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2011年11月28日月曜日

ラブ&ドラッグ

(Love and Other Drugs)

 主演がジェイク・ギレンホールとアン・ハサウェイでなければ、観に行きはしなかったと断言できます。「軽薄なプレイボーイと難病女性の恋の行方を描く恋愛映画」なんて、明らかに私の守備範囲外なのですが、ジェイクとアンの組み合わせには抗えぬ。
 この二人は『ブロークバック・マウンテン』でも共演していますね。
 いわゆる難病映画ではありますが、どうして恋愛と難病はセットにされることが多いのか。安直ではないか。

 と、思っておりましたが、恋愛は恋愛でも、これはラブコメですね。難病を題材にしながら、笑いを取りに行こうという心意気が素晴らしいです。そうそう。人生の難局はユーモアで乗り切らねばイカンです。
 でも日本じゃ、こんな物語は不謹慎だと非難されて製作できないのでしょうねえ。
 監督はエドワード・ズウィック。『ラストサムライ』、『ブラッド・ダイヤモンド』、『ディファイアンス』なんてのが思い浮かびますが、今回はまた軽いタッチの作品ですな(いや、実はそんなに軽くないのだと、あとで判りますが)。

 さて、この映画での難病とは、パーキンソン病(またはパーキンソン症候群か)。
 少しググりましたところ、パーキンソン病とは、脳内のドーパミン不足とアセチルコリンの相対的増加とを病態とし、錐体外路系徴候を示す疾患であるそうな(難しいッ)。
 神経変性疾患の一つで、日本では特定疾患に指定されているとか(紛う事なき難病か)。
 しかしパーキンソン病は、それ自体で生命を落とす疾患ではない、というのが救いと云えば救いですが、やっかいな病気であることは劇中でもシリアスに描写されます。

 手足がブルブル震えるなんて症状は序の口で、進行していくと介護が必要になっていく。症状の段階は五段階あるそうな。
 この映画では、アンはまだ初期症状の段階(第一期)ですが、劇中で登場する患者達の集会の場面では、病状の進行した患者や、介護に疲れきった家族の様子が描写されています。
 特にパーキンソン病は、高確率で認知症を合併するそうで、第四期の奥さんを介護する男性がジェイクに向かって云うセリフはキツい。

 「妻を愛してはいるよ。だが人生をやり直せるなら二度とは御免だ。アドバイスが欲しいって? 悪いことは云わん。今のうちに彼女と別れなさい」

 こういう場面で笑いに逃げず、正面から描写しようとしているのが凄いです。しかし患者達本人が暗いかと云うと、決してそうではない。
 体験談を披露しながら「あんまり身体が震えるんで、抱いていた子供を放り投げちゃったわ。アハハハ」なんて、聞いているこっちが、ソコは笑うとこですかと突っ込みたくなるようなセリフも飛び出します。

 病気は病気としてシリアスなのですが、全体としてはラブコメ。
 セックスに関しても、あっけらかんとしたものです。
 もうアン・ハサウェイの脱ぎっぷりはお見事としか云いようがありません。ポロリなんてもんじゃ無いデスよ。ぶわーっと脱ぎます。眼福だ。
 ただまぁ、アンの脱ぎっぷりがいいとデスね、必然的に相手の方の脱ぎっぷりも潔くなるのが、ちょっとね。
 正直、私はジェイク・ギレンホールの尻なんか見たくなかった。でも、どちらかと云うとジェイクの脱ぎっぷりの方が激しい。何度もジェイクのケツを拝むことになるのが、観ていて辛いデス。
 頼むジェイク、もう全裸で股間を押さえて走ったりしないでくれ(泣)。

