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2008年11月29日土曜日

ブラインドネス

(Blindness)

全世界で突発的に失明病が急速に蔓延──という破滅SF型の映画。SF?
まぁ、トリフィドの出てこない『人類SOS』みたいなものである。
しかしこの『ブラインドネス』のおかげで、『トリフィドの日』のリメイク企画はもっとずっと先になるのであろう(企画があるとしてのハナシですが)。

町山智宏曰く──近年、この手のSF的設定(のような)映画が増えました。

『トゥモロー・ワールド』 突然、不妊病が流行する。人類滅亡の危機。
『ハプニング』      突然、自殺病が流行する。人類滅亡の危機。
『ブラインドネス』    突然、失明病が流行する。人類滅亡の危機。

そのどれもが「原因不明」で、とりあえず危機的状況を描くことが主眼で、ラストは何となく解決しそうな雰囲気だけ匂わせて(?)おしまい──いいのか?
このあたりの投げやりさがSFぽくないのですけどね。

『ブラインドネス』も原作者はノーベル文学賞受賞作家だし、多分SFを書いているつもりなど無かったことでしょう。
原作小説は非常に寓話的に描かれており、キャラクターに個人名がない。
医者、医者の妻、泥棒、会計士、サングラスの娘──極力、キャラクターの描写を省いている。
おまけに書店で立ち読みしようとしたら、読み難いことこの上ない。
改行しないのである。
セリフも「」で括らないし。
もうラノベの対極を行くような書き方。パラパラと頁をめくると、どの頁も活字で「みっしりと満たされている」──『魍魎の匣』か!
改行した際に生じる余白が皆無という、素晴らしい小説でした。

キャラに名前がないのと同様、固有名詞を極力廃した小説であるが故に、無国籍性を獲得しているのですが、映画化ではそういう訳にはいかない。
たとえ名前が無くても、役者の外見である程度の国柄というか、背景的な説明がイヤでも生じてしまう。
そこで製作サイドでは配役を国際色豊かにして、逆の手法で無国籍性を獲得してしまった。巧いやり方だ。

主役の〈医者の妻〉はジュリアン・ムーア(欧米系)。
〈医者〉がマーク・ラファロ(ラテン系)。
〈最初に失明した男〉と〈最初に失明した男の妻〉を伊勢谷友介と木村佳乃。
〈眼帯の老人〉がダニー・グローヴァー(黒人)。等々……。

セリフも英語の後ろでスペイン語や日本語が飛び交っている。もはやどこの国だか判らないようにしてしまった。ロケ地はブラジルのサンパウロ、ウルグアイのモンテビデオ。セットはカナダで撮影されたそうだが、違和感なし。
個人的に「破滅SFは英国産」というイメージがあるので、私としては人気のない荒涼とした都会の風景がロンドンに見えたのですが……。
サンパウロかぁ。全然違いましたね(笑)。
これはやはり『28日後…』の影響の所為か。

それにしても盲人だけの社会では、たやすく文明が崩壊していくというのがリアルでしたわ。誰も部屋の片付けが出来ないので、隔離病棟は瞬く間に散らかり放題で不潔になっていく。
トイレの場所も判らないから適当に済ませる。廊下を歩いていて糞便を踏みつけて足を滑らせるという描写があったが、実に汚い。

しかし盲人版『蝿の王』とでも云うこの作品に、国際視覚障害者連盟からクレームが来たそうな。
視覚障害に陥った途端に、人々が利己的に振るまい堕落していくとは何事ぢゃあ──まぁ、それはそうね。
物語上は、最初から盲人だった〈眼帯の老人〉が非常に理性的で、心優しい人である、という設定にはなっているのですが。

ちょっと驚きましたが、これはハリウッド製の米国映画ではないのですね。
カナダ・ブラジル・日本の合作映画だったのだ。
三分の一とはいえ邦画か。今年一番の邦画では無かろうか(笑)。
監督は『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレレス。もっとラテン系な映画になるかと思いきや、見事な演出でした。

伊勢谷友介と木村佳乃の夫婦間のセリフはすべて日本語にしてしまったし。
この部分だけは確かに邦画だ。
でもなぁ、日本語のセリフなんだから、この部分だけは日本語の字幕はつけなくてもいいのに。
ちゃんと聞き取れるセリフを、さらに画面下に字幕で表示すると煩わしい。
なんか昨今のバラエティ番組みたいでイヤでした。
DVDではそこのところは改良して下さい。


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