今年一番の傑作ミステリー映画であると云いたいが、リメイク版だし……。それ程にオリジナル版も良かったわけで、ぶっちゃけ何故リメイクする必要があったのかよく判りませんです。
しかもほとんどオリジナル版と変わりがない。背景の設定も同じなら、結末も同じ。比較して鑑賞し、僅かな差異を見つけて楽しむくらいしか「両方観る」ことに意味ないのではと思えるほどです。
本作とオリジナル版の違いは、俳優が別人であることと、台詞が英語になっていることくらいと云っていいでしょう(短い挨拶程度はスウェーデン語ですが)。物語の舞台もスウェーデンのまま。
ここまで一緒でいいのかしら。あまりにも芸が無いと云うべきなのか、見事に再現したと云うべきなのか。
物語はホントにそのまんまです。
実業家ヴェンネルストレムの不正行為を暴こうとした月刊誌〈ミレニアム〉の編集者ミカエルは、逆にヴェンネルストレムから名誉毀損で告訴され敗訴してしまう。失意の彼のもとに、ある大財閥会長から失踪事件の調査依頼が舞い込む。会長の姪ハリエットは、四〇年前に失踪したきりで死体も発見されていない。恐らく殺されており、その犯人は親族の中にいる筈だ。
ヴェンネルストレムに一矢報いるネタの提供をエサにされたミカエルは事件の調査を開始するが、失踪事件は未解決の連続猟奇殺人事件と関係しており、行き詰まったミカエルは天才ハッカー、リスベットに協力を求める……。
物語の構成上、前半はミカエルとリスベットの接点がほとんど無く、単独で調査を行うミカエルと、悪質な後見人に対するリスベットのリベンジがほぼ平行して描かれていきます。
リスベットの生い立ちと境遇は、事件の捜査には直接関係ないのですが、リメイクに際してこの部分が省略されなくて本当に良かったです。おかげでオリジナル版と同じく一五〇分越えの長尺になりましたが、ここを省略しては作品の魅力が半減ですからね。
一応、オリジナル版の方も観ておりますので、やはり比較したくなるのはやむを得ない。
本作の主演はミカエル・ニクヴィストとノオミ・ラパスに代わりまして、ダニエル・クレイグとルーニー・マーラ。
二人ともオリジナル版のキャラクターより、ちょっとスタイリッシュになっています。特にクレイグが演じた所為でミカエルがカッコ良くなりすぎでしょう。無精髭を生やしても眼光が鋭いので、とても「疲れたオヤジ」には見えません。
ルーニー・マーラはもう『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)の女子大生役とは打って変わってアナーキーでパンクなリスベット役を好演しております。これは見事です。ノオミ・ラパスの演じたリスベットと甲乙付け難い。今年(第八四回・2012年)のアカデミー賞主演女優賞にノミネートにされているのもむべなるかな。
他には『人生はビギナーズ』に出演していたクリストファー・プラマーとゴラン・ヴィシュニックが本作にも出演しております。あっちじゃゲイの恋人同士でしたが、こちらでは直接関係する役柄では無いですけど(特にヴィシュニックは別人デスわ)。
ステラン・スカルスガルドがマルティン役で登場してくれたときにはニヤリとしてしまいました。やっぱりスウェーデン出身だし、北欧絡みのハリウッド映画には呼ばれるんですかね。『マイティ・ソー』(2011年)でもお見かけしました。善人でも悪人でも演じられるのは得だなぁ。
監督はデヴィッド・フィンチャー。近年、『ベンジャミン・バトン/数奇な人生』(2008年)や『ソーシャル・ネットワーク』と続けて傑作をモノにしておりますが、本作もイイ感じに仕上がっております。色調を抑えた暗い画面はお手のものデスね。
でも残念ながら三回連続でアカデミー賞監督賞ノミネートになりませんでした。惜しい。
総じて本作は、オリジナル版の原型をそのままに、多少ブラッシュアップした程度に留めている感じがします。
その辺りはさすがハリウッド。独自性がなくても改良する手際は見事なものです。
