハリウッド映画を見慣れている所為か、妙に間延びした演出を感じてしまいます。
上映時間が2時間近い。
私が思うに、主人公の周辺状況を妙に書き込もうとしている所為ですね。原作者が脚本も書いているので、あまり小説版から変更したくなかったのでしょうか。
オスカーくんの家庭環境は、明らかに離婚家庭(セリフでの説明はないが)。ママと一緒に暮らしながら、ときおりパパとの面接日の描写がある。
しかしこれが物語の展開上、必要な描写になっていないのが苦しい。多分、オスカーくんが「ママとの生活」にも「パパとの生活」にも馴染めず、疎外感を抱いた末に「エリと生きていくことを選択する」という演出につなげたかったのでしょうが。
このあたりを巧くカットできれば(パパは最初から登場しなくても構わんだろう)一五分くらい短くなって、もっとテンポ良く展開できると思うのデスが……。
きっとリメイクされる際には、一〇〇分前後になるのではないかな。
スウェーデン映画であることを強く意識する場面がふたつあります。
まず、エリは屋内に潜伏中は日光が差し込まぬように窓はすべて目張りしている(当然ですな)。その上でバスルームの中で寝ているワケですが──棺桶の代わりにバスタブを使う──、正体に気付かれ成敗されかかったところを間一髪で逆襲し難を逃れる、という場面があります。
窓の目張りが一部、剥がれて日光が差し込むのですが、実は時刻は夜中だったという不思議な演出。
これが「白夜」というモノであるということに気付くのにワンテンポ遅れてしまいました。なるほどスウェーデン。
特に説明しなくてもスウェーデン人にはすぐに判るものなのかしら。
してみると北欧に住む吸血鬼は、なんか色々と面倒ですなあ。
第二は、エリの着替えの場面。
シャワーを浴びて着替える際に、オスカーくんはチラッと着替え中の姿を垣間見てしまう。いやあドキドキの思春期ですね(笑)。
そのとき、エリの下腹部がスクリーンに明確に映る。正面からアップで。ほんの一秒足らずですが、バリバリにボカシをかけられて興醒めでした(仕方ないか)。
十二歳の少女の下腹部を堂々とチラ見せしてくれようとは。
さすがスウェーデン。
しかし実はこの「エリの着替えるシーン」には、原作を読むと別の意味があったのだと……。
すごく重要な場面なのにボカシなんか掛けやがって!
● 余談
今年はどうやらスウェーデン映画の当たり年らしいですね。
年頭に『ミレニアム/ドラゴン・タトゥーの女』を観ました。そして今秋には『ミレニアム』の第二部と第三部が立て続けに公開されるとか。
一年のうちにスウェーデン映画を何本も観ることになるとは珍しい。
単に製作されてから公開されるまでの間にタイムラグがありすぎるからでありましょうが。
これもまたそう。二〇〇八年製作でやっと日本公開か……。
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