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2011年2月26日土曜日

英国王のスピーチ

(The King's Speech)

 英国王室を描いた作品としては『クィーン』(2006年)を超えちゃったかもと思えるくらいの傑作でしょう。

 ジャンルとして「英国王室もの」が確立しているのか否かはともかく、『ブーリン家の姉妹』『エリザベス』『エリザベス : ゴールデンエイジ』と続けて観賞し一六世紀の英国王室を俯瞰するもいいが、『ヴィクトリア女王/世紀の愛』『英国王のスピーチ』『クィーン』と続けて観賞し一九世紀から二〇世紀までの英国王室を俯瞰するのも……ちょっと苦しいか。

 主役のジョージ六世を演じるコリン・ファースがやはり素晴らしいデスね。
 今年のオスカー候補(主演男優賞)ですが、昨年も『シングルマン』でノミネートされながら逸しているので、今年は是非、受賞して戴きたい。
 出来ることなら、ジェフリー・ラッシュの助演男優賞と並んでダブルで獲って戴きたい。
 それからヘレナ・ボナム=カーターにも助演女優賞を。
 ああ、もうそうなりゃ監督賞も作品賞も……と云いたいが、それではデヴィッド・フィンチャー監督の方が少し可哀想なので、『ソーシャルネットワーク』にも少し分けてあげたい。うーむ。

 この映画は、英国王室版『マイ・フェア・レディ』とも云える。
 いやもう、ジェフリー・ラッシュがヒギンズ教授に見えて仕方ありませんでした。心なしかレックス・ハリソンにとても似ているように思える(バルボッサ船長なのに)。
 いつコリン・ファースに向かって「スペインの雨は主に平地に降る」と云い出すのだろうかと、ちょっと期待していたのですが。
 劇中で、コリン・ファースに吃音を直す為に歌いながら話すレッスンを課す際には、やはり「踊り明かそう」も歌ってほしかった(笑)。

 ガイ・ピアースがジョージ六世の兄であるエドワード八世として登場しますが、今回はちょっと影が薄い上に憎まれ役。
 父王に「あいつが継げば一年で国は滅びる」と云わしめるくらい王の器ではない。実際、色恋にトチ狂っているとしか思えぬ。
 史実として、在位が一年未満というのも凄い。即位したはいいが、戴冠式が行われる前に退位か。チャールズ皇太子のスキャンダル以前は、これが英国王室最大の醜聞だったと云うから、凄かったのだろうなあ。

 脇役として登場する歴代英国首相もなかなか興味深い。
 スタンリー・ボールドウィン首相に、ネヴィル・チェンバレン首相。
 そして海軍大臣にして次期首相ウィンストン・チャーチルまで。
 特にチャーチル役のティモシー・スポールが堂々とした押し出しで貫禄たっぷり。〈ハリー・ポッター〉シリーズにワームテイル役で登場しているので、なんか悪役顔な印象が……。
 〈ハリポタ〉と云えば、二代目ダンブルドア校長役のマイケル・ガンボンもジョージ五世として登場しておりましたな。

 そもそもはこのジョージ五世の子育て方針が間違っていた所為で、英国は未曾有の国難に直面しかけるのだというのが、明らかにされる。このコリン・ファースの語る幼年時代は、悲惨というか何と云うか、回想シーンを使わずに淡々とコリン・ファースが語る場面だけで、泣けてくる。
 これはもう、子供に吃音になるなという方が無理。『エリザベス』や『ヴィクトリア女王/世紀の愛』でもそうでしたが、王族だから幸福な子供時代を過ごしていたのだろうなんて、とんでもない幻想ですな。
 これが現代なら間違いなく児童虐待ですぞ。
 しかしそれでも王の重責を担おうとするコリン・ファース。強い人だ。

 劇中で、戴冠式の様子を撮影したニュース・フィルムを王室の家族で観ている様子が笑えます。
 愛娘エリザベスちゃんは、大好きなパパの晴れ舞台を見て大喜び。しかし次のニュースはドイツで吹き荒れるナチスの映像だった。
 身振り手振りで劇的に演説するアドルフ・ヒトラー。

 「パパ、あのひと何て云ってるの?」
 「判らないけど……巧い演説だなあ」

 こんな奴といずれ戦わねばならないのかと暗澹たる思いに囚われるコリン・ファースに同情します。演説という一点に於いてドイツとイギリスは対極的だったのねえ(笑)。

 実はジェフリー・ラッシュは「ドクター」ではない。しかし権威ある専門家よりも頼りになり、一見エキセントリックな治療方法にも効能がある。理論よりも実践で裏付けられた治療法ですね。
 治療の為には相手が王族だろうと対等の立場で接していこうとするジェフリー・ラッシュの姿勢が素晴らしい。
 そして本物の友情が育まれていく過程に感動します。

 「急いで話さなくてもいい。間を置いて話すと厳粛な感じがするものです」
 「それなら私は史上最も厳粛な国王だな」

 そしてクライマックス。戦争突入を前にした世紀のスピーチが圧巻。
 ベートーベンの交響曲七番が実に効果的に使われます。私はこれを聞くと『未来惑星ザルドス』を思い出してしまうのですが(爆)。

 一世一代の大舞台を乗り切り、宮殿前の民衆の歓呼の声に応えるジョージ六世と、それを背後で控えめに見守るジェフリーの表情がいい。
 治療の過程で互いにファーストネームで呼び合う間柄になったが、スピーチの後では「ローグ」「陛下」と言葉を交わす。この控えめで分を弁えたジェフリーの態度。

 エンドクレジットで、その後の「ジョージ六世とライオネル・ローグ」の二人について語られるのも興味深い。
 やはり二人は終生の友として、友情を育んだのだという。それほどの功績を残しながら現在に至るも無名のままとは信じられませぬな。どこまで控えめな人なのだ。
 これが英国紳士というやつなのか。

 この映画には、ジョージ五世 > エドワード八世 > ジョージ六世と続く王の系譜が描かれます。ジョージ六世の愛娘エリザベスちゃんも登場するので、ウィンザー朝がほぼ全員網羅されることに……。
 初代エドワード七世も登場すればウィンザー朝コンプリートだったのに……って、映画の内容とは関係ないか(汗)。

●余談
 『ソーシャルネットワーク』と『英国王のスピーチ』のどちらかを選べと迫られたなら、迷わずこちらを選びたい。
 多分、こっちがアカデミー作品賞を獲ると思うのですがねえ。
 まあ『ブラック・スワン』も『ザ・ファイター』も『トゥルー・グリット』もまだ観ておりませぬが。
 うーむ。『インセプション』や『トイ・ストーリー3』の受賞は難しそうだなあ。『トイ・ストーリー3』は『ソーシャルネットワーク』には勝てるかもだけど、『英国王のスピーチ』には負けるかも……。ううう。




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