2011年10月24日月曜日

アクシデント

(ACCIDENT/意外)

 『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』のジョニー・トーの新作……と思ったら2009年製作でしたか。随分と公開が遅れたものです。しかもジョニー・トーは今回は製作のみで、監督はソイ・チェンという人。『ドッグ・バイト・ドッグ』や『軍鶏 SHAMO』の監督ですが、今まで未見でした。
 とは云え、今回もジョニー・トー色は遺憾なく発揮されておりました。
 「小雨の降りしきる夜の路地裏」というロケーションは相変わらずですねえ。余程、雨の夜というシチュエーションがお好きと見えます。もうジョン・ウーが「ハトを飛ばす」のと一緒か。

 事故を装い、巧妙に標的を暗殺することを請け負うプロフェッショナルを描いたサスペンス・ミステリ。登場する暗殺者は男女四人のチームです。
 序盤でまず、彼らがひと仕事する場面を見せてくれます。タイヤがパンクして立ち往生した車を迂回しようとした後続車両の運転者が、雑居ビルからの落下物に巻き込まれて〈事故死〉する。後に標的が犯罪組織の大物であったことが事件報道で判る。
 このシークエンスは実に巧妙で、『ファイナル・デスティネーション』を彷彿とさせると云うか、いくら事前の仕込みは万全とは云え、そんなに都合よく事故を引き起こせるのかとツッコミ入れたくなる程に見事。
 事故に見せかけた殺人──と云うと江戸川乱歩の小説にもありましたが、仕掛けは遙かに複雑です。
 もし標的が予想した行動に出なかったら、仕込みはすべて無駄になり、あとで無関係な誰かが代わりに事故に遭うのではないか。標的にスルーされた場合の、仕込みの回収作業は面倒でしょうねえ(笑)。

 チームのメンバーは劇中では名前を呼ばれず、全員コードネームで呼びあっています。〈オヤジ〉、〈太っちょ〉、〈女〉。リーダーである〈ブレイン〉だけは名前も呼ばれますが。
 〈ブレイン〉はストイックな計画立案者でありますが、数年前に奥さんを交通事故で亡くしているという設定(冒頭に女性が交通事故に遭う場面がある)。表向きは事故死だが、何者かが〈ブレイン〉の命を狙い、奥さんが身代わりに事故に遭ったのだと考えられている。それ以来、彼は病的なまでに用心し、身辺に気を使っているのですが……。

 さて、そんなチームに次なる暗殺依頼が舞い込む。とある質屋の息子が、店の経営者である父親を殺害したいと云う。
 依頼主の動機など問うことなく、プロとして標的の日常習慣や行動パターンを調べあげる活動が前半の見所でしょうか。合わせて事故死を装う方法の立案。ミーティングで幾つものアイデアが出され、最終的に感電死という「死因」が採用される。問題はどうやって感電させるか。
 なかなか『ミッション:インポッシブル』的で、クライム・サスペンスとしては面白いデス。

 物語の舞台は香港なのに、どうにも観光名所とは無縁のロケなので、どこで撮っているのかよく判りません。でも狭い路地に二階建ての路面電車がゴトゴト走っているシーンはなかなか趣き深い。香港ならではの風景なんですかね。

 標的の住むアパートの前にこの路面電車の線路があるという状況から、最終的に路面電車の架線からの感電が立案される。架線から糸を垂らして標的に接触させて感電させようと云う計画であるが、巧くいくのか。
 架線への通電のタイミングを調べ上げ、標的の行動パターンと照らし合わせ、垂らした糸に通電させる為に雨天に決行することが決められる。
 無理なく「雨の夜」を状況に組み込んでいますね(笑)。
 しかし糸を垂らすために、チーム全員で凧上げの練習をする場面には笑ってしまいました。なるほど電力会社のCMにもありますね、電線のある場所で凧上げするな、と。
 凧が架線に引っかかり、垂れた糸から感電する。誰がどう見ても事故死だろうと云うシチュエーションを狙っているのはよく判るのですが……。