 そもそも医者の一家に生まれながら、医大に受からなかったジェイクは製薬会社に勤めることになったワケで、製薬会社の営業マンとして病院に出入りするうちに、患者であるアンと知り合うことになったというのが馴れ初め。
 プレイボーイとしての素質を活かして病院のナース達をたらしこんでは、他社の製品を押しのけて自社製品を売り込みまくる調子の良いチャラ男くんであったのですが……。
 ひょんなことから知り合ったアンと、次第に本気の恋に落ちていく。
 アンの方は、性格的にもサバサバした女性ですが、やがてそれは他人と深い関係になることを恐れているからだと云うのが判ってくる。
 心のつながりなんて必要ない。セフレで充分というスタンスだったのに。
 最初はアンの方が病気を苦にして、しつこくアプローチを仕掛けてくるジェイクを避けていたのに、やがて本気になり始めるとジェイクの方がアンの病状の進行を心配して落ち込んでいくと云う図になる。恋人同士の気持ちがすれ違うというのは、恋愛映画の定番展開ですね。

 ところで、この物語の時代背景は九〇年代後半に設定されています。
 製薬会社の営業マンとして走り回るジェイクが持っているのは、ケータイでもなく、ましてやスマホでもない。ポケベルとは懐かしい。
 そしてジェイクの勤める製薬会社は「ファイザー製薬」という実在の会社。
 実はこのファイザー製薬が、一九九八年に販売を開始した肺動脈性肺高血圧症の治療薬シルデナフィルが、物語のもう一つの柱として大きく扱われています。
 別名バイアグラ。

 恋愛映画の筈だったのに、途中から「如何にしてバイアグラは爆発的に普及していったのか」を描く実録ものになってしまいましたが、これはこれで面白いからいいか。
 まさにジェイクはバイアグラを売り込む為に生まれてきたような男。営業成績はウナギ登り。
 よもやこんな展開になるとは予想外でした。
 実はこの映画には、原作小説があります。ジェイミー・レイディの『涙と笑いの奮闘記 全米セールスNo.1に輝いた〈バイアグラ〉セールスマン』と云うノンフィクション小説。納得しました。
 逆にそんな原作を基にして、よく「難病女性との恋愛」という物語にできたものです。
 素晴らしいぞ、ズウィック監督。

 バイアグラを武器にドクター達と親交を深めて、ついでに自社製品を売り込むジェイク。しかしバイアグラを服用しすぎて、アレが棒のように硬直して病院に駆け込むなんぞというお笑いの場面まであります。
 うーむ。ラブコメと云うか、ただのコメディ映画のような気がしてきました。

 恋愛映画らしからぬ描写は他にもあります。
 アメリカでは医薬品が高額だというのは、マイケル・ムーア監督の『シッコ』で描かれたとおり。そして隣国カナダでは薬が安価。
 だからアンは定期的に近所の御老人達とカナダへのバス・ツアーに出かけていく。目的は医薬品の購入。隣の国まで医薬品を大人買いしに行かねばならないアメリカ社会の病んだ側面がチクチクと風刺されています。

 アンの病気の進行と、ジェイクの栄転がきっかけとなって、一旦は破局する二人ですが、それでドラマが終わる筈が無い。ナンバーワン・バイアグラ・セールスマンの地位を惜しげもなく棒に振って──なんかイヤなナンバーワンだしな──アンのあとを追いかけるジェイク。
 クライマックスは、ジェイクがカナダ国境の検問所でアンに追いつく場面ですね。
 こういうとき、アメリカ人は形振り構わぬと云うか、公衆の面前で愛を叫ぶのがお約束ですなあ。周囲もそれをちゃんと美徳として受け止めてあげるというのがいい。
 恋愛映画の黄金のパターンをきっちり守ってハッピーエンド。

 人生、何が転機となるのか判らない。大事なのは、それが来たときに迷わず掴むことだ──という、ややありふれたオチではありますが、楽しい映画でした。特にアン・ハサウェイの大胆演技と、ジェイク・ギレンホールのバイアグラ・ネタが。
 笑いながらも、ちょっと真剣になれます。

 ところで、医者一家であるジェイクの家族として、ジョージ・シーガルがパパ役で出演されていました。チョイ役ではありますが、お元気そうで何よりです。




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