その最たるものは、やはりオープニングでしょう。スタイリッシュな映像と音楽でテンション上げまくり。もうレッド・ツェッペリンの楽曲「移民の歌」が実に印象的に使われています。CG全開の映像も見事です(まるで007の新作でも観ているような──ダニエル・クレイグ主演だし)。
あとはオリジナル版に比べて雪の量が段違いに多いことが目に付きました。やはりアメリカ人から見た──日本人から見てもか──「北欧」のイメージは、雪が降っていないとイカンのか。ミカエルがヴァンゲル一族の屋敷に呼ばれる場面からして雪が降りまくっています。
スウェーデンの人から見るとオーバーなのでしょうか。オリジナル版では地面が少し白くなっている位の場面(しかも天気は晴れ)でも、本作では風と雪が吹き荒んでいます。
それから主役キャラの人間関係も整理されています。
特にリスベットの両親についての描写がズバッと省略されている。物語の焦点を事件の捜査に絞る為でしょうか。
本作では「入院中のリスベットの母親」については語られもせず登場もしませんし、「子供の頃、ロクデナシの父親に火をつけた」というリスベットの凄惨な過去も、台詞のみでサラリとスルーなので、クライマックスの意味合いがちょっとだけ異なったものになってしまいました。
これでは第二部「火と戯れる女」に直結しないのですが、これはこれでよろしいのでは。
個人的にはオリジナル版三部作の中では、本作が一番気に入っているので、単体で完結する方がいいような気がします。そもそも原作が未完のシリーズですし──当初の構成では全五巻の構想だったと云われておりますが──、第二部、第三部は前後編の趣がある上に、更に続いていきそうな気配がするので、物語的にスッキリしない(と思うのデスよ)。
香港映画の『インファナル・アフェア』(2002年)もオリジナル版は三部作になりましたが、ハリウッドのリメイク版は第一作の『ディパーテッド』(2006年)があるだけなので、本作もこれ一本きりにしておく方がよろしいと思いマス。「ミレニアム」というシリーズ名もタイトルからは外されていますし。
でもやっぱりダニエル・クレイグは既に続編への出演契約済みだとか。
一方、ミカエルの方はと云うと、少年時代にハリエットと面識があったという設定が、本作ではスルーです。
まぁ、ミカエルとハリエットに面識があったままだと、少しだけ改変された設定(あのオチの部分ね)が不自然なものになりますし。その所為でオーストラリアまで物語が飛んでいかなくなりましたが、本作の方がミステリとしては意外性があるような気がします。
逆に追加されているのはミカエルの娘さんの登場でしょうか。事件解決に向けた重要なヒントを提示する役になっていて、なかなか面白かったデス。
しかし一番印象的な追加部分と云うと、やはりアノ場面か。
ミカエルとリスベットの濡れ場ですね。しかも主演俳優二人の大胆演技のおかげで、画面にボカシが入ります。堂々とモザイク処理が入る映画を観たのは久し振りです。別に隠さなくても良さげなものだと思うのですがねえ(そもそも逆光でよく見えないんじゃ……)。
それを云い出すと本当に濡れ場自体が必要であったのかと云う疑問も涌いてしまいますが。本格ミステリ映画を観ていて、ここまで濃厚な濡れ場に遭遇したのは『薔薇の名前』(1986年)以来のような気がする……。
やっぱりラストシーンへの伏線としては必要だったのか。
あの「リスベットの苦い失恋シーン」はオリジナル版には無いシーンですが、巧い演出であると思います。おかげでリスベットがますます可愛く見えてきました(笑)。
本作はオリジナル版から省略した部分もあれば、追加した部分もあって、ほとんど差し引きナシの一五〇分越えと云う長尺になりました。しかしその後、オリジナル版は一八〇分の完全版もリリースされたりしております。
よもやこのリメイク版もディレクターズカット版が出るなんてことにはならないのでしょうね。
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