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2012年9月7日金曜日

デンジャラス・ラン

(Safe House)

 デンゼル・ワシントンとライアン・レイノルズが共演するサスペンス・アクション映画です。
 〈伝説〉と呼ばれたベテランのスパイと、まだ現場に出してもらえない駆け出しの若造の組み合わせという、定番中の定番なコンビです。
 但し、デンゼルは一〇年前にCIAを裏切ったとされて手配中の身。たまたまその身柄を確保してしまった若手のCIA局員が、追われるデンゼルを連れて逃避行を続けるという趣向。
 傑作とは云わないまでも、手堅くまとまった良作でした。

 冒頭、いずこかの都市を空撮で映していく場面──カメラが山を越えていき、海岸沿いの都会が見えてくる──で、この見慣れない都市はどこだろうと思いました。NYやLAなどのアメリカの大都市とは趣が異なります。はて、ヨーロッパか。
 すぐに判りますが、ケープタウンでした。南アフリカとな。してみると冒頭の山はテーブルマウンテンでしたか。
 実は本作は、アメリカ合衆国と南アフリカ共和国の合作だったのでした。ほとんど予備知識の無いまま観たので判りませんでしたが、なかなか興味深い組み合わせです。南アフリカは、ヨーロッパ各国との合作映画は多いが、アメリカと合作するケースはあまり観ないですね。
 SF映画の『第9地区』(2009年)なんかは記憶に新しいところですが(あれは米・南ア・ニュージーランドの合作)。

 デンゼルは『アンストッパブル』(2010年)、ライアンは『グリーン・ランタン』(2011年)以来ですが、この先も二人には出演作がどんどん控えているようで嬉しいデス(でもサスガに『グリーン・ランタン2』は無いか)。
 監督はダニエル・エスピノーサ。馴染みの無い監督です。スウェーデン製の犯罪アクション映画『イージーマネー』(2010年)の監督であると聞いても、まったくピンと来ませんデス(汗)。
 でも本作の出来を観る限り、腕は確かなようです。

 ライアンは若きCIA局員ですが、任務は退屈な「セーフハウスの管理人」。ヨーロッパへの配置転換を望んではいるものの、希望通りには行きそうにない。
 セーフハウスは「隠れ家」のことで、警察関連の映画では時々、見かける代物ですね。よく「裁判で証言する予定の証人を匿う」と云う証人保護のシチュエーションで登場したりします。
 CIAはこれを世界各地に幾つも抱えて運用しているらしい。いつなんどき、どんな用途で必要になるか判らないので、平時から身分を隠した局員が配置されている。

 しかしこれは暇な任務で、平時にはほとんどすることがない。必要となるときでも、詳細は知らされず、「○○時に〈お客〉が行く」と連絡が来たら待機して、数日間だけ〈お客〉を預かる。
 その人が誰で、どんな必要に駆られて身を隠さねばならなくなったのか、管理人が知ることはあまり無い。
 ライアンとしてはこんな退屈な任務よりも、現場で活躍するエージェントになりたいのに。

 一方、ライアンの知らぬところでスパイの暗闘が始まっていた。手配中のデンゼルがケープタウンに現れ、何者かと取り引きするという場面。怪しげな店で、怪しげな男と会い、怪しげなカプセルを受け取る。
 その直後から命を狙われ、必死に逃走するデンゼル。かなり緊迫したチェイスで序盤から盛り上げてくれます。
 ケープタウンの街頭で追いつめられたデンゼルは、苦し紛れに目の前にあったアメリカ総領事館に逃げ込むのだった。

 驚いたのはCIA。長年手配中だった組織の裏切り者が、突然現れたのだから当然か。直ちに尋問チームを派遣するが、何者かに命を狙われているのでしばらく身を隠す必要がある。
 かくしてデンゼルは、ライアンの管理するセーフハウスに移送されることとなる。CIAでは知らぬ者のない〈伝説の男〉が自分のセーフハウスに転がり込んで驚くライアン。

 物語はほぼケープタウンで進行していきますが、時々ラングレーのCIA本部の指令室に切り替わります。
 副長官として登場するのが、燻し銀のサム・シェパード。CIA高官の役としては、『顔のないスパイ』(2011年)のマーティン・シーンといい勝負です。
 サムの配下でエージェント達に指令を出す指揮官が二名。ヴェラ・ファーミガとブレンダン・グリーソン。
 ヴェラは近年も『ミッション : 8ミニッツ』(2011年)や『フェイク・クライム』(同年)でお見かけしましたですね。
 ブレンダンも〈ハリポタ〉シリーズでお馴染みか。デカい義眼をしていないとマッド・アイ・ムーディと同じ人には見えませんけど(笑)。〈ハリポタ〉以外でも『グリーン・ゾーン』(2009年)に出演していますが、CIA局員役の多い人ですねえ。厳めしいからですかね。

