グリーングラス監督の手持ちカメラを駆使したドキュメンタリー・タッチの撮影手法は変わらず健在ですね。しかし今回は軍隊ものなので緊迫した状況で命令が飛び交うような場面では、観ていてちょっと辛かった。
画面はバクダッドの路地裏をガタガタ走り回るわ、字幕は読みづらいわ(汗)。
少し気分が悪くなってしまいました。
手持ちカメラで撮影した映画でも『クローバーフィールド』や『REC/レック』を観たときは大丈夫だったのになあ。観賞時の体調にも拠るのだろうか。
吹替版で観る方がいいかも。
しかしマット・デイモンも吹替声優がまだ確定していないようで、誰がいいですかね。〈ジェイソン・ボーン〉三部作の流れからすると平田広明なのだが、平田広明はどうしてもジョニー・デップの声の方が印象深い。すると加瀬康之か竹若琢磨か東地宏樹か。三木眞一郎という手もあるが。うーむ。
吹替を平田広明でフィックスすると、将来ジョニー・デップとマット・デイモンが共演する映画が製作されたときに迷ってしまうではないか(笑)。
それはそれとして──。
ネタとして「大量破壊兵器はある筈なのに、何故ないんだようッ」てのは、かなり自虐的ですねえ(笑)。
こういうのを堂々と映画化してしまうのが、アメリカの良心というヤツなのだろうか。
2003年当時のバグダッドという背景が完璧に再現されたロケーションは素晴らしいデス。本当にイラクでロケしたかのようでした(アリエナイ)。実際にはスペインやモロッコでの撮影だったそうですが、見事です。
主役のマット・デイモンは大量破壊兵器捜索を行う部隊の隊長役ですが、部下となる兵士達はほぼ全員が本職の兵隊さんだったそうな。イラクやアフガンからの帰還兵とな。撮影手法も手持ちカメラで、登場する兵士も本職揃いとくれば、そりゃリアルになる筈だわ。巧いやり方ですね。
デタラメな情報ばかり提供する国防総省情報局の高官役がグレッグ・キニア。『リトル・ミス・サンシャイン』のパパ役だった人か。今回は悪役ですね。技巧派だなあ。
グレッグ・キニアとつるんでデイモンの邪魔をする特殊部隊の少佐役がジェイソン・アイザックス。〈ハリー・ポッター〉シリーズではルシウス・マルフォイ役が有名ですが、今回は金髪のヅラ無しで、ヒゲまで生やしていたのでちょっと判らなかったよ(笑)。
そして国防総省が隠そうとしている秘密を探るCIAのエージェント役がブレンダン・グリーソン。おお、今回はCIAの方が善玉か。
しかしブレンダン・グリーソンも〈ハリー・ポッター〉シリーズでマッドアイ・ムーディを演じておりますが……。なんかハリポタ役者が敵味方に揃ってるなあ。
ハリド・アブダラが現地の情報提供者役として起用されております。さすがアラビア語は流暢だ。この人はグリーングラス監督の『ユナイテッド93』にも出演していたのか(やっぱりテロリスト役だったのは仕方ないか)。
アラブ系の俳優と云えばもう一人、イガル・ノールと云う俳優が、国防総省とCIA双方から追われるバース党の重鎮というアル・ラウィ将軍役で登場しますが、よくプロフィールが判らない人ですね。名前からするとやはりアラブ方面で有名な役者さんなのでしょうか。
リアル指向の映画ですから、やはりアラブ人にはアラブ系俳優でないとイカンですね。
存在しない大量破壊兵器をめぐって、米国内の二つの組織が対立するという物語なので、どう転んでも「反米・反戦映画」になるのはやむを得ない。自虐ネタだし。
面白いのは、国防総省の不正──とりあえずこの映画では悪玉はこっちなのですが、本当なのかね?──を正そうとするマット・デイモンもまた、アラブ人から見たら独善的だと非難される場面ですね。
ハリド・アブダラが云う。
「この国の未来を決めるのはあんた達じゃない」
米国映画でここまで云い切るとはちょっと驚きです。主人公の行動ですら「正義を遂行してあげよう」という、上から目線な行為に映る。アメリカって傲慢だなあ……って、自分で云っちゃいますか。
結局、陰謀の唯一の生き証人であるアル・ラウィ将軍は射殺されてしまう。
やはり一般的イラク市民からすると、バース党の将軍なんて許せるものではないか。その気持ちは判るが……。生きたまま確保して証言させようとしたマット・デイモンとCIAの目論見は潰えてしまう。歴史をねじ曲げるわけにもいかんしな。
土壇場で逆転勝利したグレッグ・キニアの満足げな笑みが実に憎たらしいです。
堪りかねたマットが食ってかかる。
「こんなことをしていたら、誰もアメリカを信じなくなる!」
まさにその通りですね。
良心的な発言ですが、この映画はアメリカでウケるのだろうか。むしろ海外でヒットしそうですが、興行的にはどうなんでしょ。基本的に地味な作品だし。
社会派アクション映画とでも云うべきものなので、ロマンス要素ないからカルト化しちゃうのかなあ。一応、エイミー・ライアンが特派員役として登場しますが、マット・デイモンとのキス・シーンなんて無い。
色気皆無。
いっそのこと、最初から野郎ばかりの映画にしてしまえば清々しいのでしょうが、製作会社の意向も無視できなかったか。
そしてラストはアメリカが無理矢理作り上げる新たな親米政権発足の場面。得意満面なグレッグ・キニアだったが……。
高官の思惑を外れて会議は紛糾。そもそもシーア派とスンニ派の違いも判らない米国人のやることですから。頭を抱えるグレッグ・キニアの様子に、観客としてはちょっとだけ溜飲を下げることが出来ます。
しかしこの先、しわ寄せを喰らうイラク国民のことを思えば、笑えませんねえ。
マイケル・ムーア監督が「私は、この映画が作られたことが信じられない。愚かにも、アクション映画として公開されてしまった。ハリウッドで作られたイラク戦争映画では最もまっとうである」と評したそうですが(by Wikipedia)、誉めているのか貶しているのかよく判らんなあ。これがフィクションではなく、ドキュメンタリだったら良かったのですかね。
しかしコレが真実だったなら、ただでは済まないことになると思うのですが(でもきっと本当なんだよね)。
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