今回はシリーズ総監督の黄瀬和哉が、自身で監督も担当されています。それまでのミリタリ色の強いハードな展開から一転、恋愛絡みのソフトな描写が特徴的な一篇となりました。
誰のコイバナかと云うと、素子少佐(坂本真綾)です。前日譚ですし、各キャラクターの色々と未熟なところや不慣れな点が描かれるのも、本シリーズの特徴ですが、あの素子少佐がイケメンの前でメロメロになっていると云う、実に珍しい場面を拝むことが出来ました。
本作は、時期的には前作「Ghost Whispers」の後で、全メンバーの顔触れが出そろい、六人中の五人までが既に素子少佐の部下となって公安9課のコンサルタントと云うか、下請業務に従事している頃です。
まだ正規の部隊として人数が足りていないので下請扱い。装備も官製のものは使えないし、何やら小汚い雑居ビルのような事務所を活動拠点にしております。
「必ず最高の装備と待遇を獲得してやる」と意気込んでおりますが、メンバーが足りていないので如何ともし難い。
その一人足りていないのが、トグサ刑事(新垣樽助)ですね。それ以外は五人とも軍人上がりなので、今回はトグサ刑事の異色ぶりが際立つ演出になっています。
トグサ刑事は只一人、既婚者であり、子持ちであると云う設定でしたが、本作は前日譚なのでまだ子持ちには至らず、「そろそろ生まれそう」と云う状況です。
あるとき都内某所と郊外のダムでほぼ同時に爆破テロが起きる。
都内の爆弾テロに対して捜査を行うのが、素子さん達公安9課の下請組。一方、郊外のダム爆破事件を追っていくのが新浜署のトグサ刑事。
二つの事件が意外なところで接点を持ち、やがて共通の真相へと辿り着くと云うのが本作の流れでありまして、第一話「Ghost Pain」と似た展開になっております。
その合間に素子少佐の恋愛模様が描かれ、事件は素子少佐がまだ軍の特殊部隊に在籍していた時代の忌まわしい記憶とも関連してくると云う趣向です。
攻殻機動隊の結成前であり、各メンバーの知られざる一面が描かれるシリーズですが、本編を知ってから観ていると、なかなかギャップがあって楽しい場面もあります。一番、ギャップがあるのがサイトー(中國卓郎)でしょうか。
前回でギャンブル中毒と云う悪癖が披露されましたが、今回は今回で一番、やる気なさそうにグータラしております。前回に比べると台詞の量は少なくなりましたが、画面の隅でダラダラしているのが笑えます。サイトーはもっとストイックな人だったと思いましたが、このままARISEでは「そういうキャラ」として固定されてしまうのか。
ところで攻殻機動隊のメンバーの中で、イシカワの配役が檀臣幸から咲野俊介に変更されておりました。ARISEのイシカワ役は檀臣幸でキマリだと思っていたので、突然変わってしまったのが不可解でしたが、実は第二話の公開前に急逝されていたと知りました(2013年10月10日逝去)。
うわぁ。存じませんでした(汗)。
謹んでご冥福をお祈りいたします。『機動戦士Vガンダム』のクロノクル役は、もう随分と昔になりますねえ。クリスチャン・ベールの吹替が一番馴染み深く、ベール演じるバットマンの声が『仮面ライダーW』の井坂深紅郎(ウェザー・ドーパントね)と同一人物であるとは信じらなかったことを思い出します。
イシカワやサイトーに代わって本作で意外と目立つのがボーマ(中井和哉)です。前回の影の薄さがウソのようです。今回は台詞の量が増えて良く喋っております。全四話ですから、各メンバーの出番を順繰りに増やして調整しているのでしょうか。
本作では、トグサ刑事とボーマのコンビという珍しいツーショットも披露されます。「バトーとトグサ」と云う見慣れたコンビでないのが新鮮ですが、バトーとボーマは見た目が似ているので新鮮さも今ひとつであったのが残念でした。