 デンゼルがセーフハウスに身柄を拘束されるや、存在自体が秘密の筈の隠れ家が何者かの襲撃を受ける。ライアンは何とかデンゼルを連れて敵から逃れるが、何故襲撃者らに居場所が突き止められたのか判らない。何者かがセーフハウスの場所を漏洩させない限り……。
 そして執拗に命を狙われるデンゼルが抱えている秘密とは何か。本部に助けを求めるが、救援が到着するまでは自力で凌がねばなららない。
 その上、デンゼルはライアンからも逃げだそうとするので、気が休まる暇がない。しかもデンゼルは恐ろしく狡猾で、人心操作の達人とまで云われた男。こいつの云うことは何一つ信用できない。
 かくして「悪魔と逃げる三二時間」の幕が切って落とされる。

 ケープタウンの景観が随所で効果的に使われ、サッカースタジアムや地下鉄、さらに街頭のデモなども効果的に使われていました。特にサッカースタジアムの群衆に紛れて行われる追跡劇はなかなか緊迫感があって盛り上がります。
 カーチェイスの描写も迫力ありまして、緩急つける演出力はなかなか手堅いです。
 最近の流行なのか、手持ちカメラのブレまくり映像がリアルですが、こういうのは好みの問題ですねえ。時々、ブレ過ぎなんじゃないかと……。

 また、新人ライアンがベテランであるデンゼルに敵うべくもないと云う実力差を見せつけられる場面も巧いです。デンゼルは追手の追撃から逃げきるまではライアンと一緒にいるが、命の危険が去った途端に、まさに赤子の手をひねるが如く、何の苦もなくライアンの拘束から逃れてしまう。
 挙げ句の果てに「プロしか殺さんよ」とまで云われて逃げられる。ライアンにとっては屈辱。

 しかしライアンがやられっ放しではないというのがいいです。経験の浅い新人ではあるが、決して無能ではない。諜報活動の最前線に出たいと希望するだけのことはあります。
 悪魔のように狡猾なベテランに対して、自分がリードしているのは〈地の利〉だけ。ケープタウンに着任して一年間の期間だけはデンゼルの先を行っている。
 頭をフル回転させ、デンゼルの言動を思い起こして、どこへ行こうとしているのかを推理する。ミステリとしても巧い演出です。

 ここで登場するのがケープタウンのランガ地区。テーブル湾の美しいビーチと近代的な都市としてのケープタウンから一転、汚れまくりのスラム街が広がる景観は実に印象的です。アパルトヘイトの遺産というか、今でも貧困層が暮らす旧黒人居住区を指して「タウンシップ」と呼ぶそうですが、ケープタウン周辺で最も古いタウンシップが「ランガ」であるそうな。
 このスラム街の風景は『第9地区』でも見覚えがありますね(あっちは舞台がヨハネスブルグですが)。エビ人間共を押し込めたスラム街〈第9地区〉と云うのが、ケープタウンにあった黒人居住区〈第6地区〉をモデルにしているそうなので、風景が似ているのも当然か。
 日に灼け色褪せたコンテナと堀っ建て小屋が、てんでバラバラに並んでいる地域です。コンテナを家にして住むというのも、劣悪な環境ですが、せめてもう少し整然と並べられないものか。しかも汚いし。

 一方、CIA本部ではサム・シェパードの指令によりヴェラとブレンダンも現地に派遣される。順当に考えれば、セーフハウスの内部情報を漏洩させた裏切り者は、この二人の上司のどちらかだろうと推察されます。
 またCIA内に裏切り者がいるのであれば、デンゼルが逃げている理由も朧気ながら推察されます。
 果たして本当に悪いのは誰なのか。デンゼルが握っている情報とは何か。

 新人とは思えぬ機転の利かせ方でデンゼルを再補足したライアンとの再度の逃避行が続きます。銃撃戦とカーチェイスがテンポ良く挿入され、緩急つける演出が巧いです。
 更にドラマはケープタウン郊外へと移行していきます。乾燥した平原に一軒だけポツンと建つ農家など、ドラマの展開に沿って景観が変わっていくのが興味深いです。
 本作では南アフリカ共和国の様々な景観が楽しめます。但し、どこへ行っても陽射しは強烈ですが。
 二人の上司もライアンに追いついてくる頃、すべてが明らかとなり、本当の裏切り者が誰なのかが判明する。特に意外ではありませんでしたね。やはりな。

 最後の対決でデンゼルは撃たれますが、真の裏切り者も倒され一件落着。秘密の詰まったカプセルをライアンに託すデンゼル。
 「巧くやれよ。お前は俺より優秀なんだからな」と云うのは新人には過分の誉め言葉ですね。
 後を託されたライアンの、その後のケリの付け方も鮮やかでした。

 手堅くまとまった良作であり、それなりに評価が高かったのも肯けますが、早速、続編製作も決定したとか。でもどう続けるのか。
 実はデンゼルは助かったのか? あの状況で一命を取り留められたら奇跡なんですけど。




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