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2012年2月16日木曜日

はやぶさ/遙かなる帰還

(HAYABUSA)

 日本の映画会社がこぞって制作している三本の「はやぶさ映画」全制覇を目論む私としては、見逃すワケには参りません。本作はその二番手。東映六〇周年記念作品だそうです。
 西田敏行が主演した『はやぶさ/HAYABUSA』は、主に広報関係者から見た物語でしたが、今回はエンジニア視点の物語になっています。
 監督は瀧本智行、脚本は西岡琢也。

 主役の川口マネージャー役──劇中では「山口」になっていますが──は日本の宝、渡辺謙です(人間国宝に指定してくれ!)。これに江口洋介、吉岡秀隆、山崎努らが競演しています。
 〈西田はやぶさ〉は割と広く浅く、関係部署について紹介してくれましたが、本作〈渡辺はやぶさ〉はイオン・エンジンに焦点を当てて二人のエンジニア──宇宙研の江口洋介と、NEC社員の吉岡秀隆──の友情と葛藤を描こうという趣向です。
 加えて東京下町の小さな町工場の社長として山崎努が登場し、日本の科学技術の最先端は、これら名も無き町工場の職人達によって支えられているのであると紹介してくれます。判り易い構図ですね。

 ファーストシーンは、基盤の上に小さく光るダイオードのアップからです。もちろん、はやぶさの物語を何度も繰り返し見聞きした我々には、即座に判ります。
 これこそが「あのダイオード」なのであると(笑)。
 次いでカメラが引いていくと、基盤上の様々な回路やそれを取り囲む機器類が見えてくる。三軸あるリアクションホイールや静かに稼働の時を待つイオン・エンジン等々。
 はやぶさの内部機構をざっくり紹介しながら、やがてそのままワンカットで、はやぶさの全体像が見えてくるまで引いていくオープニングにはワクワクしました。CGの使い方が巧いです。

 〈渡辺はやぶさ〉はサンプル・リターン計画の経緯やら、打ち上げ前の段取りやらの紹介は簡略化して、まずは豪快なロケット発射シーンから始まります。NASAの十分の一の予算でやりくりせざるを得ず、老朽化した備品の描写が泣けます。
 それでもNASAから派遣された科学者に胸を張って説明する渡辺謙。
 なんかもう、大気圏突入のみならず、出発の時点からウルウルする癖がついてしまいました。もはや条件反射か。

 「長い旅の始まりですよ」

 素人にも判るように夏川結衣が新聞記者の役で登場し、各方面にインタビューしながら、記事の内容をナレーションとして利用しようと云う演出はなかなか巧いです。実名で朝日新聞社が登場しております。
 加えて夏川結衣が、実は山崎努の娘であるという設定にしてあるので、宇宙研と下町の町工場の描写がつながりやすくなっています。

 はやぶさの往路は描写も軽く流してスウィングバイです。割と早い段階でイトカワに接近。
 リアクションホイールの故障も、代替案でカバー。渡辺謙に「できるんでしょ?」と云われたらクリアしないわけにはいきますまい。
 実務担当者の立場からすれば、そんなに簡単に出来るワザじゃないんだよと云いたくなるのでしょうが。このあたりに実務職と管理職の立場の違いが感じられます。
 「あのひとに “動きません、出来ません” って降参したくない」と技術者達が数々の難関をクリアしていくのですが、どうも渡辺謙は故意に職員から反感を買うような言動をとって、現場を発憤させているように思えます。人の使い方が巧いのか。

 そのような性格的な描写はともかくとして、本作の渡辺謙はその立ち居振る舞いが、驚くほど実在のプロジェクトマネージャー川口淳一郎氏に似ています。鑑賞前は、あんまり似てないのではないかと思っておりましたが、メイクと演技でかなり歩み寄っている。俳優の力量を感じます。
 〈西田はやぶさ〉の佐野史郎は文句なしに激似でしたが、こちらもなかなか。
 軌道計算をする渡辺謙の厳しい表情が印象的です。

