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2013年5月14日火曜日

聖☆おにいさん

(Saint Young Men)

 中村光の同名コミックスの映画化ですが、ほとんど読んだことありませんでした。そう云えば『荒川アンダー ザ ブリッジ』もスルーしております。
 何やら書店のコミックス売り場で『聖☆おにいさん』の単行本が平積みされている光景だけはよく見かけておりましたが(手塚治虫文化賞まで受賞していたのにねえ)。

 〈目覚めた人〉ブッダと、〈神の子〉イエスが、何故か人間界に降臨して、東京都立川市でアパート暮らしすると云う、ナンセンス・コメディです。そんな漫画は日本でなければ描けんよなぁ。それをまた、よくアニメ化できたもんだと感心してしまいます。あまり海外に輸出することまでは考えていないのか。
 宗教ネタで考えるなら、仏教とキリスト教だけ取り上げるのはいいのか。世界三大宗教の最後のひとつ、イスラム教が抜けているではないか、片手落ちだ──と思わないでもありませぬが、イスラム教を取り上げると、とてもヤバいのでやむを得ませんですね。あっちのお方は「画にするだけでも許されない」そうですから。

 そう考えると、マット・ストーンとトレイ・パーカーの風刺アニメ『サウスパーク』は度胸があると云うか、怖いもの知らずと云うか、イエス・キリストと一緒にムハマンドを「黒く塗りつぶして」登場させるという暴挙を犯しておりますが、本作はそこまでアブないことはいたしません。
 安アパートで男三人暮らしと云うのもキツいし。
 しかし海外では「男二人がツルんでいる」だけで、ゲイ疑惑が持ち上がるみたいですし、やはり本作は日本だけで楽しむのがよろしいのですかね(でもイマドキは日本でも、すぐBLになってしまうのかしら)。

 アブなくしようと思えば、いくらでも過激なネタができそうではありますが、本作はそのような展開にはなりません。
 逆に、ここまで人畜無害なアニメになっているのも珍しいと云うか、原作のコミックスには結構、毒のあるギャグもあったと思うのデスが(すいません。ちょっと囓った程度でして)、本作には宗教上のタブーに抵触しそうなブラックなギャグが見受けられませんでした。
 実になんとも、のんびりユルユルした日本の庶民的スローライフが描かれていきます。
 アブないネタは、非常に注意深く取り除かれているように思われます。ちょっとヤリスギに感じられるくらいです。少しはブラックな笑いもあっても良かったと思うのに。

 東京都立川市界隈がリアルに描かれているアニメと云うと、『とある魔術の禁書目録』なんかが思い浮かぶワケですが、本作は近未来SFなんかではありませんので、あまり都会的な背景は登場しません。JR立川駅前周辺や、多摩都市モノレールなんかは描写されません。
 代わりに、立川駅からちょっと離れた「シネマ通り」の商店街や「オニ公園」などの下町的風情の残る景観がリアルに描かれております。あとはJR南武線(あるいは青梅線)か。
 ほんの少し場所を変えるだけで、立川のイメージもガラリと変わりますね。

 主役の二人、ブッダとイエスを演じているのは、星野源と森山未來です。
 映画への出演では、ブッダ役の星野源は『少年メリケンサック』(2009年)や『箱入り息子の恋』(2013年)に、イエス役の森山未來は『苦役列車』(2012年)や『北のカナリアたち』(同年)に出演しておられます。二人とも、TVドラマの方にも多数の出演作がありますが、私の方が片端からスルーしているので、そっちはさっぱり判りません(汗)。

 どちらも本職の声優さんではなく、俳優兼ミュージシャンとか、俳優兼ダンサーだったりする人達です。ただ、だから浮いているというわけではなく、役柄にあった印象です。
 若干、違和感も無いわけではないが、そこがちょっと浮世離れした神様の役としては合っているように思われます。
 それよりも来宮良子のナレーションの方が反則的でしょう。判っていても、淡々とまじめくさった口調で状況説明して笑いを誘っておりました。

 監督は高雄統子。京都アニメーション出身だそうで、本作が劇場用アニメの初監督作品になるようです。
 脚本は実写版『君に届け』(2010年)の根津理香(熊澤尚人との共同脚本)。でも『君に届け』はアニメの方もスルーしております(汗)。
 二人は本作のOVA版(26分)のコンビでもありますね。こちらは原作単行本第八巻特装版(2012年12月発売)に付いていたそうですが未見デス(原作、買ったことないし……)。
 でも多分、劇場版と雰囲気は全く変わってないのではないかと思われます。

 一応、本作は長編アニメーションの体を為しておりますが、内容は各エピソード二〇分ちょいの一話完結式のドラマになっています。
 併せて日本の四季が背景に描かれ、春夏秋冬で四エピソード。計九〇分で二人の一年間の地上生活が描かれるという寸法です。通常のTVシリーズ四話分をまとめて上映しているようなものですね。OVAと併せると全五話になるのでしょうか。
 脇役である周辺の登場人物も共通していますが、各エピソードにあまり繋がりが見られないので、一本の映画と云う感じが希薄だったのが残念なところでした。

