2010年7月27日火曜日

クレイジー・ハート

(CRAZY HEART)

 ジェフ・ブリッジスの主演男優賞獲得も納得の出来映えであります。
 昨年のミッキー・ロークの『レスラー』と同じく、自堕落で勝手気ままに生きてきた男が人生の再起を図るという物語。

 ミッキー・ロークの場合は、もう後戻りの道はなく、行く手に待つは破滅のみだと判っていても止まらない──もはや望んで突き進む──男の生き様が描かれておりましたが、ジェフの場合はどうでしょうか。
 まあ、それほど破滅的ではないが、切ない話ではあります。

 よく云われることだが、人生に「遅すぎる」ということはない。それはその通りでしょう。多分、真実だと思う。
 しかし──。

 「取り返しのつかないこと」と云うのも、またあるのであるのデス。失った時間は戻らない。取り戻せない。覆水盆に返らず。
 再起を誓ったからといって、そう都合よく何もかも状況が好転するワケなかろう。甘えるんじゃねえ。
 手に入るものだけで満足しろ。それでも勿体ないくらいだ。

 ──と云う、実にビターな味わいの、でも人生前向きに生きることの価値を教えてくれる映画です。

 ジェフ・ブリッジスの演技は、なるほどオスカーもの。
 落ち目のカントリー歌手である。既に人気は下り坂。かつての弟子の人気に押され、自己嫌悪からアルコール依存症になりつつも、まだ自暴自棄にまではならない。
 哀れではあるが、それでも己の人生に耐える男の姿は、ちょっとカッコいい。あまり見習いたくはないが(特に肉体的にメタボ坂を下りつつあるあたり)。

 必要以上に嘆かない。
 自業自得であることをよく承知している。
 誰も恨まない。

 この乾いた演出と演技は、邦画には出せない味でしょう。
 もし邦画で、「落ち目の演歌歌手」を主人公にして映画を撮ったら、まず確実にお涙頂戴モノになるでしょう。賭けてもいいが主役に「泣くシーン」がある。イヤだね、まったく。

 酒に溺れて失敗し、何とかやり直そうと頑張るものの、やっぱりアルコールのせいで巧く行かない。ボロボロになったジェフは古い友達に電話をかける。

 「おう。どうした?」
 「酒をやめたい」

 この一言だけで旧友──ロバート・デュバルだ!──がジェフをアルコール依存症治療の集団療法キャンプに放り込む。やはり持つべきは友達ですよ。
 特にデュバルは、それまでジェフが酒で失敗を繰り返しても何も云わなかった。でもひとたび本人が決意したと知るや、すべての段取りを組んで、面倒をみてあげる。お節介を焼かず、控えめに見守り、求められたら全力で応える。
 男の友情とは、かくありたい。

 「心配するな。このキャンプで俺も酒を断った」

 あんたもデスか(笑)。
 全編に渡って必要以上に感傷的にならない演出がいい感じデス。
 破滅的な人生を突き進みながらも、実は友人に恵まれているというあたりに救いを感じますな。他にも何人か、実は見守ってくれている友人がいるのです。ベタベタしないのがいいね。

 ジェフの歌うカントリーソングが随所に挿入され、なかなか聞かせてくれます。吹き替えではなく全部、ジェフ・ブリッジスの喉自慢大会なので、ファンには嬉しいところでしょう。
 そしてジェフの弟子であり、いまや師匠を超える人気の若手シンガー役がコリン・ファレル。彼もまた自分で歌う。
 ジェフとコリンのデュエットシーンは、珍しいけど非常に巧かった。これはなかなか一見の価値ありかも。

 しかしコリン・ファレルが出演しているとは知らなんだ。
 この映画の主演はジェフ・ブリッジスとロバート・デュバルとマギー・ギレンホールということになっていて、コリン・ファレルは最後の配役の列の中に小さく出てくるだけ。
 準主役級の役なのに。実に奥ゆかしい。
 まぁ、あの特徴的な眉毛がある限りコリン・ファレルを見紛うことはありますまいが(笑)。

 マギー・ギレンホールとの淡い恋も描かれはするものの、これは破局する(酒の所為で)。しかし依存症を克服しても、関係が修復されるわけではない。
 激しい恋愛関係にはならなかったが、親しい友人がまたひとり出来た、という感じに落ち着く。そっちの方がいいような気もしますね。

 もうひとつ、一人息子との関係も描かれる。何度も結婚と離婚を繰り返し、そのうちの一人の女性とは息子をもうけたが、二四年間音信不通。今更、息子と関係修復を思い立っても、こちらはもうどうにもならない。
 「身勝手すぎる」となじられておしまい。

 何もかも思い通りにはなりません、というビターな味わいがいいデス。
 それでもロバート・デュバルはジェフの味方。

 「電話しないよりも、した方がいい。諦めずに掛け続けろ」

 幸せは腹八分目で良しとせよ、というような人生訓を感じマス。
 特にラストシーンは非常に穏やかで落ち着いたいい感じの余韻を残してくれたので気に入りました。

 しかし多くの点で『マイレージ、マイライフ』と似たような印象を感じてしまいますな。『マイレージ~』はそんなに破滅型の主人公ではないが……。
 後先考えずに突っ走ってきた男が、自分の人生はこんなんでいいのか的に進路修正を図るあたりとか。
 望んだことが全部実現するわけ無いだろ的なビターなハッピーエンドとか。

 それじゃ、ジェフ・ブリッジスではなく、ジョージ・クルーニーに主演男優賞をあげても良かったんじゃ?
 うーむ。多分、どっちでも良かったとは思う。
 でもジョージが歌う場面は無かったな。
 やはり吹替なしでカントリーソングを歌いきったジェフの方が有利だったのか。
 そのくらいの差しか思いつかん。
 ジョージ・クルーニーも次回作ではちゃんと歌おう(笑)。




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