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2011年10月27日木曜日

アップルシード XIII (サーティーン)/預言

(APPLESEED XIII)

 毒を食らわば皿まで。
 人もし汝の右の頬をうたば、左をも向けよ(マタイ 5,39)。

 私の中では今年度、一番の残念アニメと云っても過言ではない『アップルシードXIII』の前編「遺言編」に続く後編「預言編」です。全十三話のOVA総集編の後半部分ですね。
 ええ、もう覚悟した上での自爆なので、誰を恨むこともございませんとも。
 まぁ、微かに期待する部分もナキニシモアラズでした。ひょっとして作画はともかく、脚本の方は完成度が高いのでは……。
 そんな淡い期待も、見事に打ち砕かれました。むしろ予想以上のスカタンぶり。
 前編があの出来なのに、よく後編を劇場公開しようという気になったものだと云わざるを得ないです(大人の事情か)。公開劇場数も限られた上に、レイトショーのみという上映形態でしたから、あまり人目には触れないか。

 それで中身の方はと云うと──。
 冒頭に前編のダイジェストが付いている割に、本編でのフォロー無しという不親切設計。
 大型ランドメイト〈ステュムパリデス〉と共に爆発四散した筈のディアネイラが生きていた。どうやって助かったのか。あるいはクローンか、アンドロイドのそっくりさんか──という疑問は華麗にスルー。
 前編での「多発するバイオロイドの自殺事件」についても、綺麗さっぱりスルー。あの事件は一体、何だったのか。どのようにして自殺を誘発しているのか(或いは自殺に見せかけた殺人なのか)、描かれていないので不明なまま。

 なーんとなく見えてくるのは、どの事件にもディアの恋人だった英雄アルケイデスの遺伝子が絡んでくるということか。亡くなった恋人の復讐を誓い、亡き恋人の遺伝子を勝手に使用しているバイオロイド共は皆殺しにしてやる──というディアの執念が伺えるのですけどね。
 どうにも恨む方向が筋違いなのではと云う感が拭えず、ディアの動機が理解できません。
 〈アルゴノーツ〉の指導者だったアルケイデスは、〈ポセイドン〉からの独立を宣言した為に、空爆に巻き込まれて命を落とした。直接の原因となったのは、ディアが〈ポセイドン〉から連れて来たバイオロイドだった(このバイオロイドにアルケイデスの遺伝子が使用されていた)。ディアも知らなかったが、〈ポセイドン〉はバイオロイドを空爆の指標として利用したのである。
 それが原因でディアはバイオロイドを恨んでいる……。

 えーと。その前に空爆を実施した〈ポセイドン〉を恨むべきなのでは? あなた、〈ポセイドン〉に裏切られたんですよ?
 それなのに、何故に〈ポセンドン〉の手先となって、テロ行為を働くのか理解できません。
 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、という心情も理解できなくは無いけれど、それにしても復讐の優先順位がヘンなのでは……。

 一体、バイオロイドに何の罪があるのか。バイオロイドも被害者でしょう。
 しかも現在のバイオロイドの仕様には、亡くなった恋人の遺伝子が使われている──となれば、むしろ人類の進歩と幸福を願ったアルケイデスの遺志は受け継がれていると見るべきなのでは。
 云いたくないけど、脚本が破綻していると思います。

 むしろ作画の方が、ちょっとだけ向上しているように見受けられました。
 幾つかのエピソードには、なかなか興味深いものもあったのですが。
 今回、物語も後編になって「箱船計画」というプロジェクトが語られます。前編の時には大した伏線も無かったのに。火星を拠点に、外惑星への植民開拓を行おうという、なんか壮大な人類播種計画。
 〈オリュンポス〉はその為に巨大な宇宙船を建造し、乗組員の選抜も進行させていた。
 問題は宇宙船の船長の人選であるが、計画に適正を持つバイオロイドが数人おり、どうもディアの進めているテロ計画の標的となっているらしい(アルケイデス遺伝子の保有者だから)。
 正式な〈ポセイドン〉からの外交官であるディアに手を出すことは出来ず、デュナン達は船長候補となるバイオロイドを要人として警護することになる。

