2011年10月29日土曜日

ミッション:8ミニッツ

(Source Code)

 『月に囚われた男』のダンカン・ジョーンズ監督の傑作SF映画です。SF者なら観なきゃ損。
 主演は『マイ・ブラザー』、『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』のジェイク・ギレンホール。毎年、ジェイク主演の映画が公開されるとは嬉しいですね。
 共演はミシェル・モナハン、ヴェラ・ファーミガ、ジェフリー・ライト。

 列車事故の犠牲者から、死亡する直前の八分間の記憶を抽出し、再生することによって犯人を特定しようというタイムリミット型のサスペンス映画でもあります。原題の「ソース・コード(“Source Code”)」というのは、要するにコンピュータのプログラムのことで、捻りのない題名ではあります。なんかもっとソレっぽい名称のシステムにすればいいのに。
 コンピュータのプログラムなので、何回でも再生が可能。ジェイク・ギレンホールは、この死者の記憶を繰り返し体験させられる被験者を演じております。

 設定上、ジェイクは軍人であり、これは任務であると説明される。さすがに一般人にこんな使命を託すわけにはいかないでしょう。かなりキツい体験です。なんせ「列車の中で目が覚めて、八分後には爆発で死亡する」運命が確定しているのだから。
 しかし列車爆破はほんの手始めに過ぎず、犯人は次なる爆破テロを予告している。次は大都市シカゴの何処かで、更に大規模なテロが実行されるとあっては、ジェイクがどんなに泣き言を訴えようが、構ってはいられない。
 一度で犯人を見つけ出せなければ、もう一度。それでもダメならもう一度。
 おそらく列車の乗客は犯人の姿をどこかで目撃していた筈だから、その記憶の中から何とか見つけ出すのが最も手っ取り早い方法だと云う理屈は、理解出来ますが……。

 しかしSF者でなくても、すぐに妙なところに気付かれるでしょう。
 他人の記憶を何度も追体験できるのはいいのですが、二回目、三回目と繰り返されると、どんどん発生する出来事が異なってくる。既に起こってしまった事象の「記憶」なのだから、何度体験しようと筋書きは同じ筈なのでは。

 実はこれは、抽出した記憶を元に、量子コンピュータの演算により観測される一種の平行世界なのであると、ジェフリー・ライト演じる博士が説明してくれます。
 被験者であるジェイクの意識は平行世界にアクセスしているのだという。
 量子力学的な平行世界というと、マイケル・クライトン原作のSF映画『タイムライン』もそうでしたか。アレもまた時間旅行ではなく、平行世界への移動である点が、本作と類似しています。SF者でない観客にはどうでもいいことですけど。

 まぁ、しかし平行世界を丸ごと一つ演算するのに必要なリソースはどのくらいになるのか、考えると空恐ろしいものがありますが、量子コンピュータなのだから大丈夫なのでしょう。
 それより、余所の世界で犯人を見つけることが、こっちの世界で犯人を探すことになると云う理屈は正しいのですかね。
 時空連続体に無数に連なる平行世界と云うからには、どんな可能性もあり得るのでしょうから、こっちの世界とは犯人が別人である世界にアクセスしている可能性もあるのでは。
 何度もシミュレートするたびに少しずつ異なるバージョンの世界が描かれますが、それらの世界の犯人が常に同一であると信じる根拠はあるのかなぁ。そんな理屈をこね始めるとキリが無いと云うか、面白くないのでSF者の戯言としてスルーするのが宜しいのでしょう。

 主人公の境遇が、「気付いたときには繰り返されるループの中にいた」という設定が、ジョーンズ監督の第一作『月に囚われた男』と似ております。監督はこの手の物語がお好きらしい。
 またもう一つ、この映画を観ていて思い出すのは、桜坂洋の『All You Need Is Kill』(集英社スーパーダッシュ文庫)というSF小説です。ライトノベルとは云え、これは傑作なので未読の方にはお奨めしたい。
 「時のループに捕らえられた主人公」という設定が、本作と似ています。
 ちなみに『All You Need Is Kill』は英訳されて、映画化権をワーナー・ブラザーズが購入し、近年中に製作が開始されるそうなので楽しみなのですが、どうなりますか。ある意味、本作と設定がかなり似ているので、製作中止にならないことを祈るばかりです。

