2011年11月1日火曜日

ステキな金縛り

(ONCE IN A BLUE MOON)

 三谷幸喜監督作品は久々でしたが、やはり面白いですね。特に今回は映画好きの人ほど楽しめるようなネタが随所に散りばめられています(クラシックな映画が多いですが)。
 基本的には、法廷ドラマの形式をとった喜劇と云いますか。
 邦画で法廷ドラマの映画というのも珍しい。これも裁判員制度が導入されたから実現した企画なんでしょうか。
 『THE 有頂天ホテル』がグランドホテル形式のドラマでしたが、今度は法廷ドラマか(『ザ・マジックアワー』は観てないの)。やはりクラシックな映画に対する偏愛が感じられますねえ。

 失敗続きのダメダメ弁護士に回されてきた引き受け手のない殺人事件の案件。しかし容疑者には、キテレツなアリバイがあった。
 犯行時刻、容疑者は金縛りにあって一晩中、身動き取れなかったと云う。しかしそれは誰にも見られていない。
 となると被告人の無罪を立証するには、金縛りを掛けた当の本人である「落武者の幽霊」に証言してもらう他はない……。

 いたるところに三谷幸喜が愛する映画にオマージュを捧げているのが伺えて興味深いデス。フランク・キャプラ監督の『スミス都へ行く』と『素晴らしき哉、人生』が一番顕著ですが、『天国から来たチャンピオン』とか、法廷のセットにはビリー・ワイルダー監督の『情婦』へのオマージュも伺えます。
 私は『三十四丁目の奇蹟』とか『オー! ゴッド』なんて映画も思い出しました。

 主演は西田敏行(落武者)と深津絵里(弁護士)。
 これに阿部寛、中井貴一、浅野忠信、山本耕史、竹内結子らが競演しております(竹内結子は一人二役ですね)。これらに加えて、出番の少ないチョイ役から、ただのエキストラに至るまで、有名俳優が大挙して出演しているのが面白いです。カメオ出演のオンパレードといった感があります(クレジットは出ますが)。
 佐藤浩市、唐沢寿明、深田恭子、篠原涼子、市村正親、草なぎ剛、生瀬勝久……。以前の三谷幸喜作品と同一人物が登場したりもします。
 しかし「犬の鳴き声」だけに山寺宏一を配役しますか。なんと贅沢な。
 エンドクレジットにしか登場しない大泉洋が何とも(顔半分だけだし)。

 落武者の幽霊役である西田敏行を凝ったCGにすることなく、極力実在のまま撮影している手法にこだわりを感じました(一部の心霊写真演出はお約束ね)。
 やはり三谷幸喜は舞台劇の演出家だからなんですかね。イマドキなら一場面でも「身体をすり抜ける」とか「幽霊は物が掴めない」とかいう描写があるものデスけど。そういうのは一切、無しで済ませるところにポリシーを感じました(合成に安易に頼らないので、逆に演出が大変だったようですが)。

 中井貴一の演じる検察官が強面のようで、実は人間くさい役だったりするのが楽しいです。科学で証明されたこと以外は絶対に信じようとしないという堅物ですが、実は愛犬の死に心を痛めており、犬を前にすると人格が豹変したりします。
 別人のような中井貴一の演技が笑えます。
 この検察官が主人公に云う台詞が印象的でした。

 「検察官と弁護士は敵同士ではない。共に真実を明らかにするという意味では味方なのです。真実を隠そうとする者こそが敵だ」

 でも敵ではないと云いつつ、やっぱり勝負にこだわっていたりするのですが(笑)。

 当初は、深津絵里にだけどうして幽霊が見えるのか不思議でしたが(腕を掴んだりも出来る)、稀に他の通行人にも見えたりするらしく、見える人と見えない人の違いを検証していく過程が面白い。実は一定条件を満たした人間には、誰でも幽霊を見ることが出来るのデス。ホンマかいな。特に「実は見えていた法廷画家(山本亘)」の描くスケッチが笑えます。
 しばらくドラマは幽霊が実在するしないでモメていましたが、ドラマはそこで収束することなく更に、次の段階、また次の段階へと進んでいくのが巧い構成です。

 幽霊が証言するというトンデモを大前提として、なお一歩も引かずに反対尋問を行い、落武者の証言の信憑性を崩していこうとする検察官。
 検察官が本気で「何故、貴方は人を金縛りにするのか」と質問する。これには意表を突かれました。考えてみれば、幽霊とはそういうものですからね。
 欲を云えば、このあまりにも当たり前な質問に真っ当な回答を用意してもらいたかったです。
 それから些細なことですが、この裁判は裁判員裁判なのに、裁判員がさっぱり描かれていなかったことに、終わってから気が付きました(つまり観ている間は気にならない程度のことです)。でも出来れば裁判員にもちょっとくらいは出番が欲しかった……。

 映画の冒頭に、まず殺人事件の真相が語られているので、観客は最初から被告人が無罪であると判っています。
 後半になって忘れられていた真犯人が再登場し、落武者が証言することに危機感を覚えて、陰陽師を雇って法廷で除霊しようとしたり、霊界から落武者を呼び戻すべく霊界の役人(小日向文世)がやってきたりと、実に興味深い展開でした。

 上映時間が二時間半近いですが、特に気になりませんでした。さすがです。
 全編にわたってとても丁寧に作られているという印象を受けますが、そのせいで多少、冗長に思える部分もあります。
 市村正親が演じるエセ陰陽師の出番は法廷シーンだけで充分でしょう。その後、マンションにまで押し掛けてくる必要は無かったと思うのですが(二回もやられるシーンが必要なのかな)。
 また、どうでもいいような小ネタもあちこちにあって、幽霊が能力を発揮する際のポイント制という設定は面白いのですが、意味がない。どういう理屈でポイントが溜まるのか説明が無いし、ポイントが減ってきてピンチになるといった展開にもならないので、別に言及しなくても良かったような……。
 もう少しカットして上映時間を短くしても、面白さは変わらなかったのではないかと思います。

 しかし最終的には落ち武者の証言など無くても被告人の無罪が立証されてしまう展開が見事でした。考えてみれば、一旦、幽霊の存在が認められてしまえば、ああなるのが一番、手っ取り早いよなあ。
 また、裁判の行方だけでなく、主人公と亡き父親との関係まで描かれるなど、単なる法廷ドラマを越えた、心温まる物語でした。

 エンドクレジットではエピローグ的に、その後の登場人物の皆さんの様子がスチール写真で紹介されていく演出が面白いデス。
 落武者の子孫に当たる歴史学者(浅野忠信)が、念願の慰霊碑を建立していたり(ちょっと大きすぎるのでは……)。
 深津絵里も恋人とゴールインし、子供も生まれ……るのは良いのですが、記念写真が全部、心霊写真になっている(全然、成仏してませんねェ)。

 観終わると久々に『スミス都へ行く』とかのクラシックな映画が観たくなりました。




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