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2009年3月25日水曜日

ベンジャミン・バトン/数奇な人生

(The Curious Case of BENJAMIN BUTTON)

デビッド・フィンチャー監督作と云いながらも、それまでのフィンチャー作品とはまるで違いますね。いや、そりゃ私が『エイリアン3』とか『セブン』とか『ファイト・クラブ』こそフィンチャー作品と信じているからでして。
でもどうしたことか、近年は『パニック・ルーム』とか『ゾディアック』とかイマイチ的なものばかり。
それがここへ来ていきなり作風が変わっちゃいましたね(笑)。

脚本がね、『フォレスト・ガンプ/一期一会』のエリック・ロスだったので、納得しました。ああ、なんか似てる。
激動の時代の中を駆け抜けていく一人の男の人生──という共通点はある。『ベンジャミン・バトン』に「一期一会」とサブタイトル付けてあげても全然差し支えありません。
ついでに『フォレスト・ガンプ』にも「数奇な人生」と付けてあげてもよろしい。ある意味、その通りだしな(笑)。

特撮、CG合成、特殊メイクを多用している点でも割と似ている。まぁ『ベンジャミン・バトン』の方が、視覚的な話題が多かったようですが。
そりゃ、主演がブラピですから。
あのイケメンが80代の老人メイクで現れ、次第に若返っていくというコンセプトが話題になったのですが……この映画の本質はそんな些末なことではありませぬ。

もちろん視覚効果は大事ですが。
それも優れた脚本あってのことです。

ぬう。よもやフィンチャー監督作品を観て感動してしまうとは。違う。これはエリック・ロスにやられたのだ。
それにしても「ある男の一生」を描くのに、ロバート・ゼメキスとデビッド・フィンチャーとでは、やっぱり随分と違いますねえ。基本設定が異なる所為もありますが、『ベンジャミン・バトン』には〈死の匂い〉が全編に漂っておる。
「人は誰しも老いて死んでいく」というメッセージが強烈に伝わります。それが逆説的に人生賛歌になるわけですが。

『ベンジャミン・バトン』も『フォレスト・ガンプ』も、行き着くテーマは「素晴らしき哉、人生!」ということになっちゃうわけですね。
どんな一生を送ろうとも怖れるな、前向きに行け。そして前向きに逝け。

主人公よりも、主人公と関わり合い、また別れていく脇役達の人生もまた印象的でした。『フォレスト・ガンプ』ではトム・ハンクスよりも、ゲイリー・シニーズの方が私は好きだ(ダン隊長ね)。『ベンジャミン・バトン』でも同様に、ブラピよりもジャレッド・ハリス演じるマイク船長(自称アーティスト)がいい。

この辺りの描写はやはりエリック・ロス特有のものでしょう。『ベンジャミン・バトン』の原作者は、かのフィッツジェラルドですが短編小説にそのような描写はない。解説によると、〈若返り〉という基本設定とキャラの名前だけを残してほとんど書き替えた(書き足した?)そうですから。
そもそもケイト・ブランシェットとのラブ・ロマンス自体、原作にはない。
ケイト・ブランシェットの役名がデイジー。これはフィッツジェラルドの別の小説──『華麗なるギャツビー』ね──からの拝借だし。

かくしてエリック・ロスの映画と化してしまった感がありますが、傑作なので良し。

そして若返り人生の行き着く先は、子供となり、赤ん坊となり、そして御臨終となる訳ですが、フィンチャー監督は容赦なくそこまで描き出す。うんうん。やっとフィンチャーらしくなってきたか。

歳をとり認知症になる頃に少年になる。記憶が消えていき、見た目も行動も少年となっていくベンジャミンを見守るケイト・ブランシェットが涙を誘います。
本人は無邪気そのものな分、周囲の関係者の心中は堪らないでしょう。
まさに『アルジャーノンに花束を』のチャーリー・ゴードン状態。

そして如何に「数奇な人生」であろうと、人の一生には変わりはないのである。
と云うか別に映画の途中から、〈若返り〉がそんなに不思議なことには思えなくなっているのが巧いですね。それもまた〈個性〉なんだよ。

デンゼル・ワシントン主演のサスペンスSF『デジャヴ』と同じく、『ベンジャミン・バトン』もハリケーン災害後のニュー・オーリンズでロケされています。
その所為か、ハリケーンについての描写が追加されている。
物語全体が、老女になったケイト・ブランシェットが御臨終を迎える際に、病院で娘に語る「母の人生の物語」という構成になっている。
娘さんにとっては、自分の父親が誰だったのか知る「出生の秘密」だったりする訳ですが(笑)。

その病院がニュー・オーリンズにあり、ハリケーンの直撃を受けている。
ドラマが中断する都度、時代が現代に戻ってきて病院内で右往左往する職員の皆さんが背景に映って、妙にリアリティがあった。と云うか、大変なことが起きているのに、そんな昔話をしている場合じゃありませんよ。避難して下さいッ。

ラストは人生を語り終えたデイジーが御臨終となり、先に逝ったベンジャミン・バトンの元へ向かう、という図になる。
そしてハリケーンは思い出も何もかもを全て流し去っていく。
倒壊した家屋や浸水した倉庫から、様々な家財道具や何かが押し流されていく。ベンジャミンやデイジーの思い出の品々も流されていく。
すべては海へ還るのである──。

ハリケーン災害をこんな風にロマンチックに描いちゃっていいのかな。


●余談
最近、他にも「ある男の数奇な人生」の映画を観た。
DVD化された『スローターハウス5』ですよ。
人生の時系列が逆向きかランダムなのかの違いだけ。

エリック・ロスに『スローターハウス5』のリメイク脚本を書かせて、ロン・ハワードあたりに監督させたら感動の作品になるかも。
もうSFとは呼ばれなくなるでしょうね(笑)。


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