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2009年3月24日火曜日

チェンジリング

(CHANGELING)

今年のオスカー受賞式典で、ブラピは『ベンジャミン・バトン』で主演男優賞候補になり、これを逸してしまいましたが、同時に主演女優賞には『チェンジリング』に出演した奥さんのアンジョリがノミネートされておって、夫婦そろってのダブル受賞なるか──なんて騒がれましたが、そんなにうまくはいきませんでしたね。絵にはなったでしょうが。


アンジェリーナ・ジョリー(以下、アンジョリ)と云うと出演作によって評価の振幅が大きすぎることで有名。
私の守備範囲である『60セカンズ』『トゥームレイダー』『ウォンテッド』等々の系統からすると……ゴールデンラズベリー賞の最低主演女優賞候補の常連になるのもやむなし(笑)。

一方、『17歳のカルテ』や『マイティ・ハート/愛と絆』等々の系統のファンからすると名女優になるらしい。私がそっち系統の映画を観ることはあるまい。
──と、思っていたら、コレがあった。

『チェンジリング』のアンジョリは素晴らしいのである。
うーむ。信じがたい。俺の知ってるアンジョリじゃねえ。
監督がクリント・イーストウッドでなければスルーしておったでしょうが、イーストウッド作品と判っているなら避けては通れぬ(『マディソン郡の橋』だって私は観に行ったしね)。

もはや「監督作品にハズレなし!」と太鼓判押されるお方である。
そして実際にハズレなんかではない。

……ただ、何というか。どれもこれも──特に2000年以降のイーストウッド監督作は──凄い作品であることは間違いありませぬが、あまりにも凄みがありすぎて重厚で、気力が充実していないとなかなか「もう一度、観よう」とはならないのも事実。
『ミスティック・リバー』をもう一回観ろ、とか。『ミリオンダラー・ベイビー』をもう一回観ろ、とか。うーむ。未見の人がいれば、是非にと勧めたいが自分一人の時にはちょっと……勘弁して欲しい(汗)。
この『チェンジリング』は……かなりギリギリか。
やっぱり重たくて暗くて救いがなくて、とても哀しくて辛い物語ではありますが……。

これもまた昨今流行りの実話に基づく映画化。
失踪した一人息子を捜し続ける母親の物語。五ヶ月後に発見された息子は、まるきり別人であった。事件が解決していないことを主張し続けた母親は精神異常と診断され精神病院に収監されてしまう。

まさに信じられないような不条理ドラマ。
明らかに警察のデッチ上げであることが推測できる。
失踪少年を見つけることが出来ない警察の捜索態勢に批判が集まるのを避ける為に、適当な家出少年を言い含め、息子と偽らせてアンジョリに押しつけている。
そして納得できず(出来るわけない)、捜索の続行を求め続けるアンジョリを世間から隔離して精神病院にぶち込んでしまう……。
20世紀の出来事とは到底信じられないような展開である。
しかもその精神病院たるや、ほとんど強制収容所並みの施設。警察に都合の悪いことを主張しようとした女性が他にも沢山……。

警察の怠慢を非難しているわけでなく、ただ単に捜索の続行を求め続けただけでこの仕打ち。理不尽極まりない。
唯一の味方は、アンジョリを救うべく活動し続けるジョン・マルコビッチ演じる牧師さんのみ。この映画ではほぼ唯一の〈誠実な人〉である。
常識で考えても、こんな警察の横暴が長続きするわけはなく、マルコビッチの活躍でアンジョリは救い出されるのであるが……。
問題は、その間にも無情に経過していく時間である。

そしてまったく関係ないところから発覚する少年を専門に狙う連続猟奇殺人事件。
もし、警察が熱意を持って失踪少年を捜索し続けていたら、あるいはもっと早い段階で解決していたかも知れない事件。犠牲者の数ももっと少なかったかもと思わずにはいられない。
どう考えてもアンジョリを待ち受けているのは絶望あるのみか……。

と、思っていたら。
ラストにおける微かな希望。
アンジョリの見せる笑顔にガツンとやられてしまいました。これなら一人の時でももう一度観てもいい。

この時代だからこそ起こり得た事件であり、この時代だからこそ希望を持つことが出来る、というのも皮肉なものです。
だって連続殺人犯の自宅からは人骨がゴロゴロ……。
現代の科学捜査技術をもってすれば、DNA鑑定で最後の一人に至るまで身元が確認出来てしまい、結果的にアンジョリを失意のどん底に突き落としてしまったかも知れない。
でも1920年代の捜査では身元どころか被害者の正確な人数すら特定できない。
そんなところに希望の種がある、というのがやるせない。

息子が殺されているという確証はない──と云うことは、どこかで生きている可能性もある。……なんかもう、限りなく可能性のなさげな理論のような気もするが、それが母親にとっては最後の希望の光である。
切ないというか、やるせないというか。

勇気を持って生きることの大切さを淡々と語ってくれる、味わい深い作品でありますが、腹の底にきつい一発を食らう映画でもあります。うーむ。


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