B級映画の鑑のような作品ですね。
近未来SF映画としては、二〇一〇年は『レポゼッション・メン』に並ぶ俺好みの一本となりました。
ナノマシンによって他人の運動神経を遠隔操作できるようになる、という一発ネタが全てですが、そこから派生するガジェットがなかなか面白い。
『サロゲート』では身替わりロボットを使っていましたが、今度は生身の他人を自分のアバターにするわけです。
監督と脚本家の組み合わせによっては、人間の自由と尊厳を問う哲学的問題作となったかも知れませぬが、このコンビの作品では間違ってもそんな風にはなりませんな。「ムツカシイ話なんぞ知ったこっちゃねーッ」とばかりに序盤から銃撃&爆発のつるべ打ち。
近未来SF映画としては、よくある〈殺人ゲーム〉が題材です。お馴染みですね。
近未来では死刑囚をゲームの駒にしてリアルな戦闘に参加させるゲーム〈スレイヤーズ〉が大流行していた。死刑囚にとっては三〇戦を勝ち抜けば自由の身になれるのが条件なので、つい応じてしまう。しかし大抵は数戦で「戦死」する。
ジェラルド・バトラーは無実の罪で死刑を宣告され、ゲームに参加させられ、それでも生き抜いてきた猛者である。
バトラーに罪を着せた悪党は、「どうせすぐに死ぬさ」と高を括っていたら、しぶとく生き延びていくので次第に焦り始める。バトラーが抱えている秘密とは何か。
お約束の展開がてんこ盛りで実に楽しい。
誰も成し遂げたことのない初の三〇連勝が近づくにつれ、バトラーはヒーロー扱いされていくわけですが……。
不思議に思うのは「バトラーは操られている」わけだから、勝ち抜いているのは彼の功績だけではないのではという点ですね。
と思っていたら、やはりプレイヤーも登場しました。バトラーを操っているのはティーンエイジのゲームヲタ青年。演じるはローガン・ラーマン。おお、パーシー・ジャクソンではないか。アホなファンタジー映画に出ているより、こっちの方がずっと好感持てるぞ(笑)。
まったくの偶然からプレイヤーと駒の最強の組み合わせが誕生していたというのが巧いですね。
このラーマン演じるヲタ青年が、もうイマドキのネトゲ廃人を皮肉っていて実にリアルデス。
このナノマシンの開発者にして、ゲームの発案者であり、時代の寵児となった悪党を演じるのがマイケル・C・ホール。ちょっとケヴィン・ベーコンに似ている人ですが、よく知りませんでした。最近の海外ドラマ『デクスター』で連続殺人鬼な正義の味方(笑)を演じていますね。観てないけど。
この悪党がなかなかイカス人で、バトラーと対峙して引けを取らない。クライマックスで見せるファンキーでイッちゃった演技が素晴らしいデス。
他にもナノマシンを応用したテーマ・パーク〈ソサイエティ〉とか、「ナノマシンは人間の自由と尊厳を奪う悪だ」と糾弾する抵抗組織の登場とか、なかなか面白い展開を見せてくれます。
『サロゲート』と同じく、「美人だと思ったら、操作しているのはキモヲタデブ野郎だった」というネトゲ・ネタは共通設定ですな。しかし操作される側が生身の人間であるので、『サロゲート』より事態は深刻。
自分の身体がキモヲタデブに操作されるなんてのは、ものすごい拷問でしょう。
この殺人ゲームとは別に、ネトゲ廃人共が操作する生身のキャラが集うアンダーグラウンドなクラブの描写が、寺沢武一の『コブラ』みたいで笑ってしまいました。意味なくお姉さん達が半裸で、意味なくエロい。
さすがB級。
無実の罪で投獄され、殺人ゲームで生き延びながら脱獄のチャンスを狙うマッチョなヒーローという設定では『デス・レース』のジェイソン・ステイサムとほとんど同じですが、やはりジェラルド・バトラーだと「実は愛妻家で家庭人」という設定に納得がいくのは、役者としてのキャリアの差なんですかね。
バトラーはアクション映画からシリアス恋愛もの、ラブコメ映画まで幅広く出演しておりますからな。
ステイサムももっとラブコメとかに出ればいいのに。もう無理か。『エクスペンダブルズ』に片足突っ込んでるからな。
ところでバカなB級映画だと思っていたら、撮影手法からしてバカだったということをパンフレットを読んで知りました。
カーチェイスの場面では、監督自身がカメラを担いでローラーブレードを履き、役者の乗ったトラックのドアにしがみついて撮影するそうな。イマドキの安全第一主義のハリウッドの撮影からは考えられない、身体を張ったバカな撮影。
まぁ、監督自身が命を賭けて撮影しているので、役者の方も自然にテンションが上がるらしいが……。
これはネヴィルダイン&テイラーのコンビが『アドレナリン』の頃から確立させた撮影手法だそうな。ジェイソン・ステイサムも、監督自身が走る車にしがみつきながら「もっと激しく! もっとバカに!」と叫んだから演じることが出来たらしいが……。
この演出方法は危険なので他の監督は決して真似しないで下さい。
事故を起こさず、遺作を残すことなく、これからもバカB級アクションを作り続けていただきたい。
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