2010年11月30日火曜日

100歳の少年と12通の手紙

(Oscar and the Lady in Pink)

 難病映画は観ない主義である──と云うのは『小さな命が呼ぶとき』でも書いたか。
 ところでこれは難病映画ではありません。
 ある種のファンタジー映画に分類されましょう。フランス産のファンタジー(ぽい)映画というと今年は『ミックマック』とかありましたが、これもその類ですね。
 フランス映画独特の臭いがする不思議な映画というか、「少し・不思議な」SF映画(笑)。

 物語はまぁ予告編から想像されるとおりのひねり無し。白血病に冒され余命幾ばくもない少年と、口の悪いピザ屋のローズおばさんとの交流の物語。
 死期が迫る不安に駆られた少年オスカーに、ローズは云う。一日で十歳年をとればいい。十日後には百歳だ。

 つまりそれほどに病状は悪化しており、手の施しようが無く、あと十日も生きられるか判らないと云う絶望的な状態なのであるが、悲壮な感じは微塵もない。
 なんか元気そうだし。
 これは演出の方針であろう。白血病患者的な描写がひとつもないのである。少年がスキンヘッドであることくらいか。

 監督は別に難病患者が描きたいわけではないのであるから、病院内での治療の過程や、手術の様子など描かれない。さらりと匂わせる程度で、短い一生を如何に過ごすかという、ある種の哲学的なテーマの映画になっている。
 結局のところ、人は皆いずれ死ぬのである。早いか遅いかだけの違いでしか無く、重要なのは如何に生きたか、という充実度である──と云う主張がはっきりしている。
 したがって全編に渡ってユーモア溢れる描写が楽しい。

 邦題にある12通の手紙とは、一日に一通、少年が神様に宛てて書く手紙のこと。一通書く度に、これを風船につけて空に飛ばす。邦画なら本気でその通りにしたかも知れないが、実はローズの策。
 院内の誰にも心を開かず、見舞いに来た両親にも反抗的な態度をとるオスカー少年に──そりゃ誰も彼もが死期が近いことを匂わすように腫れ物扱いすれば不機嫌にもなろうと云うものである。子供だからと侮ってもらっては困ります。子供だからこそ敏感に察知することもある──困り果てた院長先生が、唯一まともに言葉を交わしているピザ屋のオバチャンにカウンセリング(の手伝い)を依頼するのである(毎日、ピザのデリバリーを注文するのと引き替えに)。
 そこで一計を案じたローズが考えついたのが「神様への手紙」。少年が見ているのは空っぽの封筒が風船に付けられて飛ばされていくところだけ。
 手紙はそのまま院長先生の手に。

 かくして病院側は少年が何を考えているのか知る手がかりになるという仕掛けだが、それって純真な少年を欺く行為なのでは……。
 まぁ、邦画ならそこで深刻に、騙したとか裏切ったとかという展開になるのでしょうが、さすがフランス映画はまったく悪びれるところがありませんねえ。

 この映画で特に楽しいのはローズが語る口から出任せ式のホラ話。
 最初の出会いの時に「自分はプロレスラーだったのよ」と云ってしまった──何故そんな嘘をついたのかには一応、理由はあるのだが、あまり大したことはない。

 少年に語って聞かせる数々の試合のエピソードがちゃんと映像化されるのがいいです。
 自分よりも大きく強い相手にいかにして立ち向かったか。
 困難な試合をいかにして乗り切ったか。
 かつてタッグを組んだレスラーがどんな人物だったか。
 少年は疑いもせずにそれに聞き入っている。それとも知っていながら楽しんでいたのか。

 「すごいや。プロレスは人生の教室なんだね」

 一部のプロレス・ファンには大いに肯けるところでありましょう(笑)。

 かくして同じ病棟に入院している片思いの女の子に告白し(15歳過ぎたらもう告白できるでしょ)、結婚し(まぁ子供同士の云うことですから)、ケンカし(夫婦の危機だ)、仲直りし(危機を乗り切った)……数日がすぎていく。

 二、三日前のことを思い返しながら、真面目くさって「いやぁ、若い頃はバカやったもんだ」と少年が述解する。実に微笑ましい。

 この主役の少年に子役の新人アミールくん。フランスの加藤清史郎くんみたいな少年か。
 ローズ役がミシェル・ラロックス。口が悪く、憎まれ口ばかり叩くが憎めないオバチャンである。
 院長先生役がマックス・フォン・シドーだったのには驚いた。今年は『シャッターアイランド』でも見かけたし、リドリー・スコットの『ロビン・フッド』にも出ていると云うから、元気な爺さんだなあ。

 そして色々あったが十日後には少年は息を引き取る。眠るように安らかに。
 医学的な描写を云々するのは野暮と云うものでしょう。
 少年の死に顔は安らかであり、最後には凡人が及ばぬような真理に到達していたのが判る(ちゃんとそういう場面がある)。

 「砂漠に咲く花は一夜にして花開き、実を付けて、種を残して枯れる」というエピソードが印象的でした。何を意味しているかは明白ですが、イメージ的に美しいので嘘か誠かなどは二の次なのでした。
 泣けないとシリアスな映画ではないという思いこみを持つ人は、この映画を観て、無用な先入観を捨ててもらいたいデス。
 逆に泣きたい人が観に行くと肩すかし喰うかも(それでも泣いてる人はいたけどね)。



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