 何度繰り返しても、列車の爆破は防げない。怪しい乗客は何人もいるが、目星を付けてもハズレばかり。爆発。死亡。爆発。死亡。よく発狂せずに頑張れるものです。
 しかし「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」とはよく云ったもので、繰り返すうちに次第に成果も上がり始める。仕掛けられた爆弾を発見し、次に起爆方法と解除の方法も判る。
 難しいアクション・ゲームでも諦めずにトライするうちに慣れてくるのと同じ理屈ですね。

 八分間に列車内で起こることをほぼ把握し、何度も繰り返すうちにジェイクは、同乗している女性客──これがミシェル・モナハン──に好意を寄せるようになり、次第に彼女を助けたいと思うようになる。しかし「既に死亡した乗客」をどうやって助けることが出来るのか。
 ここで体験しているのが平行世界であるという設定が効いてくるワケですね。
 現実──こっちの世界──では手遅れでも、別の世界では「爆発が未然に防がれた世界」を作り出すことが出来るかも知れないという理屈ですな。

 実は他にも色々とSF的な設定があって、ジェイク自身の境遇にも仕掛けがあったりします。映画通であれば、なんとなく「実は──じゃないかな」と思うところがあるでしょう。伏線がちゃんと張ってあるので、注意深く観ている人には、特に意外なことは無いと思います。

 そして遂に難しいアクション・ゲームも慣れれば何とか操作できてしまうように、犯人を発見し、起爆方法も特定できてしまう。ここでは詰めが甘く、またしてもバッド・エンドとなってしまうのですが、最初に比べれば格段の進歩です。完全なクリアまであと一歩。
 でもジェフリー・ライト演じる博士にとっては、クリアすることが目的ではなく、犯人を突き止めることこそが目的なので、例えバッド・エンドでも予告された爆弾テロを防ぐことが出来さえすればそれでいいのだと、これ以上のリトライを許可してくれない。
 それどころかもっと非情なことを云い出す始末。博士のことをいい人だと思っていたのに、これにはショックを受けました。

 作戦のオペレータであるヴェラ・ファーミガがジェイクに同情してしまう気持ちがよく判ります。軍人と云えど人の子ですからねえ。理不尽且つ人道にもとる命令には抵抗するべきである。
 ジェイクの懇願を聞き入れ、命令に背いてジェイクを最後の八分間に送り出す。

 試行錯誤の末、この八分間の達人と化したジェイクの最後のプレイは実に痛快です。
 最初のうちは、ナニがナニやら訳が判らず、オタオタしているうちに爆発してゲーム・オーバーだったのに。もう最後は素晴らしい。何が起きるか、どこに誰がいて、何をしているか知り尽くした上での行動ですから無駄がない。
 最初の一分で女性を口説き、続く三分で爆弾を解体し、ついでに犯人逮捕。更に余った時間で実家に電話し、心残りだった父親との和解まで済ませてしまって、再び女性の元に戻る。
 まったく無駄のない動作で軽々と「世界を救って」みせる。
 八分間が経過し、幸福に包まれた状態で「世界が静止する」という演出には涙が出ます。

 ここで静止したまま、物語も終わりかと思いきや、実はまだ続きがあってハッピーエンドが用意されています。これは脚本には無かった、ジョーンズ監督のオリジナルだそうですが、私もこちらを断然、支持いたします。
 あの「世界が静止する」というのは、こちらの世界の量子コンピュータが演算できる限界が八分間だからであって、何も「向こうの世界」が八分間で終わるわけではないということですね。観測できないからといって、消えて無くなるわけではないという解釈でしょう。
 更に、向こうの世界にもまた同じ研究所や、同一人物のオペレータがいて……という入れ子構造も、特に難しいことではないと思うのデスが(伏線も張っているし)。

 「この映画のラストは映画通ほどダマされる」という触れ込みだったので、気負って観ておりましたが、ちょっと拍子抜けしました(実はまだ欺されている?)。
 SF映画としては、非常に真っ当で良くできていると思いますよ。





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