2011年6月5日日曜日

手塚治虫のブッダ/赤い砂漠よ! 美しく

(Buddha)

 東映六〇周年記念作品として手塚治虫の漫画をアニメ化というのはいいのですが……。
 なんとも残念な映画になってしまいました。いやもう残念と云う他は無い。

 まず最初から三部作になるのが前提なので、この一本では完結しません。これだけでは『ブッダ』と云うよりも『シッダールタ』と題する方が正しいような気がする。即ち誕生から少年時代(折笠愛)、青年時代(吉岡秀隆)を経て出家するまでが描かれるので。
 だから、まぁ……ドラマとしてかなり中途半端と云わざるを得ない。

 とにかく主役の登場が遅い。誕生前のエピソードがかなり長い。
 別にアシタ仙人(やはり永井一郎か)の師であるゴシャラ様から始めなくてもいいと思われるのですが。
 それにこの第一部だけ観ていると、主役なのは奴隷階級(スードラ)のチャプラである。もう全編チャプラを主役にした方が良かったのに。

 声優として主役級のキャラには有名俳優を揃え、脇役にはベテランのアニメ声優を起用している。私としては危険な博奕のような試みであると思うのですが……。
 しかし今回はかなりいいでしょう。
 なんと云っても主役のチャプラ役が堺雅人なのだから。これが実に素晴らしい。この人は声優として充分にやっていけます。
 チャプラの母親役が吉永小百合。もうこの二人の芝居は違和感がまったく無い。

 シャカ国城下での、惨めな奴隷暮らしから抜け出すべく、たまたま戦場で命を助けた敵国コーサラのブダイ将軍(玄田哲章だ!)に仕え、後に義理の息子となり、武勲をあげて出世していくチャプラ。『ベン・ハー』のチャールトン・ヘストンみたいですねえ。
 しかしスードラ出身であることを隠し、バレたら身の破滅という危うい境遇である。
 そして遂にコーサラ国の大臣の娘マリッカ姫との婚約を果たす一方で、シャカ国に残してきた母親の身を案じ、母を迎えにいく口実としてシャカ国攻略の総大将となる。
 このままチャプラを全編主役にしてチャプラの立身出世物語を続けていく方が、面白いと思うのだがなあ。

 一方でやっと誕生したシッダールタ王子の物語も展開していく。
 どうでもいいが誕生の際に、森の動物達がぞろぞろ集まってくると云うのはライオンキ……じゃなくて『ジャングル大帝』的な定番演出ですな。手塚治虫だし。
 誕生時に母を亡くすも、世界の王になると云う予言を受けたシッダールタは物静かな文系少年となっていくが、父王の期待に添うべく武芸を習い始める。傭兵あがりの将軍バンダカ(藤原啓治だ!)のスパルタ教育に耐えつつ、城下で知り合った盗賊の娘ミゲーラ(水樹奈々ですよー)と恋に落ちる。
 しかし二人の恋は成就することなく、悲恋に終わる。シッダールタは隣国であるマガダ国のヤショーダラ姫(能登麻美子がいいッ)と婚約させられ、ミゲーラは放逐されてしまう。

 このあたりまで、チャプラの立身出世物語とシッダールタの悲恋物語が交互に語られていく展開は、フツーですね。特に破綻はない。
 破綻はないが、一部の声優の配役に問題があり過ぎて、さっぱりドラマが盛り上がらないことも指摘せずばなるまい。
 ナニがひどいと云って、シッダールタの父であるスッドーダナ王がヒドいッ。
 どうして観世清和を起用したのか。能楽師をアニメの声優に起用する理由が判らぬ。
 見事なまでの棒読み台詞。これはあんまりだ(泣)。そもそも芝居の様式が合っていないのでは。
 むしろ息子の観世三郎太の方が子役として頑張っているくらいだ(あくまでも子役としてですが)。シッダールタ少年時代の悪友の一人として登場し、あまり出番は無いのが幸いでした。
 観世清和のおかげで、チャプラのパートで盛り上がっては、シッダールタのパートでシラけて失速することが繰り返される。なんとか出来なかったのか。

