もうすっかりハリウッド俳優ですねえ。
渡辺謙の他にも、クリストファー・ノーラン監督作品『バットマン:ビギンズ』と『ダークナイト』に出演した俳優さん達が脇を固めてくれています。
キリアン・マーフィ(怪人スケアクロウ)とか、マイケル・ケイン(執事アルフレッド)とか。
他にも主演のデカプーはとりあえず置いといて、知った俳優さんが多数登場してくれたので嬉しくなりました。
『G.I.ジョー』と『(500)日のサマー』のジョゼフ・ゴードン=レヴィットとか(あの草食系男子役だったひとが、今回は実にカッコいいぞ)。
トム・ハーディ──『スタートレック/ネメシス』ではピカード艦長のクローンだったひとですが、ちょっと貫禄つきました(笑)。
そしてトム・ベレンジャー! 『山猫は眠らない3』以来ですねえ。結構、老けてしまったが、お元気そうで何よりデス(今までナニしてたんだろう?)。
他にもマリオン・コティヤールとエレン・ペイジといったタイプの異なる女優さんが花を添えてくれますが、基本的に漢の映画なので恋愛要素は少ないです。
実に凝った内容のSFアクション映画。ボリュームもたっぷり。フツーのアクション/サスペンス映画三本分くらいあります。上映時間も二時間半の超大作。
人間の脳内に潜入し、アイデアを盗み出す企業スパイであるデカプーへの新たな仕事の依頼とは──。
アイデアの〈抜き取り(エクストラクション)〉ではなく、〈植え付け(インセプション)〉という超難度の仕事。
SFではあるが細かい理論とかは一切、無し。とにかく可能なの。納得して下さい。
映画の基本構造は、難易度の高い依頼を請けたプロフェッショナル達の仕事を描く──と云うもので、『スパイ大作戦』とか、昔の泥棒映画によくあるパターンを彷彿とさせてくれます。
仕事の依頼>計画立案>仲間集め>計画実行>不測のアクシデント……といった流れはよくあるお馴染みのパターンなので、難しくはないです。
逆に基本構造が黄金のパターンなので、奇想天外な設定もすんなり理解できます。
多分、SF者でない観客にも馴染みやすいことでしょう。
複雑な設定ですが、まず計画立案時に「何をどうするのか」を説明してくれるので非常に判りやすい。
スレた観客──私みたいな──は「絶対、そう巧くいかない」と予測できてニヤニヤしてしまうのですが(笑)。
アイデアの植え付け──インセプション──は、標的に気付かれてはいけない。絶対に本人が「自分で思いついた」と信じるように仕向けることが必須である。
このあたりで「騙しのテクニック」を駆使する『スパイ大作戦』風の作品が好きな人にはお薦めデス。
更に、標的の深層心理にインセプションを敢行するに当たって、深い深度まで潜らねばならない。ここで〈夢の階層〉という概念が披露される。
デカプーが得意とするテクニックは、二重構造の夢。通常のエクストラクションなら、大抵はこれで巧くいく。「夢の中の夢」、「夢から覚めたと思ったら、まだ夢の中にいた」というシチュエーションが標的の油断を誘い、アイデアの奪取を可能にするのだが、インセプションにはこれでも充分ではない。
前代未聞の〈三重構造夢〉がどうしても必要になる。
その為の仲間を集めていく中盤がなかなか面白いです。馴染みの仕事仲間や、一芸に秀でたプロフェッショナルをスカウトしていくあたりが、パターンですが楽しい。
多人数で夢を共有し、夢の各階層毎で同時に連係プレーをする為の段取りやら仕掛けやらが説明されていきます。
依頼主である渡辺謙も、デカプーと一緒に夢の中に潜入し、仕事の成り行きを確認したいと云い出したりするのもお約束。
そして計画実行。
夢の中の夢の中の夢の中へ──と云うワケで、ここからは三つの世界が同時に描き出されていく。非常に複雑なシチュエーションですが、事前の解説があるので実に判りやすいです。
監督自身が脚本も書いていますが、『メメント』以来の単独脚本だそうな。
それぞれの階層での時間経過が異なるという設定も面白い。
深い階層ほど時間経過が早くなる。第一階層の数秒が第二階層の数分に、更に第三階層では数時間にまで引き延ばされる。
実は更に深層には、墜ちたら帰還できない〈虚無〉という深淵が口を開けており、かつてデカプーはそこまで墜ちたことがあるらしいのですが……。
完璧に思われた計画が、些細なアクシデントから崩壊の危機に直面し、それをあの手この手で乗り越えていく。その中でデカプーの過去や、トラウマも暴かれ、絶体絶命のピンチに直面する……。
いつの間にやら標的の深層心理に、デカプー自身の深層心理が混入しており、計画遂行を邪魔する最大の敵は、自分自身のトラウマだった。
脚本も判りやすいが、個別の夢の場面毎にロケ地を変え、シチュエーションを変えてドラマを進行させてくれるので、ボリューム感もたっぷり。活字にすれば好き勝手に書けるが、それを映像化する為に世界中でロケしまくった撮影隊の苦労が忍ばれます。
出来る限り現実にロケし、CG合成はさりげなく挿入するだけという演出方針が見事な効果を生み出していますが、さりげないCGも挿入するときは大胆に。
「街が折りたたまれる」なんぞという光景が実にリアルに描かれています。
他にもエッシャーの騙し絵のような風景を実際に作り出したり、意外な場所で無重力状態が現出したり、視覚効果は凄いです。多分、来年のアカデミー賞視覚効果部門はいただきですね(笑)。
クリストファー・ノーラン監督もヒット作を連発したお陰で、ちょっと遊べるようになったらしく、この映画の中には随所に監督の趣味的シチュエーションが描かれています。映画ファンならニヤリとすること請け合い。
まず『トプカピ』が好きだというのは非常によく判る。泥棒映画の基本よね。
こんなところで『2001年宇宙の旅』ですか、とか……。
実は監督は『女王陛下の007』が大好きだった、とか(笑)。
しかし選りに選って歴代ボンドの中で「ジョージ・レイゼンビーが一番好き」というのは如何なものか。そこだけは考え直して下さい、監督。
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