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2011年12月16日金曜日

50/50 フィフティ・フィフティ

(50/50)

 本作は『マネーボール』と並んで来年(第六九回)のゴールデン・グローブ賞にノミネートされていますね。しかしあちらがドラマ部門であるのに対して、こちらはミュージカル・コメディ部門の作品賞と主演男優賞とな。これはコメディだったのか?
 まぁ、ある種の喜劇ではありますか。

 酒もタバコもやらないエコ派の草食系男子に降って湧いた災難。
 ある日、突然のガン告知。二五歳にして余命五年。五年後の生存確率五〇パーセント。
 青天の霹靂とはまさにこれ。
 どうすればいいのだ──と云う、ジャンルとしては「難病映画」と云うヤツなのですが、邦画のように湿っぽくない、誠にさわやかな難病映画でした。
 脚本を書いたウィル・レイサーの実体験に基づく物語だそうで、過酷な境遇はユーモアで乗り切ろうという姿勢が素晴らしいデス。実体験に基づくというのが強いですね。
 アブないネタではありますが、難病患者を笑い者にするのではない。患者自身が「こうだった」と云うのだから、文句は付けられまい。
 邦画の難病映画はどうしてこんな風に作れないのでしょうか。是非、本作を手本にして戴きたいものデス。

 主人公は『(500)日のサマー』のジョセフ=ゴードン・レヴィット。『G.I.ジョー』なんてアクション映画より、恋愛映画で草食系男子を演じている方が似合っていますねえ。
 当初はジェームズ・マカヴォイが予定されていたそうですが、ジョゼフの方が線が細い分、イメージには合っていそうです。
 主人公の親友を演じているのがセス・ローゲン。本作の制作者にも名を連ねておりますが、主演男優賞にジョゼフをノミネートするなら、セスも助演男優賞にノミネートしてあげて戴きたいところです。
 共演はブライス・ダラス・ハワードとアナ・ケンドリック。
 ブライスはジョゼフの恋人役。『スパイダーマン3』とか『ターミネーター4』に出演していますが、いまいち印象が薄い感じデス。
 アナは病院のセラピスト役。『マイレージ、マイライフ』でジョージ・クルーニーと共演しておりましたね。
 大女優アンジェリカ・ヒューストンも母親役で登場します。

 ガン告知をあっさり済ませる医者の態度は、やはりアメリカならではなんですかね。深刻に告知するのではなく、ごく事務的にサラリと告知しちゃう。
 アメリカでは告知が法律で定められているというのも興味深い。
 それに比べて、自分の病名を家族に告げるときのジョゼフの態度の方が、妙に改まって、まわりくどくてヘンでした。こっちの方が日本的。

 「ええと、ママ……。『愛と追憶の日々』って観たことある?」

 そんな遠いところから話を始めてどうする(笑)。

 医者に云われたように軽く告知して済ませようとするが、家族として放置しておける筈がなく、慌てて同居だ介護だと云い出す母親をなだめる場面に苦笑しました。
 患者本人として、大事にはしたくないと云う気持ちは判ります。特別扱いされるより、今までと同様に普通に接してもらいたいですよね。
 しかし職場の上司までもが、妙に優しくなる。やはり癌とは、それほどの病気であるのか。

 唯一人、態度を変えないのが親友であるセス・ローゲン。実にいいヤツです。
 生存確率五〇%と聞いても「ラスベガスでそれだけ勝率があれば大儲けだぜ」と実に前向き。でもちょっとお調子者なのが玉に瑕か。
 勇気づけるつもりで「難病を克服した有名人」の名前を次々に挙げていくのは良いけれど、最後にパトリック・スウェイジまで付け加えてしまう。
 パトリック・スウェイジは二〇〇九年に膵臓癌で亡くなっておるのですが(汗)。

 難病を患うのが二五歳の青年であり、「恋人と共に愛の力で乗り切る」と云うよくあるパターンではなく、腐れ縁の悪友とバカやりながら乗り切っていこうという筋立て。
 げにうるわしきは男同士の友情である──と云う物語なのですが、釈然としない部分もある。
 セスの方が、やたらとガールハントしたがるという描写がちょっと気になりました。
 親友の病気でさえ、バーで女の子をひっかけるための口実に使おうとする。どうしようもない女好き。そんなにリア充したいのか(そりゃしたいだろう)。

 当節、男同士の友情を描こうとすると、どうしてもゲイ疑惑が降りかかってくるものなのか。
 セスがゲイではないと証明する為にだけ、必要以上に「女に飢えた状態」を強調している演出のように思えてなりません。別にここまでやらなくても良いだろうに。イカンのか。
 アメリカではここまでやらないとゲイ疑惑を払拭できんのか。それはそれで難儀な国やね。

 男同士の友情が変わらないのと対照的に、恋人であるブライスとの仲がギクシャクし始め、やがて浮気していることが発覚する。不実な恋人なのは確かですが、やはり難病患者と同居して介護すると云うのは、生半可な覚悟で出来ることではないと云うことか。
 ところどころ厳しい現実が現れるので、ドラマが引き締まります。
 ブライスとの仲が離れていく過程で、病院でのセラピーが進行していき、アナと親しくなっていく。いずれ患者とセラピストの関係を越えてしまうのだろうなと云うのは、容易く予感できます。
 アメリカでは癌治療とセラピーがセットで行われるという描写も興味深い。
 セラピーなんて無駄なことだと考えているジョセフの気持ちはよく判ります。しかもアナは新米のセラピストなので、さっぱりセラピーに効果が無いと云うのが笑える。

 その一方で、抗ガン剤の治療も続けられる。
 一緒に治療を受けている先輩患者が、ある日突然、姿を見せなくなる。どうしたのかと尋ねると、亡くなったのだと云う。ついこの前まで元気そうだったのに。
 忍び寄る死の影に絶望しかけるジョゼフ。どんなに明るく振る舞っても、避けられないのか。
 やがて抗ガン剤治療も虚しく、効果が出ていないと診断される。もはやリスクの高い腫瘍の摘出手術しかない。
 手術を目前に控えて気丈に振る舞いながら、親友の前でだけ醜態をさらすジョゼフの演技が見事です。難病映画なのに「泣かせる場面」はここくらいしかない。しかもごく短いシーンで済ませていますが、効果は抜群でしょう。
 長々とお涙頂戴な場面を繰り広げればいいというものではない証明ですね。

 気を持ち直して手術に臨むジョゼフ。
 実はこのまま終わってしまうのではないかと、かなり心配になりましたが、考えてみるとこれは実話に基づく物語なのでした。ガンを克服した脚本家の実体験に基づく──と云うことは。
 しかし観ている間は、そんなこと忘れていたので、かなり冷や冷やいたしました。執刀医が「手術は成功です」と告げたときには、本気で脱力いたしました。

 退院後のエピローグがまたちょっと笑えます。
 全編にわたって映画ネタのギャグが色々と差し込まれているのも御愛敬ですね。
 生々しい手術痕を見て「うわ、『ソウ』みたい」なんて感想は、セスが云うから許されるのであって、真似するのはやめた方がよろしいでしょう(笑)。
 感動的かつ笑える難病映画として、お奨めできます。


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