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2011年10月28日金曜日

はやぶさ/HAYABUSA

(HAYABUSA)

 小惑星探査機〈はやぶさ〉の帰還以来、三本も映画化企画が持ち上がるというのが凄いですね。どんだけ人気があるのか。
 プラネタリウムで上映された科学ドキュメンタリ『はやぶさ HAYABUSA BACK TO THE EARTH』も劇場公開されましたし、それも入れると四本か。
 本作『はやぶさ/HAYABUSA』(東宝)は、ドラマとしてはその第一弾。来春には『はやぶさ/遙かなる帰還』(東映)と『おかえり、はやぶさ』(松竹)が公開予定で控えております。
 どちらかと云うと、私は来春公開作品の方に期待しておるのですが、同一題材の映画として比較する為には、やはりこっちも観ておかねばならないかと思い直した次第デス。

 だって、ねえ。監督は堤幸彦ですから……。
 もう『トリック』とか『サイレン』とか『二〇世紀少年』とか、私が観る堤幸彦監督作品はハズレばっかりなので(そもそもアタリがあるのかどうか)、いい加減、学習機能を働かせて観に行くのを控えよう──と思っていたのに、また観てしまいました(汗)。
 しかし結論から云うと、実はそれほど酷くはなかった。予想していたハードルがずっと低かったからと云うのもあるかも知れませぬが。
 悪くない出来ではありました。

 良くも悪くも堤幸彦の映画だなあという部分はあるのですが。
 その最たるものは、用語解説を字幕で入れてしまうという演出。非常に判りやすく、素人が観るにはあった方がいいのかも知れません。
 でもそのお陰で、なんか映画というよりもTVドラマと云うか、バラエティ番組での再現ドラマを観ているような気になったのも事実でして。

 この映画は再現ドラマとしては、非常に巧く作られていると思います。相模原の宇宙科学研究所でのロケは非常にリアルです。オーストラリアでのロケもちゃんとやっていますし。
 しかし逆に云うと、再現性は非常に高いが、それだけとも云えるのが辛い部分ですかね。
 ぶっちゃけ竹内結子を主人公とした創作ドラマの部分が、いまいち……。竹内結子自身の演技とかには問題は無いのですが。やっぱり脚本かしら。
 もう架空のキャラクターなんぞ登場させず、実在の人物だけでドラマにした方が良かったような気もします。そうすると男ばかり目立ってしまうからイカンのか。

 〈はやぶさ〉のミッションについて、計画承認までの経緯もきちんと描かれていたと云うのが興味深いです。また、映画のかなりの部分が打ち上げ前の準備段階の描写に費やされています。
 打ち上げの日程が変更になるたびに、九州、四国の各県の漁業組合への説明会やら何やらに出かけていかねばならない対外協力室長(西田敏行)の御苦労には並々ならぬものを感じました。やはり日本人はノミュニケーションが基本なのか。
 更には日本の宇宙開発の歴史的な解説まで一通りこなしてくれるので、これはこれでとても判りやすい上に、手っ取り早く〈はやぶさ〉についての知識を得ることが出来るので、非常にリーズナブルと申せましょう。
 要するに入門書ですね。広く浅く解説してくれます。
 したがって一部は天文関係の学習教材のようでもあります。
 なかなか人間ドラマと科学的解説を両立させるのは難しそうです。『ライトスタッフ』みたいには行かないか。

 登場人物も非常に多いので──関係部署のキャラも多いし、一般人のキャラも多いです──個々人の描写が必然的に少なくなるというのは仕方ありません。
 この映画は基本的に、宇宙科学研究所対外協力室をメインに据えて描いているので、それ以外の部署の人物はあまり深く描写されません。だから対外協力室の西田敏行と竹内結子が主演なワケで。竹内結子と接点のある人物として、招聘研究員の役で高嶋政宏が割と出番の多かったキャラと申せましょう。
 だから〈はやぶさ〉による探査計画で一番有名な川口淳一郎プロジェクトマネージャーも──劇中では「川渕マネージャー」と呼ばれている──、あまり登場しません。
 佐野史郎、山本耕史、鶴見辰吾あたりには、もっと出番が欲しかったデス。
 特に佐野史郎は実在の川口氏にあまりにも似ていていました。

 総じて広報関係者からの視点と、世間一般の反応等が中心に描かれるので、JAXAの技術職の皆さんは脇に回されてしまった感があります。
 『アポロ13』のように、続発するトラブルに技術スタッフが知恵を絞って対応する場面とかも、もっと観たかったのですが。そういうのは後続の作品で描かれるのでしょうか。

 映画のキャッチコピーが「それでも君は、帰ってきた」とか「あきらめない勇気を与えてくれたのは、君」とかあるように、かなり〈はやぶさ〉が擬人化されて描写されているというのも特徴的ですか。
 竹内結子が広報の為に作ったキャラ「はやぶさ君」の声として、竹内結子が〈はやぶさ〉を代弁するような台詞を喋ってくれるのは良い感じです。
 JAXAの方針として、「擬人化は男性」というのがあるみたいですが、竹内結子の声なので少年と云うよりも、一人称が「僕」である少女のようでもあります。ここはもう脳内変換して、〈はやぶさ〉はボク娘であると勝手に解釈するのが宜しいのでしょう。多分、多くのファンはそうしていると……思う(汗)。

 擬人化された〈はやぶさ〉が喋ってくれるので、プラネタリウム版のドキュメンタリで感じた不満は解消されました。
 しかしやはり辛いのは小惑星イトカワでのトラブルについては、想像に頼る他はないという点ですかね。擬人化されてもやはり判らないものは判らない。
 〈はやぶさ〉はすべてCGで描かれていますが、半ばフィクションであるからと云って、想像を逞しくし過ぎるのもイカンか。なかなかさじ加減の難しい部分ではあります。

 そして地球への帰還。カプセルの射出と大気圏突入。
 まぁ、何度も観た映像ですし、判ってはいるのですが、やはり観ていてウルウルしてしまうのはやむを得ません。ウルウルしたくて見に行く人もおられたでしょう。
 私が見に行ったのは、公開後かなり経過してからなので、割と劇場内も空いておりましたが、やはり場内では洟をすする音が聞こえました。

 でもこの映画で、私が一番印象的なのは糸川博士について言及された場面です。
 日本の宇宙開発黎明期を支えた博士は、決して「失敗」という言葉を使わなかった。必ず「成果」という言葉を用いた。
 どんな失敗も、それは次なる実験を成功に導く為の成果なのであるという信念に基づくものだそうで、これが一番ためになるエピソードだなあと感じ入りました。

 エンドクレジットは、初期のペンシル型ロケット、懐かしの〈おおすみ〉に始まり、〈かぐや〉、〈はやぶさ〉、〈あかつき〉、〈イカロス〉といった最新の探査機までが順に紹介されていくという趣向で、これまた非常に学習教材的な演出でしたが、興味深い。

 まぁ、悪くない。うーむ。正面切ってほめるには、ちょっと物足りなくもあったので、こんな云い方になってしまいます。堤幸彦にしては、悪くないじゃないイカ。


はやぶさ-HAYABUSA サウンド・トラック
はやぶさ/HAYABUSA (角川文庫)
小惑星探査機 はやぶさ HAYABUSA BACK TO THE EARTH 帰還バージョン DVD版

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