 しかし都合よく垂らした糸に標的を接触させる為には、標的が通りかかる直前に糸を垂らさねばならない。時間が経てば別の誰かが引っかかったり、架線の保守要員が凧を撤去してしまう可能性もありますからな。
 したがって「凧上げ」は作戦にゴーサインが出てから行わねばならない。
 でも「雨の降る夜間に隣のビルの屋上から凧上げをする図」というのは、あまりにも不自然なのではと思ってしまいました(笑)。そのあたりのツッコミ処は御愛敬でしょうが、計画したとおりにことが運ぶか否かという緊迫した状況の演出は巧いです。
 決行か中止かのギリギリの瀬戸際で、〈ブレイン〉が決断を下し、なんとか作戦は成功。標的は雨の路上で感電死。

 問題はその直後に発生する。現場から撤収しようとしたチームが交通事故に巻き込まれるというアクシデント。間一髪で〈ブレイン〉は身を躱すが、〈太っちょ〉が死亡。
 果たしてこれは事故なのか?
 事故を装うことを専門にしていた暗殺者が遭遇した事故は、故意か偶然か。
 この暗殺依頼自体が罠だったのか。内部に裏切り者がいるのか。〈太っちょ〉は死亡。では裏切り者は〈女〉か、それとも〈オヤジ〉か。
 ここから〈ブレイン〉の単独調査が始まります。果たして黒幕は何者か。

 このあたりから、クライム・サスペンスだったドラマはどんどんサイコな方向に転じていきます。
 依頼主であった質屋の息子の行動を監視する〈ブレイン〉は、生命保険会社の担当者と会っている。こいつが黒幕なのか。監視対象を「保険会社の男」にシフトし、念入りに調べ始める。
 しかし調べれば調べるほど怪しい点はあれど決定的な証拠は見つからない。次第に神経をすり減らして憔悴していく〈ブレイン〉は、真偽の区別がつかない精神的な迷宮に捕らわれていく。もう誰も彼もが怪しく見えてくる。

 観ている側は、当初は〈ブレイン〉視点に同調しているので、相手は相当に頭の切れるヤツだ、と思ってしまうのですが、だんだん病的になっていく〈ブレイン〉の姿に、ふと疑念が湧いてしまいます。
 ひょっとして、本当に偶然の交通事故だったのでは……。
 それを裏付けるように、ミスが続いた〈オヤジ〉の行動は裏切りではなく、認知症が進行している為だと説明される。

 この映画を観ていると思い浮かぶのは、世界的陰謀論を信じるトンデモさんの行動ですね。
 世界的な陰謀がある、それを証明してやる──と意気込んで調査を始めたはいいが、いくら調べても証拠は出てこない。普通ならここで「陰謀など無いらしい」と結論するところですが、陰謀論者は「証拠は隠されているから見つからない」と思い込む。結果として、どこまで調べても見つからない証拠を隠す為の壮大な隠蔽工作という設定が必要となり、ますます大掛かりな陰謀論へとはまりこんでいく、という図式。
 常に事故を演出してばかりいるので、何事にも裏があると思い込んでしまう職業病なのか。

 ラストは凝った仕掛けで、「保険会社の男」の抹殺を謀るものの、本当に偶発的な出来事により仕掛けは不発。これには驚きました。人間が「この世に神が存在する」と信じてしまうのは、こういうことが起こるからなんですかね。
 何もかも全ては自分の妄想と疑心暗鬼が招いたことだったと悟ったときには、既に事態は取り返しのつかない方向へ転がっていた……。

 ハードボイルドなクライム・サスペンスかと思って観始めたら、後半はサイコ・サスペンスなドラマになってしまいました。これはこれで面白かったですけどね。
 派手な銃撃戦など遂に起こらず、静かでミステリアスな展開に終始しました。
 静かなピアノ伴奏のBGMがなかなかメロウな旋律で、印象深かったです。


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