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2011年3月20日日曜日

トゥルー・グリット

(TRUE GRIT)

 ジョン・ウェイン主演の『勇気ある追跡』のリメイクですね。その昔、日曜洋画劇場で観たような記憶があるが、定かには思い出せませぬ(汗)。
 今年のアカデミー賞に幾つもノミネートされていたにも関わらず、監督賞も作品賞も主演男優賞も穫れず無冠に終わってしまったのが残念です。まあ近年、コーエン兄弟は『ノーカントリー』で、ジェフ・ブリッジスは『クレイジー・ハート』で各々受賞しておりますし、今年は『英国王のスピーチ』がありましたから……。
 でもジョン・ウェインは『勇気ある追跡』で念願の主演男優賞受賞したそうなので、ジェフにも受賞してもらいたかったデス。

 しかしリメイク作品とは云え、これは結構、ハードで骨太な西部劇です。特に主人公の女の子がいい。こちらも今年の助演女優賞にノミネートされながら逸してしまいましたが。
 共演のマット・デイモンとジョシュ・ブローリンもいい感じ。
 少女の父親を殺害して逃亡したお尋ね者役をジョシュ・ブローリンが、その追跡行に加わるテキサス・レンジャー役をマットが好演しております。

 西部劇ではありますが、ガンファイトのみの脳なしウェスタンではない。かといって「史実に基づく」と称して陰々滅々とした展開ばかりの盛り上がらないドラマでもない。
 緊張感を持続させつつ、適度にアクションを交えながら、人物造形がしっかり描き込まれた点が素晴らしいデス。

 物語は主人公である少女マティの視点で語られる。この子がまた大人顔負けにしっかりした娘で、14歳だからと舐めてかかると痛い目を見ます。実にしたたかで計算高い。
 この娘の心証で観客もキャラを評価するので、最初はジェフ・ブリッジスはアバウトではあるがプロフェッショナルな連邦保安官に映る。逆にマット・デイモンの方はイケメンではあるが青二才の無能な若造であるように印象づけられてしまう。

 しかしドラマが進行していくに連れ、ジェフのメッキが次第に剥がれてくる。アバウトどころか飲んだくれのアル中ガンマンとなり、マットの方は若くしてテキサス・レンジャーを名乗るだけのことはあるタフガイに見えてくるのが巧い。

 まぁ、所詮は(しっかり者ではあるが)世間知らずの少女の評価に過ぎませんからな。この娘も主人公にしては我が強いというか、こんなこまっしゃくれた生意気な小娘の相手をせざるを得ないジェフやマットに同情してしまいます。
 こういう娘が近くにいたらさぞかし迷惑でしょう(笑)。

 ドラマの展開に連れてキャラの印象が色々と変化してくるのが巧い。そして「どうしようもなくいい加減で無責任なオヤジ」にまで評価が転落したジェフが、でもやっぱり真の勇気(トゥルー・グリット)を持った西部の漢であると描かれる。
 その昔、多勢に無勢で立ち向かったという武勇伝も、ホラ話だったのかと思わせ、最後には一対四の馬上の決闘を堂々と演じてみせるジェフの勇姿にシビレます。
 そしてジェフのピンチを救うマットの長距離精密狙撃。テキサス・レンジャーは伊達ではないのであった。近距離でバンバン撃ち合うだけでないガンファイト描写は珍しいです。
 マットの使うライフルがカービン銃であったり、考証はそれなりにしっかりしているようデス。

 時代背景がもう19世紀末であり、開拓時代は終わろうとしている。そんな中でジェフ演じるガンマンは最後のガンファイターの一人であり、時代に取り残される宿命の恐竜のようである──って、それはジョン・ウェインの別の作品ですね。ちょっと混じっているのか(笑)。

 敵役のジョシュ・ブローリンも凄みを効かせておりますが、どちらかというとジョシュが仲間になっている無法者集団のボス役であるバリー・ペッパーの方が大物悪党ぶりを漂わせておりました。
 狂犬のようなジョシュと、冷酷ではあるが割と紳士的に振る舞うバリーの対比が面白いデス。一緒に登場する他のアウトロー達のキャラもなかなか味わい深い。端役なので画面にはちょっとしか映りませんが。

 見事、仇討ちを果たした少女のその後がエピローグとして描かれるのが余韻を残していい感じです。
 25年後、中年女性となった主人公が、ジェフと再会するべくワイルド・ウェスタン・ショーの巡業を訪れる。晩年のジェフはここで興業に参加していたというのが、ちと哀しい。老ガンマンの余生らしいと云えばらしいのですが。

 しかしマティを迎えたコール・ヤンガーは告げる。ジェフは健康を損ねて三日前に亡くなったと。
 僅かな差で再会は叶わず、遺体を引き取った主人公が故郷の墓地にジェフを埋葬して弔うラストシーンはなかなかに切ない。
 淡々としたナレーションで、マットとの再会も叶いそうにないことを匂わせつつ、ドラマは終わる(冒頭のナレーションも彼女であり、全体が主人公の少女時代の回想形式になっている)。

 ひとつの時代が去り、誰からの賞賛も受けず、また必要とせず、自らの生き方にケジメを付けた者同士が共有する想いもまた、やがて消えていく。
 哀切であるが、別に泣いてもらわなくても結構よ、と云わんがばかりに気丈な主人公の表情がいい。
 全編を通して主人公は14歳の少女であり、演じるのはヘイリー・スタインフェルドちゃんであるが、私はこのエピローグでだけ主人公を演じたエリザベス・マーベルが気に入りました。この人にも賞をあげたいなあ。

 このエピローグ部分が大層素晴らしく、ドラマに重厚な風格を与えて、さすがオスカーにノミネートされるだけのことはあると納得デス(でも受賞できなかったのですが)。

 カーター・バーウェルの音楽もいかにも西部劇ですばらしい。
 ラストに流れるもの哀しいカントリー・ソングがまたいい感じでした。

 ところでジョン・ウェインはこのコグバーン保安官役が気に入ったらしく、続編の『オレゴン魂』にまで出演しておりますが……。
 よもやコーエン兄弟はそっちもリメイクするのであろうか。ああ、コグバーンの死まで描いてしまったから無理か。




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