 季節の風物詩がきちんと描かれているのはよろしいのですが、原作からのエピソードの取捨選択がやはりユルいのではないかと思われます。
 少なくとも劇場で入場者特典として配布されていた小冊子──『聖☆おにいさん ネ申話 降臨前夜』──に掲載されていたエピソードの方がブラックでしたよ(単行本未収録エピソードだそうな)。
 これには本編の前日譚として、降臨前の天界でのドタバタが描かれております。
 ブッダが下界に降りると聞いた仏弟子アナンダが送別会で哀しみのあまり卒倒して、「キミの入滅からちっとも成長していないねえ」とイエスに評されたり、立川でアパートを借りるに当たって、印鑑登録証明書はどうすればいいのか、バチカンで用意してもらえないかなどと云って、小市民的な問題に神様が頭を悩ますと云うエピソード(これをアニメ化してもらえないかな)。

 イエスがジョニー・デップ似であると女子高生に騒がれ、二一世紀にしてモテキ到来かと浮かれたり、遊園地の絶叫マシンでブッダが恐怖のあまり本物の念仏を唱えたり、徳の高いことを喋ると後光が差す体質なので光が漏れないように必死に隠したりと、ゆるゆるなギャグが続いていきます。
 ユルユルと云えば聞こえはイイが、当たり障りのないギャグなので、あまり声高に笑えるものではありませんねえ。
 ギリギリ宗教的なネタでも、イエスがカナヅチで泳ぐことを嫌がる余り、市民プールの水を割って奇跡を起こしたりする程度です。個人的には「十二月二五日は本当にイエスの誕生日なのか」と疑念を持っているのですが、本作のクリスマス・エピソードではそんなことはおくびにも出さずデス。

 小市民的なスローライフを楽しむストーリーなので、ブッダが妙に所帯じみて節約家だったり、逆にイエスが金銭感覚のあまりない浪費家だったりするギャップから笑いが生じたりしますが、特に宗教とは関係ないです。偉大な宗教的指導者がスーパーの特売に目の色を変えると云うギャップは可笑しいと云えば可笑しいですが。
 一方、イエスの方はブログを立ち上げ、それが評判になって有名ブロガーとして「ネ申」なんぞと呼ばれておりますが、アブナい方向には転がりません。やはり〈神の子〉がネットでアダルトサイトを視るなんてのはやってはイカンのでしょうねえ。
 小ネタのギャグとして、劇中でブッダがシルクスクリーンでTシャツを自作しており、白いTシャツに各々の宗教関連の標語をプリントしているのが、シュールな笑いを生んでおります。ストーリー上の笑いより、こっちの方が面白いかも。

 宗教に関して云えば、実は仏教とキリスト教だけでなく、他の宗教についても言及されております。やはり日本には八百万の神もおわすそうで、神社にお参りに行っておみくじを引くと、日本の神様からメッセージとも受け取れる文言が書かれてあって、お忍びのバカンスであることが他の神様にバレている。
 あらゆる宗教の神様が天界には存在しているらしいと云うのも、宗教に寛容な日本人的世界観であります。

 もっと宗教ネタをブチ込んでもらいたいのに、あまりそういう方向には持っていかず、逆に一般庶民との関わり合いの方が描かれております。しかし近所の小学生とブッダの攻防は、いまいちドラマとして盛り上がりません。
 子供から見るとブッダの額のホクロが押したくて堪らないものらしいと云うのは判りますが、別にそんなことに躍起にならなくても……。
 あと、小学生が「仮面ライダーフォーゼ」のファンらしく、お祭りの屋台で売っているフォーゼのお面を被っていたり、「宇宙キターッ」なんぞとフォーゼのキメ台詞を叫んでいたのも、妙に違和感がありました。こういう作品は、あまり時期を限定するような描写は避けた方がいいのでは。時事ネタはすぐ風化しますし。

 エンドクレジットでは本作の主題歌「ギャグ」が流れます。作詞、作曲、歌っているのもブッダ……じゃなくて星野源。のんびりした歌曲で、作品の内容には合っているように思われました。
 ただ私は本作の予告編で流れた、ブッダとイエスが「諸行無常ッ諸行無常ッ」とロックンロールでシャウトしている歌曲がどこかでかからないものかと期待していたのに、劇中では聴くことが出来なかったのが残念でした。
 サントラCDに収録されている「SYO-GYO-MUJO」(ボーナストラック)がその曲のようですが、あっちの曲の方が面白かったと思うのに……。
 最後まで、何となくハズした感の漂う、ビミョーなコメディでした。




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