今回は事件を追うトグサ刑事が警察上層部の圧力によって捜査中止に追い込まれ──刑事モノにありがちなパターンですね──、それならそれで搦め手から攻めようとトグサ刑事が自分から公安9課を訪れるという展開になりました。
荒巻部長に直訴し、9課の捜査に加えてもらって、ボーマがトグサ刑事に同行します。
トグサ刑事はほとんど生身の人ですので、全身義体のサイボーグやら、電脳エキスパートやらの前では影がうすい存在ですが、刑事らしい推理を随所で発揮して存在感をアピールしてくれます。
実際、素子少佐の集めた脳筋野郎共とは一線を画しておりまして、本作でのトグサ刑事はかつてないくらいの名探偵です。だから素子少佐の目に止まるわけですね(第一話の時はそれほどでもなかったのか)。
本作で素子少佐の恋人として登場する(一話限りの)ゲストが、イケメンの電脳義体技師のホセ・アキラ(鈴木達央)。名前からしてラテン系のハーフかと思いましたが、名刺にはちゃんと名前が漢字で表記されていました。干頼晶(ほせ あきら)とな。
なかなか男性パートナーとの関係が長続きしないとバトー達から揶揄されている素子少佐ですが、珍しく「三ヶ月も」続いていると感心されております。
原作コミックスでは相手が男性でも女性でもOKな素子少佐でしたが、アニメでは女性同士な場面はマズいのでしょうか。ちょっと観てみたいけど、アブなすぎるか(深夜向けでもヤバいかしら)。
ともあれ、本シリーズでの電脳空間内の描写は「水中」であるので、二人のラブシーンも水中に浮かぶような演出で描かれております。でもちょっとアッサリしすぎな感じがしました。
場面としては二回もあるのに、同じシチュエーションなのは如何なものか。それにもうちょっと、その、濃厚に……できんか。
二人の出会いは、素子少佐が電脳義体のメンテナンスに市内のクリニックを訪れた際のことだったと語られています。今まで義体のメンテナンスは、軍や政府の委託を受けた大企業の施設で行われる場面ばかりだったので、一般人のクリニックでメンテナンスを受けると云う描写が珍しく思われました。
時期的に本シーズ特有の背景設定ですね。
無論、金に糸目を付けない政府施設でのメンテナンスには遠く及ばず、それに慣れていた素子少佐としては不満でしょうが──贅沢な悩みと云えなくも無い──、干瀬の技師としての腕は見込んでいるようです。
一人足りないメンバーに干瀬を勧誘しようとしたりする場面もあって、ちょっとそれは公私混同ぽいと云わざるを得ませんですねえ。素子少佐が、あまり「らしくない」行動をしてしまうのも本シリーズの特徴ですね。
本作には他にも、ホズミ大佐(慶長佑香)なる謎の人物や、クザン共和国の国営水企業の幹部サイード博士(久川綾)といったゲストキャラが登場します。
本作で起きる二つの事件は、どちらにもクザン共和国が関係しております。水資源の確保が重要な産業としてクローズアップされていると云うのが近未来SFぽいです。
今回の事件は新興国であるクザン共和国の内戦が絡んでいるようで(第二話の設定ともリンクしておりますね)、公安9課の下請として爆弾テロ・グループを制圧してみれば、犯人達はかつてクザン共和国で伝説の英雄とまで謳われた〈スクラサス〉のシンボルマークを身体に彫り込んでいる。
そこへ第一話で登場した〈陸軍501機関〉のクルツ(浅野まゆみ)が再登場し、クザン共和国で行われた過去の作戦について他言無用と素子少佐に釘を刺したりしております。何やら後ろ暗いところがあって、素子少佐もそれについては語りたくない様子です。
クルツは素子少佐に部隊を去られた後に、空席になったポジションへ後釜になる人材を確保したらしいことが語られております。それが年端もいかない少女(茅野愛衣)の姿をしておりますが、なかなか不気味なオーラを放っております。
