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2010年7月15日木曜日

アデル/ファラオと復活の秘薬

(THE EXTRAORDINARY ADVENTURES OF Adel BLANC-SEC)

 かつてリュック・ベッソンは生涯に十本だけ自分で監督すると語ったそうですが、今や監督作品は本作で十三本目ですね。
 個人的には、もうプロデューサーに徹しておく方がいいと思うのだけど。
 現に『96時間』とか『パリより愛を込めて』とか、プロデュースだけしている方がいい結果が出てるのに。

 それはさておき、これはベッソン版『インディ・ジョーンズ』を狙ったのでしょうか。明らかにコミックブック的主人公の冒険活劇です。
 と云うか、原作付きだ。道理でヒロインの名前がマンガの主人公ぽい。
 アデル・ブランセック。
 「ブランセック」とはワインの銘柄であるそうな。辛口白ワイン。名は体を表す感じではあります。

 二〇世紀初頭のパリを舞台に怪事件に挑むヒロイン──なのですが、職業が作家だというのがなんとも。冒険ロマンス小説の作家で、取材でエジプトやら南米に行くのだとか。
 冒険活劇ではありますが、いまいち乗れないのは何故でしょう。全体的にコメディ調でお笑い要素があるので、逆に真剣になれない。どうにもギャグの間というか、笑うところなのかどうか判断に迷うような……。

 そもそも甦った翼竜という設定と、脳死状態の妹を助けたいという設定が巧く噛み合っていないように思えます。
 それに事件の発端の責任は主人公にもあるのに……。

 冒頭、博物館に展示された翼竜の卵からプテロダクティルスが孵化するという事件が発生する。それはいい。
 しばらく映画は怪事件に振り回されるパリ警視庁の警部さんの物語として進行する。この警部がまたマンガぽいキャラ。クルーゾー警部の御先祖様みたいなものですかね。

 主人公アデル姐さんはいつ登場するのか。
 待っているとやがてアデル姐さんの登場となるが、パリの事件はそっちのけで、エジプトで発掘調査している。物語は今度は考古学上の発見を巡ってライバル学者とのミイラ争奪戦となる。
 どうにも噛み合わない二つの事件が、一つになるのはアデルが帰国してから。

 そこでやっと二つの事件の関連が語られる。
 ことの発端は、アデルの妹が事故で脳死状態になったことであるが、それもまたギャグ調で説明されるので、さっぱり感情移入できない。
 二〇世紀の医学では助けられない妹の治療の為に、古代エジプトの偉大な医師の秘法にすがろうと思い立ったという次第。ラムセス二世の侍医だったミイラなら、妹を治す方法も知っている筈だ──。
 飛躍してますねえ。

 でもミイラを甦生させるには?
 アデルは超自然専攻の教授に協力を取り付けたのですが、教授はアデルがエジプトに行っている留守中に、ミイラ甦生の術を試してみた──本番で失敗しないように。
 そしたら運悪く近所の博物館の翼竜の卵が孵化してしまった……って、おい。

 これは何でしょうかね。
 真面目になって観ているこちらがバカなのでは。こんなコメディ話だったとは知らなかったぞ。明らかにこれはベッソンのコメディ映画なのです。
 今までコメディ映画は撮っていませんでしたからね。やりたかったのでしょう。

 一応、警察もバカではないので、アデルが帰国したときには教授は逮捕されて刑務所の中。たまたま翼竜が襲った被害者の中に有名人がいた所為で、速攻で死刑判決。

 社会を騒がせる大事件に発展していると云うのに、アデルの関心事は如何にして教授を脱獄させるか、ということに限られている。とにかくあの手この手で刑務所への潜入を図る。
 主演のルイーズ・ブルゴワンの七変化を楽しみたい人には面白いのでしょうが、なんだかなあ。
 億年単位の昔の生物を甦らせられるなら、数千年前のミイラなんか楽勝ね──って、そういう問題かしら。

 更に物語はへっぽこ警部に加えて、アフリカ帰りの名うてのハンターを巻き込んでのドタバタ騒ぎへと発展していく。
 このハンターがもう、間抜けを絵に描いたようなギャグ要員でしかない。

 結局、アデルは教授救出の為に先に翼竜を捕獲し、教授の甦生術でミイラも復活。さらに甦生術の有効範囲内にルーブル美術館まで含まれていた為にラムセス二世その人まで復活してしまう。
 なんか笑いたいけど笑えない落語を延々と聞かされている気分ですわ。

 復活したラムセス二世と臣下であるミイラ軍団の描写は、ビジュアルとしてはなかなか面白い。ほんとに動くミイラとして復活している。凝ったCGではありますがね。でもフツーに人間の役者が衣装を着てラムセス二世を演じても違和感は無いと思うのですが。
 CGの無駄遣いだよなあ。

 そして古代エジプトの秘法でアデルの妹は完治してめでたしめでたし。
 うーむ。
 古代エジプトの秘法に頼るよりも、ミイラを甦生させる秘術を駆使できた教授に、最初から治療をお願いしておくという手は考えつかなかったのだろうか。
 非常にまわりくどい段取りを取った割に、さっぱり理論的ではなく、すっきりしません。
 単に大勢のキャラが登場して右往左往するドタバタ劇がやりたかっただけとしか思えぬ(やりたかったんだよな)。

 そしてラムセス二世とミイラ軍団は帰国の途に着く。

 「さて皆のもの、そろそろエジプトに帰るとするか」

 それでいいのかなあ。うーむ。
 コメディにしては詰まらぬオチだなあ。

 ちょっとだけ笑えたのは、帰り際にラムセス二世がルーブル美術館の中庭を眺めて云った台詞くらいか。

 「ふむ。ここにピラミッドを建てれば映えるぞよ」

 楽屋落ちでした。それだけ。

 しかし題名からして『インディ・ジョーンズ』ぽいパルプ雑誌丸だしな題名ですが、シリーズ化したかったのでしょうか?
 原作は結構人気なシリーズだそうですが、映画版はキャラクターだけ使ったオリジナル作品らしい。良かった。原作はきっともっとマトモなんだ。
 続編はもういいデス。




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