監督は『パイレーツ・オブ・カリビアン』のゴア・ヴァービンスキー。ジョニー・デップと馴染みだからか、今回も主演はデップくん。
動きだけでなく感情まで取り込むエモーション・キャプチャーという、モーション・キャプチャーとは似て異なる名称の技術が開発されたそうですが、どこがどう違うのか完成品を観ただけでは判りませんです。まぁ、映画が面白いなら何でもイイのですけど。
のっけからジョニー・デップの独りボケ&ツッコミが連発される場面が笑えます。デップは水槽で飼育されているカメレオンの役。水槽の中に一匹だけしかいないので、彼には空想の友達しかいない。
主人公は、何にでもなれるという役者──カメレオンだし──という設定なのも、デップがカメレオン俳優だからか。
この映画は「何にでもなれるが、何になっていいのか判らない男」が、なりたい自分を見つけるまでの物語。自分探し映画とも云えます。基本は西部劇──と云うか、マカロニ・ウェスタン──ですが。
一人芝居が一段落つくと、カメレオンはいきなり水槽から放り出される。実は飼い主は水槽を車に積んでドライブしていたのだ(引っ越しか?)。ハイウェイ上で、あわや交通事故という場面から、水槽ごと車外に放り出され、九死に一生を得るアクション場面がスローモーションも交えながらの演出でいい感じです。
ここで瞬間的に『ラスベガスをやっつけろ』のパロディが入ったので笑ってしまいました。一瞬のギャグですが、ちゃんとデップ自身が一人二役してくれました。知らない人は何のこっちゃですが。
『ラスベガスをやっつけろ』に限らず、全編にわたって随所に様々な映画のパロディが挿入されるというのは、ドリームワークス製作のアニメ映画によく見られる傾向ですね。この辺がディズニーとはひと味違う。
本作にも『荒野の用心棒』やら『続 夕陽のガンマン』といった、今までの西部劇のパロディ場面があって、映画好きには楽しい仕掛けがあちこちに見受けられます。
他にも、ガラガラヘビのお尋ね者ガンマン〈死神ジェイク〉が、もろに『シェーン』だったりします。声はビル・ナイ(『パイレーツ・オブ・カリビアン』のタコ船長)ですが、やっぱりジャック・パランスに(無理か)。
ハイウェイから放り出されたカメレオンは砂漠を彷徨う。モハヴェ砂漠であると言及されるので、やっぱりラスベガスへの道中だったのか(笑)。
かくして放浪の末にたどり着いた砂塵舞う大西部の小さな町で、西部劇の幕が開くという次第。
物語の進行役は四人のマリアッチ。歌と音楽で解説しながら物語を進行させていく演出が楽しいです。バンジョーやギターを使ったハンス・ジマー作曲の軽快な音楽も聴きものです。
一応、四人のマリアッチは登場人物達には見えない筈なのですが、たまに見えたりするらしい(笑)。
「この町じゃ流れ者と善人はすぐ死ぬよ」というお約束の台詞や、繁盛しているのは葬儀屋だけという設定も楽しい。
酒場で調子に乗ってホラ吹きまくり、偶然の要素が重なってヒーロー扱いされる。
ここで名前を問われてカメレオンが名乗る名前が「ランゴ」。実は直前に飲んでいた酒の銘柄から咄嗟に思いついた名前。
あからさまな偽名を名乗るのが、黒澤明の『用心棒』にも通じる展開なのが嬉しいですね。
やはりマカロニ・ウェスタンでは「~ンゴ」という名前が定番なのか。
リンゴとか(『夕陽の用心棒』や『続 荒野の1ドル銀貨』)、ジャンゴとか(『続 荒野の用心棒』)。
水不足に苦しむ小さな町の保安官に任命されたランゴ。土地は乾き、農作物は育たず、農民は次々に土地を手放し、去っていく。
その土地を次々に買い占めているのが町長。善人面しているけど悪党であることがモロバレ状態(笑)。
「水を制する者が町を支配するのだ」なんて、どこかで聞いたような台詞を口にしてます。
残るはヒロインの持つ農場のみ。しかし彼女は頑として農場を手放さない。
最初は調子に乗ってお飾りの保安官を演じているだけのランゴだったが、やがて水不足の原因が町長の陰謀であることに感づき、本当に町を救うために立ち上がろうとする。
しかし……。
物語の展開は、ヒネリのないお約束な鉄板展開。
この手の物語は今年も『ガリバー旅行記』とかありましたねえ。もうキャラが異なるだけで、筋立ては一緒。
ヒーロー願望はあれどヘタレな主人公がホラ吹きまくってヒーローになるが、肝心な場面でヘタレであることが露見し、一気に転落。どん底にまで転落するも、「友の励まし」とか「荒野での啓示」とか、なんかそんな感じで奮起して、愛する者を救うために再び敵に立ち向かう。
まぁ、そうでないとイカンわな。水戸黄門と同じく黄金のパターンと云えます。
ランゴの場合は「荒野での啓示」。
蜃気楼揺らめく砂漠で出会うのが、〈西部の精霊〉。おおう、スピリット・オブ・ウェストか!
ランゴは〈西部の精霊〉から啓示を受けて、立ち上がる……のはイイのですが、この〈西部の精霊〉が素晴らしい。
物語の登場人物は全員、動物キャラですが、この精霊だけは人間です。だから小動物から見ると仰ぎ見るほどに巨大。まさに人が神を仰ぎ見るかの如く。
そして〈西部の精霊〉なのだから、当然のことにソレは「ガンマンの格好」をしている。
どこかで見たポンチョを着て、どこかで見たカウボーイハットを被り、どこかで見た無精ひげを生やしたその精霊は、御丁寧にも「金色のオスカー像」を幾つも持っている(劇中で、アルマジロの賢者が「精霊は黄金の像を持つ」と予言した通りに)。
おお、西部の精霊。あなたはクリント・イースト……。
──と思ったら、精霊役の声優はティモシー・オリファントでした。なんでじゃあッ。
ここまでやっておきながら、何でクリント・イーストウッドじゃないんだよお(泣)。
日本語吹替版では山田康夫の配役でないと許さぁん(それも無理か)。
上映は字幕版だけのようですが、既に日本語吹替版も制作されているそうです。
ランゴはジョニー・デップなので、平田広明。当然ですね。
一方、この〈西部の精霊〉の吹替は、多田野曜平。うむ、それならいいか。早くDVD化してほしいものです。
『カウボーイ&エイリアン』もそうですが、最近は痛快西部劇(のような)作品が続けて公開されて嬉しいです。もっと西部劇を!
● 余談
〈西部の精霊〉にはもうひとり、棺桶を引きずって歩いてくる人もいると思うのデスが、そっちの精霊さんは出番ないんですかね(笑)。
好評につき続編制作が決定した暁には、是非そちらの精霊さんにも登場していただきたい。声はもちろんフランコ・ネロで。
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