「あれがお前の先輩、草薙素子だ。勝てるか?」とクルツに問われておりますが、ここではまだ顔見せのみです。
総じて、本作は最終話に向けた伏線の仕込みが随所に見受けられる作りになっています。
劇中で語られるクザン共和国の内戦絡みの陰謀や、爆弾テロは実はあまり重要ではなく、来たるべき〈陸軍501機関〉との対決のプロローグと云った趣です。
テロ実行犯を捕らえたところで、高度な洗脳ハックを受けており、黒幕の所在をつかむには至らない。ここにもまた謎のウィルス〈ファイアスターター〉が顔を出しております。
また、ホズミ大佐なる人物が、サイード博士や干瀬と、何やら陰謀を企んでいる様子ですが、ホズミ大佐の出番もあまりありません(顔見せだけ)。ホズミ大佐は一見して判る全身義体のサイボーグで(この人だけ『アップルシード』ぽいデザインなのは御愛敬ですね)、ここにも〈陸軍501機関〉が関係しているのが伺えます。
干瀬もまたクザン共和国関係者で、サイード博士と共に故国での内戦支援の為にホズミ大佐と取引していると明かされますが、ホズミ大佐が彼らを利用して何を企んでいるのかまでは明かされず。
つまり干瀬は最初から、素子少佐が何者なのか承知した上で接近してきたわけで、素子少佐の恋も先が見えてしまいます。事件が解決するときに、破局しちゃうのであろうと容易く察せられますが、尺も短いのであまり深い陰謀にはなりませんですね。
爆弾テロについても、実行犯がどうやって爆発物を現場に持ち込んだのかが判らず、トグサ刑事が名推理を働かして解き明かしますが、事件の随所に干瀬の影がちらついておりますので、割と簡単に察しがつきます。
それよりもトグサ刑事に、あなたの恋人が容疑者だと指摘されて激昂してしまう素子少佐の姿の方が意外でした。やはりまだまだ未熟か。
そして爆弾テロ犯の真の目的と、素子少佐と〈スクラサス〉の関係も明かされ、一気にクライマックス戦闘に雪崩れ込んでいきます。今回はラブストーリーがメインではありますが、最後のアクション・シーンはなかなか緊迫しておりました。
サイボーグ同士が格闘する際に、肉弾戦になりながらも、相手の視界を奪い合う電脳戦も同時に行っているといった描写がSFぽいです。説明台詞も無い実にスピーディな演出です。
そして敵味方として対峙する干瀬と素子少佐。利用するつもりが、本気で愛してしまったと云うのはお約束ですね。どちらも恋愛感情と信念の板挟みに苦しみ、そして破局が訪れる。
事件解決後、警察に居づらくなってしまったトグサ刑事を素子少佐が最後のメンバーとしてスカウトすることになるのですが、本人はその勧誘に乗るのか断るのか、返事をする前に奥さんから「破水した」との報せを受けて病院へ飛んで行ってしまう。
それを見送って、「生身で、既婚者で、子持ち……だと」と呆気にとられる素子少佐。何もかも毛色の違う最後のメンバーが加わり、攻殻機動隊が結成されるのは次回に持ち越しです。
最終話「Ghost Stands Alone」は、今年の九月上旬公開予定とな。今まで半年に一回でしたが、最後は一気にたたみ掛けてくれるようです。たった二ヶ月で公開とは有り難いですね。
古巣の〈陸軍501機関〉と、謎めいた「後輩の美少女」が最後の敵として素子少佐達の前に立ちはだかりそうな予感がいたしますが、これが〈ファイアスターター〉にどう関係してくるのか。次回だけでちゃんと決着してくれるのか、少し心配ではあります。
第三話のエンディング主題歌「Heart Grenade」の作詞とボーカルに、ショーン・レノンの名前がクレジットされておりました。ジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻の息子がこんなところに。
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