 映画はチャプラとシッダールタの物語が交互に語られていく構成なので、やがてこの二人がどこかで出会うのだろうと云う予感はあります。と云うか、出会わなければ嘘でしょう。
 ええ、まあ、出会いはありましたよ。ちょっとだけね。一瞬の邂逅……だけ。
 結局、この二人のドラマは交わることなく平行線で終わってしまうのである。なんじゃそりゃ。

 パンフレットに手塚治虫のインタビューが引用されています。これによると「その時代の色々な人間の生き様も同時並行して描く」ことが狙いだった、とある。それは理解できますが。
 しかし幾ら原作がそうであるからと云って、一本の劇場用長編アニメとして観たときに、これは如何なものか。ほとんど接点のない二つの物語を平行して見せられてもなあ。
 戦場での一瞬の邂逅を経た後は、再びドラマは別々に展開していく。
 スードラ出身であることが露見し、母と再会しながらも、母と共に処刑されるチャプラ。堺雅人の芝居がいい!
 一方、シッダールタは「生・老・病・死」の四苦に悩み、自分を慕うヤショーダラ姫を残して出家を決意する。四門出遊のエピソードはナレーションで省略。いいのか。

 なんかもう、残念感が漂いまくりの映画でした。せっかくの手塚治虫なのに。
 背景美術や音楽(大島ミチルだし)には問題ありません。インド音楽やインド舞踏、時代考証に相当、力を入れているのが逆に勿体ない。
 すべては脚本がスカタンなだけなのに。
 他にも脚本には、色々とツッコミ処が多数あって困りました。

 アシタ仙人は「偉大な王」探索に弟子のナラダッタを派遣しておきながら、シャカ国の王子がそうであると自分で見つけてしまう。その時点でナラダッタを呼び戻せよ。
 ナラダッタはその後、一五年も放置された挙げ句、チャプラの件でアシタ仙人の不興を買って畜生道に堕とされる。アシタ様、そりゃヒド過ぎデス。

 チャプラと友になる少年盗賊タッタ(大谷育江)が、一五年経ってもさっぱり成長していないというのも笑える。キャラによって時間経過が無いとは演出上、如何なものか。

 野望を抱いたままバンダカ(藤原啓治)が戦死するのはいいとしても……。後に仏弟子となるダイバダッタはバンダカの息子なのでは。バンダカに家庭があるなんて描写は無かったぞ。

 それに何より、サブタイトルの「赤い砂漠よ!美しく」の意味が判らん。だって「赤い砂漠」なんて出てこないのに(爆)。
 かろうじて最後の最後で、砂漠がチラっと映りましたけどね。アレがそうなのか?

 ベテラン声優を綺羅星の如く散りばめながら、この為体。泣ける。
 特にヤショーダラ姫にもっと出番が欲しかったッ。能登麻美子なのに勿体ないッ。
 ついでにシッダールタの継母であるパジャーパティ妃が大原さやかなのも勿体ないッ。
 チャプラが死んでしまい堺雅人がもう出演しないんじゃ、観に行く価値が半減デス。その前に第二部は本当に製作されるか危ういものデスが。
 なんせ公開後一週間でシネコンでの上映回数が激減している。そんなに客が入らないのか(入らないのだろう)。

 仏教を題材にしたアニメ映画と云うと、他にもありましたな……。
 〈幸福の科学〉製作の『太陽の法』とか『仏陀再誕』とか。まぁ、あそこまでトンデモ映画にならなかったのは幸いですが(フツーは出来ん)。
 それにしても『仏陀再誕』の方が勝っている点が一つだけある。やはりブッダ役は子安武人に限る。吉岡秀隆も悪くはありませぬが、子安ブッダに勝るもの無し。


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ブッダ全12巻漫画文庫

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