久々の東映オリジナル劇場用作品であるという触れ込みでした。確かに「プリキュア」とか「ONE PIECE」とかの、TVアニメの劇場版化ではないか。でも昨年、東映は『手塚治虫のブッダ/赤い砂漠よ!美しく』(2011年)なんぞという代物をブチかましてくれたことを、私は忘れておりませんぞ。今年もまたやるのか。
今度は大丈夫なのかな──と、観に行く前はかなり及び腰でありました。ええ、「♪私もあなたも恐がりの物好き♪」です。うーにゃー。
しかし結論から申し上げると、悪くない。非常にノスタルジックな雰囲気の漂う、ファンタジーなアニメでありました。よく出来ていると思います。
でも、あの「キャラクターの作画」は好みの分かれるところでしょうか。ストーリーは良くても、「あの絵」に拒否反応を示す方がいたとしても、それは仕方ないですかねえ。
イマドキのアニメにしては思い切った手法だと思います。かなりアート系の方に寄った作画になっていて、深夜の萌えアニメを見慣れた眼にはかなり奇異に映りました。
慣れてしまえば、問題は無いのですが。
背景となる山々や、谷川の風景美術は写実的で緻密で美しいのに、そこに登場する人物のデッサンが妙に狂っているように見受けられました。故意にやっているのでしょう。近景と遠景で人物の描き方が全然違うし。
鉛筆を使った輪郭線も、太くなったり細くなったり、途切れてしまったりします。多分、一枚だけ止めた絵を抜き出してみると、不自然極まりないような作画でしょうが、動いていれば(そして慣れてしまえば)それほど気にはなりませんです。
とは云え、クライマックスの場面は担当したアニメーターの個性が炸裂しまくり、その前後の場面と全然絵柄が異なります。ストーリーは盛り上がっているし、迫力もあるのはいいのですが、そこだけ別の映画のように浮いて見えるのは如何なものか。まさにアートなアニメです。
こういうアニメもあるのだなあと、ひとつ勉強した気分デス。
また一切のデジタル処理を廃した画面は、ちょっと新鮮でした。「雨が降る」シーンでも、「光が差し込む」シーンでも、すべて手描きですよ。昔のアニメはみんなこんな感じでした。
と云うか、昔は手描きである不自然さを隠そうと、殊更に細く、細かく描いていたような気がするのですが、本作では堂々と筆のタッチが判るくらいに「太い雨の筋」や「ムラのある光線」が描かれております。
それを古臭いと取るか、新しい試みと取るかは観ている側の判断ですね。
これはある少年が過ごしたひと夏の物語。
交通事故で父を亡くした少年ユウタは、小学校六年生の夏休みに、父と昆虫採集をした思い出の山に一人でやって来る。そこにはダム湖があり、湖の底には蛍の名所であった村が沈んでいると云う。
山中でユウタは不思議な老人と出会う。喉の渇きを訴える老人に飲み物を分け与えたユウタは、その後に突然発生した豪雨に足をすくわれ遭難しかけてしまうが、不思議な老人の力で一命を取り留める。
そしてユウタは、ダム建設前の村にタイムスリップしていた。時に昭和五三年(1978年)。
元の時代については明言されておりませぬが、村の少年と流行りの特撮番組の話題になるのが手掛かりになります。
「俺、アカレンジャーが好き。お前は?」
「……タイムレンジャー」
「なんだそれ?」
そうか。『未来戦隊タイムレンジャー』を知っていると云うことは、ユウタくんは平成十二年(2000年)以後の夏からタイムスリップしたのか。さすが東映のアニメ。
しかしこのスーパー戦隊時代判定法は『海賊戦隊ゴーカイジャー』以降は不確かなものになってしまいましたですね。うちのムスメときたら自分が生まれる前の『魔法戦隊マジレンジャー』が気に入ってしまい……って、これは全然関係ないハナシでした(げふんげふん)。
原作の小説は作者個人のウェブサイトで、平成十六年(2004年)から一年半ほどかけて連載されたのだそうな。その後、ネットの投票サイトで上位となり、人気を博し、書籍出版されております(アルファポリス文庫)。これが処女作とな。不明にして存じませんでした。
今では文庫化もされて累計四〇万部を突破しているとか。雑誌等を介さずにネットから直接広まって出版、映画化というルートも、もう珍しいものでは無くなりましたですね。
タイムスリップなんぞという現象が描かれるところを見ると、SFなのかと思ってしまうのですが、当節は最早タイムスリップ如きだけではSFとは呼ばれない──と云うのは『テルマエ・ロマエ』(2012年)の時にも感じたことです。
