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2009年2月28日土曜日

ディファイアンス

(defiance)

実はエドワード・ズウィック監督作品をよく観ているくせに、監督自身の名前が印象に残らないとはどうしたことだ。『戦火の勇気』『マーシャル・ロー』『ラスト・サムライ』『ブラッド・ダイヤモンド』……。いや、ちゃんと観ているんですけどね。
世間的にも、作品や主演俳優は有名になれど、監督の名前はあまり知られていないような気がする。

これもまたダニエル・クレイグの名前ばかり前に出ているような。
まぁ、007で売れてますからね。宣伝がそっちに偏るのも無理はないか。

第二次大戦秘話。実話に基づく物語である。
これまで第二次大戦当時のユダヤ人と云うと、弾圧され、ホロコーストの犠牲になり、社会的弱者であるというイメージばかりが強調されてきましたが、実際にはそればかりでもなかったと云う描写が興味深い。
この物語のビエルスキ兄弟のように、銃を取ってパルチザンとして武力で抵抗し続けたユダヤ人もいたのである。

ユダヤ人によるユダヤ人自身の救済の物語。
ダニエル・クレイグはビエルスキ三兄弟の次兄トゥヴィアの役。長兄ズシュは積極的に赤軍に協力して武力抵抗を続ける道を選ぶが、次兄はどちらかと云うと難民救済を目的とし、ベラルーシ山中に難民キャンプを建設する。
前半の兄弟同士で助け合って生きていくだけで精一杯だった状態から、なし崩し的にユダヤ人狩りから逃れてきた人たちと山中で出会い、人がよいのか見捨てることが出来ず、どんどん人数が膨れあがっていく過程が、笑える(いや笑い事ではないか)。
ドイツ軍の山狩りを逃れ、キャンプも転々と移動し続け、更に各地のゲットーからの難民脱出も支援し、ビエルスキ・パルチザンは一大組織として成長していく。
そして人数が増えれば食料調達も難しくなり、様々な集団内部での軋轢に頭を悩ませるようになり、不平不満の調停にヘトヘトに疲れていくダニエル・クレイグが可哀想というか。助けてあげているのに人から恨まれる、という境遇に「人間の身勝手さ」がよく現れています。

パルチザンとしてはかなり有名だったそうですが、聞いたことがない。
クリント・イーストウッドの『父親たちの星条旗』の中にも「得意げに戦争体験を語るのは大抵、後方にいた人たちばかりだ。過酷な体験をした人は、逆に多くを語りたがらない」という下りがありますが、これもまたそういうことなのか。
この逸話も、当事者であるビエルスキ兄弟が全員亡くなってから、ようやくかつての同志達が語り始めて知られるようになったとか。

まぁ、ビエルスキ兄弟も聖人君子という訳では決して無く、ダニエル・クレイグは過酷な選択を強いられ、時には内部分裂の危機を回避する為に有無を云わさぬ処刑という手段まで行使している。
そんなことをしてしまえば自分から手柄を誇るかのような自慢話は出来ないのも道理ですなあ。それで助かった人からは感謝されるでしょうが、問答無用に身内を処刑された人からは恨まれる。
極限状態でのリーダーの資質が問われると云うか、そんなときのリーダーはまったく損な役回りである。

ユダヤ人の難民を引き連れて移動し続けるサバイバル生活に、聖書のモーゼと重ね合わせるかのような言及もありますが、ダニエル・クレイグは最後まで等身大の人間として描かれています。
でもズウィック監督が製作前に当時の生存者にリサーチしたら、ひとりは「トゥヴィアは本当は人間ではなかった。天から遣わされた御使いだった」と大真面目に証言した人がいたとか(爆)。伝説になるって怖いなあ。

実話に基づく渋い物語なのであまり浮いたエピソードもないし、出てくるのはむさ苦しい中年野郎ばかり。長兄ズシュがリーヴ・シュレイバー、末弟アザエルがジェイミー・ベル。
武闘専門の長兄、色恋専門の末弟というような役割分担か。次兄が一番損だわ。
しかし末弟のジェイミー・ベルも『リトル・ダンサー』の頃の面影がまったくない──という話は『ジャンパー』の時にも書いたか(笑)。

クライマックスのドイツ軍の包囲を突破する場面は、ちょっとフィクションぽいが──万事休すの状況に、長兄が赤軍同志を引き連れて駆けつける(笑)──概ね実話で、ラストにはキャラクター達のその後が字幕で解説される。
終戦時にはビエルスキ・パルチザンは千二百人を超え、難民キャンプには学校や病院まで出来ていたというから大したものです。


●余談
ユダヤ人救済というと、日本にも杉原千畝がいますが、これはハリウッドとかで映画化はされないのかねえ。TVドラマじゃなくて邦画として製作すればいいのに。


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