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2010年3月21日日曜日

マイレージ、マイライフ

(UP IN THE AIR)

 あなたの人生のスーツケース、詰め込みすぎていませんか?
 ほっとけ!

 今年(2010年・第八二回)のアカデミー賞作品賞ノミネートも納得の出来でありましょう。
 私としては『しあわせの隠れ場所』よりは上位だと思うし、『ハート・ロッカー』を観てヘトヘトに疲れるよりも、こっちの方がいいです。
 割と軽めの物語ではありますが、私は気に入りました。
 どうもアカデミー賞の審査員達はシリアス作品を選ぶ傾向にあるみたいですが、ハードすぎるのを選んでもなあ。

 ついでにジョージ・クルーニーは主演男優賞にもノミネートされていましたが、こちらはジェフ・ブリッジスに掠われてしまった。不運よのう。
 ジェイソン・ライトマン監督も不運だ。あの『ゴーストバスターズ』のアイバン・ライトマン監督の息子ですが、もう立派なものです。でも前作『JUNO/ジュノ』もアカデミー監督賞にノミネートされ、今度もまた逃すとは。あのときはコーエン兄弟に負けたのだった(『ノーカントリー』に!)。
 腕は確かなのになあ。

 しかしアメリカにはいろんな商売があるものです。解雇通告を専門に請け負う会社なんて成り立つのか。
 本人に直接リストラ宣告できないヘタレな経営者に成り代わって「あなたはクビです」と告げるのが主人公のお仕事。当然、様々な企業から雇われ、各地の支店や営業所を回って、いろいろな従業員に解雇通知を行う。
 この会社では、何人もの〈解雇通知戦士〉たちが常時、世界を飛び回り、「人生最悪の知らせ」をもたらし続けている。なんかイヤな会社だなあ。
 ジョージ・クルーニーはその中でも腕利きの〈解雇通知戦士〉の一人。
 ある種の死神やね。
 365日中322日までが出張という凄まじい生活。普通の人なら、とっくに過労死でありましょう。

 もはや飛行機と空港に棲んでいるのも同然。飛行機に乗り込む前に、空港のチケット担当者から「お帰りなさい」と声をかけられる始末ですが、本人はこの生活を楽しんでいる(笑)。
 独身を貫き、子供も設けず、親類家族とは疎遠、旅することが人生そのものという生き方。
 たまに自宅に戻ってきても、部屋の中はホテルの客室よりも閑散としていて、却って落ち着かないというのが徹底しています。

 うーむ。
 ある意味、モノに縛られない生活には、ちょっと憧れるものがあります。必要なモノはスーツケースにすべて入る。
 でもやっぱり私には無理か。本とDVDをすべて捨てないと出来ない生活だからな。書籍も映画も全部、電子化してオンデマンドで呼び出せるようになったら、あるいは……(汗)。

 さて、そんな主人公の生活にとって脅威な計画が持ち上がる。
 大卒の新人(アナ・ケンドリック)が提案する「ネットで解雇通知計画」。スカイプだかを使ってTV電話式にモニタの中から解雇を通知しようと云う計画である。これによって大幅な出張費用の削減を図ろうというのだが……。
 当然、ジョージはこれに反対する。古いタイプの人間だし、何より出張することが楽しみなのに、それが奪われてしまう。

 「他人の人生を変えてしまう最悪の通知」は相対で話さなければダメだ──という主張には一理あります。そんな通知をネットでお手軽にされてたまるか。
 このあたり、『サロゲート』でも扱われたテーマが感じられます。
 人間には生身でのコミュニケーションが大事なんだ。たとえそれが最悪な知らせをもたらすものでも。

 そこで上司はジョージに新人研修を兼ねた出張を命じる。まず新人に実地で解雇通告を試させて、問題なければネット計画を推進しようという腹づもりである。
 気楽な一人旅が好きなジョージは気が進まないが、業務命令なのでやむを得ない。
 かくして旅慣れたジョージと、理論だけで実戦経験のない新人──旧人類なオヤジと、ネット世代の若者の組み合わせ──の出張旅行と相成るわけですが……。

 解雇通告された従業員の反応はまさに十人十色。日本のように終身雇用制ならともかく、アメリカでもリストラはショックらしいのが興味深い。
 「長年、会社の為に尽くしてきたのに!」と泣き崩れる男性。こういうのは、万国共通なものらしいですね。

 マニュアル式に仕事を進めようとする新人では巧くいく筈がない、というのは誰にでも判りますね。クールにビジネスライクに運ぼうとして、却ってトラブルになりかけ、そこをジョージの機転で回避するというのはパターンですが巧い。
 この主人公のとっさの機転と交渉術の巧みさが見事です。特に前もって用意した台詞ではないのに、盤石の重みを感じさせ、何となく解雇自体を納得させるというのは、まさにベテランというか神業でありましょう。
 それを真似て新人が同じ台詞を次の従業員に対して使うのですが、これがさっぱり通じない。一言一句そのままなのに、何とも薄っぺらで軽薄な言葉に聞こえてしまう(笑)。
 このあたりに、人間同士のコミュニケーションに関する真理がありそうですな。ただの言葉だけではコミュニケーションは成り立たないものらしい。

 印象的なのは、新人が出張中に、恋人から別れ話を持ちかけられて泣き出す場面。ケータイをいじっていて突然、泣き出す新人。

 「どうした?」
 「カレが別れようって。メールで一行だけ。こんなのって酷い」
 「ネットで解雇通知するのと同じじゃないか。気にするな」

 慰めのつもりの言葉が逆効果に(笑)。
 しかしこの物語の本質を突いた見事な場面ですな。

 案の定、千差万別の人間の反応に、ネットでの通告は対応できないと云う、あまりにも当たり前な結論が導かれて計画はお流れに。
 但し、物語はジョージが全面的に正しいとはならない。仕事では、人との接触を強調するくせに、プライベートでは頑ななまでに孤独を貫いて、それが正しいわけがない。
 後半ではジョージが家族との絆を取り戻したり、人並みの幸せを追求しようと、柄にもないことを考えたりします。魔が差したかジョージ!
 でも人生、そんなに巧くいくことばかりではない。

 ちょいとビターではあるが、前向きな結末(?)が気に入りました。
 判っちゃいるが出来ないことってのもあるよねえ。

 ──晴れた夜空を見上げるとき、星々の中でひときわ明るく輝く光があるだろう。それが私の乗る飛行機だ。

 戦士は今日も空を翔る(イヤな仕事ですが)。




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