白血病で余命幾ばくもない主人公が懸命に生きる。涙が滂沱と流れたものデスよ。
しかるに今やスレてしまった私には〈難病映画〉は実に耐え難い。
『世界の中心で愛を叫ぶ』など鼻で笑ってしまう。『余命一ヶ月の花嫁』など観る気も起こらぬ。
いくら実話ベースであろうとも、「実話だから泣け」と云われてもなあ。
例えば──難病とは関係ないが──『マリと子犬の物語』など、現実に新潟県中越地震で被災した方々は気の毒ではありますが、かと云っても詰まらない映画は詰まらないのです。
さて、これも実話に基づく物語──とは云うものの、ありきたりな〈難病映画〉ではありません。これが邦画だったなら、最初から観に行く気も失せていたでしょうが。
まぁ、そもそも邦画では、「難病患者が可哀想」以外のストーリーにはなりませんからね。
「難病と闘う家族の物語」ではありますが、単なる家族愛の映画ではないです。半分はビジネスの映画。
難病に冒され余命少ない子供たちを救うためにバイオ・ベンチャー企業を立ち上げた父親の物語です。
治療薬が欲しい。切実に欲しい。でも理論だけで製造段階にはない。
だったらそれを作る会社を立ち上げよう──と云う、実に米国ならではの発想ですね。日本じゃなかなかこうは行かんよなあ。
難病の子供を抱えベンチャー企業を立ち上げる父親役にブレンダン・フレイザー。ビジネス・パートナーになる医学博士役にハリソン・フォード。特にハリソンは製作総指揮も務めている。
なんか『レイダース』と『ハムナプトラ』の二大ヒーローがタッグを組んでいる。が、これはアドベンチャー映画ではなく、ベンチャー映画なのデス(笑)。
物語の半分はベンチャー・ビジネスを如何に成功に導くかという描写に充てられています。
理論は完璧でも、そのままでは絵に描いた餅に過ぎない。出資者に効果的にプレゼンし、投資させねばならない。
ハリソン・フォードの医学博士にはそれが出来ない。と云うか、そんなことは些末なことだと研究にしか関心がない。
一方、ブレンダンは医学的知識は皆無なれどもビジネスマンであり、営業のプロ。
お互いに足りない部分を補いあって、二人三脚で起業する。非常に米国的であり、面白い展開です。
特に二人が決して馴れ合わないところがいい。ともすれば研究の内容ばかりに目がいくハリソンに、「臨床試験は年内に始めないと出資を切られる!」とブレンダンがブチ切れる。出資を切られれば研究自体も続けられないのだが、ハリソンの方も頑固な科学者なので簡単には折れてくれない。
理論は正しくても、製造工程での段取りや、医薬品としての認可に必要なことなど、てんで眼中にないハリソンのフォローに疲れきっていくブレンダンの演技がリアルです(笑)。
実に米国的なのは、ある程度の成果が見込めると、せっかくの会社をさっさと大手製薬会社に売り込んでしまうあたりですね。愛社精神皆無(笑)。
ブレンダンにとっても、ハリソンにとっても、利益が欲しいのではない。
欲しいのは理論が正しいことの実証であり、その成果としての治療薬なのだから。
大手製薬会社に自分たちごと売り込んで、重役の地位と研究施設を手に入れる。しかし製薬会社の企業風土に、一匹狼だった研究者が馴染めるわけがない。
周囲から顰蹙買いまくりのハリソンに気苦労の耐えないブレンダン。二人の対立も次第に深刻なっていき──。
特に家庭の方で子供たちの病状が悪化していくのを手をこまねいて見ているしかない親の心中たるや察するに余りあります。それでも子供たちには決して笑顔を絶やさぬブレンダンの演技は素晴らしいです。
まぁ、ちょっと『ハムナプトラ3』の頃よりメタボっている気がするが、きっと役作りなのでしょう。そう思いたい。
一方、もはや壮年男性と云うよりも、初老男性になってしまったハリソンの老け具合も深刻デスよ。ストーリーとは一切関係ありませんが。
それでも『インディ・ジョーンズ5』に出演するのか?
アクション映画で名の売れた二人が、このような家族愛映画でタッグを組むというのが珍しいデス。ハリソンのようにブレンダンも演技派開眼したのか。どうやら、したっぽいですね。
信念に従い衝突しながらも目的達成のために邁進する男たちの物語。
うーむ。こういう〈難病映画〉なら幾らでも観ていられるのになあ。
「実話に基づく」とは云え、ドキュメンタリーではないので、割と脚色され、時間軸の圧縮も行われているらしいです。まぁ、二時間以内の尺に納めるためには必要なのでしょうし、タイムリミットまで一年半程度しかないという描写の方がハラハラしますからね。
実在の家族による感想は「脚色は多いがスピリットは正確だ」というので、確かなのでしょう。
また本職の研究者や医者がテクニカル・アドバイザーとして参加しているので、新薬開発のディテールもリアルです。
特に製薬会社が同時並行して四種類の酵素を研究していたが──ハリソンのチームはその一つ──予算と開発コストの都合から新薬に使う酵素をどれかひとつを選ばねばならないというの中から、ひとつを選ぶしかないというのがリアル。
自分の酵素は化学式を見ただけで判る。しかしまだ製造ラインに乗せられるほど詳細はない。
自分の研究より「粗い」が「今すぐ製造を始められる」酵素を選ぶべきか。研究者としてのプライドを捨てるか、もはや時間切れに近い子供たちに何と云うのか。
最初は冷たい態度に思われ、敵役に徹していた製薬会社の重役が、「だから情におぼれるなと云ったのに」と忠告していたのが印象的でした。きっとこの人も昔は熱血な人だったのでしょうねえ。
冷酷と冷静は紙一重。
適度なユーモアを交えつつ、深刻な病を軽んずることなく、お涙頂戴にならない物語でした。
実際、子役の女の子が実にほほえましい。
難病患者はみんな可哀想で、涙を流して同情する以外の態度は許さないというような演出方針は改めるべきであると感じました。
結末の描写はハッピーではあるが、過剰なまでに涙を誘わない。
ユーモアあふれるラストだったので、非常にさわやかでした(実はそれでも結構ハードなラストではあるのですが)。
過酷な現実に立ち向かうには、愛とユーモアが必須なのだと痛感します。
涙なんか要らんのデス。
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