普通の作家が、普通にタイムスリップを題材にとっても、特に奇異ではない御時世です。
だから時間を遡ることについては、特に理由はありません。
「蛍じい」と名乗る不思議な老人──山の神様か──の力で助けられ、どういう理屈でか過去の世界に送られる。現代に戻る為には、ある程度の時間経過が必要であると云う理屈で、一ヶ月我慢すれば元の世界に戻してやるから心配するなと、老人は云う。
最初から帰還を保証されたタイムトラベルであり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)のように「帰還できるかどうかハラハラする」ような展開にはなりません。
同様に、村で友達になった男の子が、実は「少年時代の父親だった」という、タイムパラドックスな展開もなし(ちょっと期待したのに)。これは時間テーマSFではないのです。
村に滞在中は、村人の記憶を操作して「最初に出会った村人の親戚」ということにしてしまうという設定も、NHK少年ドラマシリーズのようなSFぽいフレーバーではあるのですがねえ。
現代の少年が、懐かしの七〇年代でひと夏を過ごすというのが作品の主旨でありますので、その手段とか手続きについては「不思議な老人の技」でスルーです。
その代わり、本題である「昭和の古き良き夏休み」という風情は堪能できます。
川遊び、虫採り、花火大会、村祭り……。
そして沢の上を乱舞する蛍の大群。実に幻想的な光景です(蛍の描く光の軌跡も手描き)。
何となくプレイステーションのゲームソフト『ぼくのなつやすみ』なんてのを思い出しました。
都会では──あるいは二一世紀の現代では──味わえない様々な体験を重ねながら、少年が成長していく姿が詩情豊かに描かれます。
来年にはダム建設が始まるので、村の祭りも今年が最後であるとか、村祭りを待たずして都会に引っ越していく友達がいたりして、次第に村から人の姿が消えていくという寂寥感も描かれます。
そして村祭りがクライマックスになると云うのはかなり容易く予想できますね。
想定外だったのは、タイムトラベラーが自分だけでは無かったという設定。実はもう一人、村で親しくなった女の子もまた、蛍じいによって救われ未来から退避してきていたのだ。
だが未来への帰還は、記憶の消去も伴う(お約束な設定ですね)。少年と少女は未来で再び再開の約束を交わすのだが……。
監督は『ONE PIECE』シリーズの宇田鋼之介。脚本は『能登の花ヨメ』(2008年)の国井桂──と云うか、釈由美子版の『修羅雪姫』(2001年)の脚本という方が馴染み深い。
主演のユウタを始めとする子供達は、武井証、木村彩由実、新田海統といった、ほぼ同年代の子役が配役されています。まぁ、それほど悪くはないか。武井証くんは『BALLAD 名もなき恋のうた』(2009年)で、しんちゃんの役だった男の子ですね。
村の大人達にはベテラン声優を配しており、そこは問題なし。蛍じい役は石田太郎、神社の神主に大塚周夫ですし。おばあちゃん役の谷育子も安定しております。
エピローグとして、青年に成長したユウタやその他のキャラが登場します。出番は少ないけど、櫻井孝宏、能登麻美子、中井和哉がドラマの締めくくりを担当してくれます。
記憶は消した筈なのに、それでも──と云うエピローグは、タイムトラベルものの超お約束展開ですね。よしよし、そこは外さなかったか。
全編に流れる松任谷正隆の音楽も素晴らしく、エンディングで流れる主題歌は松任谷由実ですよ。「愛と遠い日の未来へ」はなかなか聴きものです。
『ももへの手紙』(2012年)の主題歌は原由子でしたし、最近のアニメ映画の主題歌は良いものが多いですね。
まぁ、SF者としては細かいところでツッコミたいこともありますが。それを云っちゃうとノスタルジックな良い雰囲気が台無しになっちゃうし、野暮なことは云わないでおきましょう。
タイトルの〈虹色ほたる〉が取って付けたような扱いだったこともナイショです。
ついでにサブタイトルに「永遠の夏休み」も……。たった一回、タイムスリップしてきたくらいで大げさな(だから理詰めで考えちゃダメだって)。
少なくとも「永遠の」と付けるなら、夏休みを一万五千回はループしてからの方がよろしいのでは。そりゃまた別のハナシか(げふんげふん)。
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