 そして発生する様々なトラブル。タッチダウンの失敗、燃料漏れ、姿勢制御問題、そして通信途絶。次から次へよくもまあ。
 NASAのアンテナ使用をめぐって交渉する渡辺謙の姿にも感心しました。実にタフな交渉シーンです。
 「NASAがはやぶさ捜索にアンテナを使わせてくれないなら、我々も人類初の小惑星サンプルを提供できかねます」とは、また大きく出たものデス。綱渡りだなあ。
 そして対外的に虚勢を張っていても、遂に(こっそりと)神社に神頼みに行く。沈着冷静で論理を重んじる人だった筈なのに、もはやそこまで追い詰められていたか。
 この神社で偶然、山崎努と顔を合わせ、二人して空を見上げるシーンがいい感じです。
 「先生、はやぶさは必ず帰ってくるよ」

 劇中で山崎努が何度か繰り返す台詞──「下ばかり見ていちゃ、何も判らんぞ。たまには顔を上げて上を見ろ」──に、現代日本を励まそうというメッセージを感じます。

 山崎努の言葉通り、微かな信号が受信され、「今までロストした探査機で見つかったものは無い」というジンクスが覆される。しかしまだまだ問題山積。
 ドラマの中で最も扱いの大きい問題が、イオン・エンジンのクロス運転。これを決断する場面が、先行する〈西田はやぶさ〉と正反対だったのが非常に興味深いです。同じ題材でも、ドラマを盛り上げる方向が違うと、こうまで変わるか。

 〈西田はやぶさ〉では、推力を得る妙案として「その手があったか!」的な扱いで、かなり楽々と地球帰還を実現させておりました。クロス運転を可能にしたバイパスダイオードも、「転ばぬ先の杖」というユーモラスな扱い。
 しかし本作〈渡辺はやぶさ〉ではまるで違います。シリアスです。
 イオン・エンジン一筋に打ち込んできた吉岡秀隆は、バイパスダイオードを設置はしたが、本来の運用手段ではないし、そもそも設置にも反対だったとクロス運転に否定的見解を示す。無茶な運転で発生する余剰マイクロ波が機体内部に影響を与え、全損の怖れすらあると云う。
 ここに研究者としての江口洋介と、メーカーを代表する吉岡秀隆の対立が生じる。
 はやぶさの帰還を最優先に考える江口に対して、吉岡はイオン・エンジンの有用性を証明し、今後の普及に努めることを考えている。
 「そんな運用をしたエンジンを誰が買いますか?」と云う台詞が厳しい。
 するとそれまで黙って江口と吉岡の言い分を聞いていた渡辺謙が決断を下す。

 「やりましょう。全責任は私が取ります。どんな批判にも耐えられるが、リスクから逃げたら一生、後悔します」

 しかしそこから先がまた地道で単調な調整作業が続きます。はやぶさの地球帰還とはまさに手探りで崖っぷちを渡っていくような危うい状態の連続だったのですね。映画は割と時間軸を圧縮しておりますので、数ヶ月の出来事もあっさり描写されますが、ホントはこれの何倍もの苦労があったのでしょう。
 そして遂に地球への帰還、大気圏突入と相成るわけですが、このあたりはもうリアルなCG描写に泣けてきます。またか。どうしてもウルウルしてしまう。
 カプセル分離後に反転する機体。カメラのレンズに映り込む地球。最後に撮った映像はもはやアートの域に達しております。

 エンディングは〈西田はやぶさ〉と同じく、日本の宇宙開発の歴史をスライドショー式に紹介してくれる演出です。糸川博士の姿も見ることが出来ます。
 実験中に撮られた様々なスナップ写真、世相を映す報道写真を交えて、現在に至る歴史を感じさせてくれるのですが、その中の一枚に「とある町工場の中で撮られた写真」があったのが印象的でした。

 ところで劇中で吉岡秀隆が心配していた件はどうなったのでしょう。
 NEC製イオン・エンジンは外国からも受注できたりとかしたのでしょうか。是非、売れて欲しいデス。

● 余談
 さて、残るは松竹の『おかえり、はやぶさ』ですが、あちらは藤原竜也が主演だそうで、これまた楽しみデス。〈藤原はやぶさ〉は果たして〈西田はやぶさ〉や〈渡辺はやぶさ〉に対抗できるのでしょうか。


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