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2011年5月29日日曜日

アジャストメント

(THE ADJUSTMENT BUREAU)

 SF作家フィリップ・K・ディック(以下、PKD)没後もう三〇年になろうというのが、信じられん。時の経つのは早いものです。
 自分の著作がどんどん映画化されていく有様を知っていたら何と云っただろうか。教えてあげたかったような気もするが、知らないままでいて良かったような気もする(笑)。
 『ブレードランナー』があそこまでカルト化しなければ、こうはならなかったか。しかしアレはPKD映画としては、どうなんですかね(私は大好きですが)。

 今までのPKD映画の中で一番、原作に忠実なのは『スキャナー・ダークリー』であると思う。その反対に、どの辺がPKDなんだか判らないのが『NEXT/ネクスト』でしょう。
 今回は、割といい線を行っているのではないか。

 そうは云っても、元が短編なので基本設定だけ採用して、あとは映画オリジナルに膨らませてはいますが。基本設定の残し方にリスペクトを感じます。
 脚本家だったジョージ・ノルフィの初監督作品ですが、やっぱり脚本も自分で書いていますね。

 運命を操作する「調整局」というアイデアと、局員のミスで偶然に「現実の裏側を垣間見てしまった主人公」という部分だけ残っていますが、映画としてはこれで充分なのか。原作通りにすると『トワイライト・ゾーン』の一エピソードくらいの短さですし、恋愛要素もアクションもありませんからね。
 逆に、調整局に反抗する主人公の行動のおかげで、映画として成り立っている。原作ではあっさり納得してしまいましたからね。

 調整局──運命──に抗う主人公にマット・デイモン。今年はマットの映画をよく観るなあ。『ヒア アフター』、『トゥルー・グリット』に続いてもう三作目ですよ。
 いずれは大統領になることが嘱望されている若き下院議員という役です。原作よりスケールが大きくなっている。マットが大統領になることが、何やら世界の運命にとって重要なことらしい。
 環境問題に力を入れているあたりの設定から、それはきっと良いことなのだろうと思われますが……。

 マットの「人生の予定」にない運命の恋人役にエミリー・ブラント。この人も、つい先日『ガリバー旅行記』を観たばかりだが、もう次の映画か。
 政治家役のマットとは対極的な、ダンサー役です。実際に舞踏シーンもあって、吹替無しで堂々とモダンダンスを披露してくれます。巧いですね。

 ヘマをする調整局員がアンソニー・マッキー。『イーグル・アイ』とか『ハート・ロッカー』にも出演していると云うが、あまり覚えがない。調整局員の中では、一番人間的で好感が持てる奴ですね。
 それにしても、調整局員とは何者なのか。一応、人間の姿をしているが、天使か何かなのか。天使のくせに「仕事に疲れて居眠りしてしまう」のか(笑)。
 人類の運命を導く守護天使が、こんなお役所みたいな連中であるというのが笑えます。
 調整局の上司(ジョン・スラッテリー)が云う。

 「我々にも休息は必要だ」

 まあ、調整作業って、結構大変そうですからね(笑)。
 そもそも局員マッキーが、マット・デイモンの人生の調整に失敗したのが発端。「スタンドで買ったコーヒーを歩きながら飲んでいて溢してしまい、バスに乗り遅れる」というのが、その朝のマットの運命であった。しかるに疲れて居眠りしてしまった局員が、コーヒーを溢させるタイミングを逸してしまい、「バスに乗ってから溢した」為に隣の席に座っていたエミリー・ブラントと関わりを持ってしまう。
 なんたる手落ちか。

 うーむ。私の人生も調整局がどこかで操作しているのだろうか。
 だとすると、どうも私の担当者はヘマばかりしているような気がする……。

 会ってはならない二人が出会ってしまった為に、運命予定表に大幅な変更が生じてしまう。このままではマットは大統領にならない。調整局は事態の収拾──つまり恋人同士の仲を引き裂くこと──にベテラン調整局員を招聘する。この凄腕のエージェント役がテレンス・スタンプ。貫禄ですなあ。
 狂った運命を強引に修正することにかけては随一であるらしく、付いた仇名が「ハンマー」。どんだけ他人の人生を叩き潰してきたのか(笑)。

 自由意思を信じるマットに対して、そんなものは無いと否定するテレンス。
 凄腕エージェントはマットに「人類の歴史」を語って聴かせる。

 「ローマ帝国時代に一度は調整から手を引いたら、あっという間に暗黒時代が到来した。再介入してルネッサンスを興し、二〇世紀初頭まで見守り、もう大丈夫かと手を引いたら、二度も世界大戦を起こしたろう」

 いや、その間にも戦争はちょこちょこ起こっていたのですが、それは調整ミスではないの無いのデスか。調整局も万能ではないらしいデスね。

 「でも今の世界は平和じゃないぞ」
 「破滅していないだけマシだと思ってくれ」

 そんなに人類はどうしようもないデスか。と云うか、あんたらだって相当、調整ミスをやらかしているんじゃ……。そもそもテレンスのような「壊し屋」専門のエージェントがいると云う時点で、調整局の仕事にはミスが多いらしいことが伺えるし。
 こんな説明を聞かされても信じろと云うのが無理であろう。特に説明しているのがテレンス・スタンプなので、非常に胡散臭い。真顔で嘘がつける人ですし。

 衣装デザインがいい仕事してます。このお役所的守護天使たちの服装が、地味ではあるが印象的。それと判って見ていると目立つが、普通に街中で見ても気が付かないというギリギリの線を突いてます。ちょっとレトロでいい感じ。
 特にあの帽子がいい。ひとつ欲しいですね。
 あんな帽子を被ったら、ついつい「ドアノブを左に回して」しまいそうだ。

 調整局員が駆使する「どこでもドア」は映画のオリジナル。『ドラえもん』と云うよりは『モンスターズ・インク』ぽく感じられました。
 同様に、「帽子を被っているとドアが作動する」とか「雨が降っていると監視が行き届かなくなる」というのもオリジナルの設定。理由はない。そういうものなのである。
 雨程度で、機能しなくなるとは。調整局はもっと頑張って戴きたい。
 そのおかげで監視の目をかいくぐり、雨が降りしきる中をマット・デイモンが駆け抜けていく場面があって、それはそれで絵になるのですがね。

 果たして自分の運命は自分の意思で変えることが出来るのか。
 調整局を司る「議長」の真の狙いとは何か……。

 それなりにハッピーエンドで、人生は何が幸いするか判らないという意味ではポジティブではあります。やはり愛は勝つというと云うことか。
 とは云うものの、一体、どこまでが自分の意思で、どこからが予定されていることなのか、やっぱり判然としませんねえ。疑いだせばキリが無い。

 まあ、信じるものは幸せと云うことなのですかね。


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