 おそらくOVAでも数話かけて描かれていくのであろうエピソードが本作のメイン。標的となったバイオロイド達の個人的背景や、厳重な警護の隙を狙われ、一人また一人と巧妙に暗殺されていく過程がスリリングに描かれていく──と云うか、そう描きたいのかなぁと推察されます。
 総じて各エピソードの編集が雑です。前編よりもマシになったとは云え、バンクで同じシーンばかり映すのは止めて戴きたい。

 脚本が雑だと思うのは、例えば──候補者のひとりテセウス議員の転落死について。
 巧妙に仕組まれているのだと思われますが、事故誘発の仕組みが判りません。全くの説明不足(蝶を操作するだけでそんなに都合良くいくものですかね?)。
 また、次なる候補者である老彫刻家のエピソード。前編のときから何度も場面に挿入される「ヘラクレスの十二の功業」のモニュメントの作者が、この彫刻家であることが判りますが、どうにも本作のモチーフとして言及する意味が判らない。
 ヘラクレスの幼名がアルケイデスであるとか、劇中に登場する様々なネーミングの由来もヘラクレス絡みのギリシャ神話からだとか云うのも、単なるトリビアだし(しかもアルゴ船の船長はイアソンだよなぁ……)。
 〈オリュンポス〉には人間の芸術家は存在しないという理由や、バイオロイドでありながら加齢処理された特殊な存在である老彫刻家の過去は、割と興味深かったのですが。

 よく判らないのは、ヒトミが立法院から預かってきたという赤ん坊の存在ですねえ。アルケイデス遺伝子を受け継いでいることが一目瞭然。この赤ん坊もまた「箱船計画」の乗員として選抜されていると云うのですが、わざわざ赤ん坊を宇宙船に乗せる意味が不明です。凍結受精卵のまま出発させて、目的の惑星に到着したのちに誕生させればいいのでは……。
 大体、航海中の育児は誰がするのだ。劇中には他の乗組員の描写など無かった筈だし、いるならいるで最初からその担当者に育児させれば良かったのでは。
 どうにもいろいろな部分で説明不足で、これでは脚本が手抜きであると云わざるを得ません。それともこれは総集編だからで、OVA本編では補完されているのか(空しい期待を抱くのはいい加減にしろ、俺)。

 クライマックスの〈アルゴノーツ〉でのランドメイト戦も、アクション演出自体は無難ですが、背景説明が不明瞭で「何故そんなところで戦闘しなけりゃならぬのか」判りません。
 判らんついでにもうひとつ触れておきたい。藤原啓治が演じるレオン教授の最期について。
 結局、ディアは〈ポセイドン〉に利用されており、教授がディアを操っていたというのは、いいでしょう。ディアが戦闘に破れて死亡した後、〈ポセンドン〉に経過報告を送信し、勝ち誇った末に「うっかりアジトの自爆装置を起動させて」しまい爆死……ナニソレ?
 物凄く好意的に解釈すれば、元からディアは計画完遂時には自ら命を絶つ覚悟であり、計画の進捗を表示するオブジェに自爆装置を連動させていたと推理できるのですが、本当にこれは判りづらい。
 そもそも何故、そんなヘンテコなオブジェを使うのか、ディアの美的センスを疑う。

 ラストでは、デュナンがブリアリオスに「結婚しようか」なんて云い出すのですが、おそらく進展しないのでしょう。よくあるラブコメなオチですから。
 総じてこの映画は、コアな原作ファンにもお勧めいたしかねます。
 「俺はこんな駄作を自腹切って劇場で鑑賞した」という自虐ネタを披露したい方のみ、自己責任で御願いいたします(泣)。




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