どちらかと云うと、今春公開予定の『アナと雪の女王』こそが本来のディズニー作品らしい絵柄です。本作の上映前に、『アナと雪の女王』の予告編を兼ねて劇中歌 “Let It Go” が披露されました。丸々一曲歌いきる場面を流してくれるとは豪気な。
今回は同時上映の短編アニメはありませんでしたが、これだけでもちょっとお得ですね。
本作はディズニー作品ではありますが、制作総指揮は『カーズ』(2006年)や『カーズ2』(2011年)の監督だったジョン・ラセター、その人が務めています。一応、作画や世界観の統一については配慮されているようで、まったく違和感ありません。
でもまぁ、人気があるからスピンオフが生まれるのは当然の流れだとしても、「自動車の次は飛行機で」と云う姿勢に、物凄く安直なものを感じてしまいます。天下のディズニーがそんな二番煎じでエエんかいな。
しかも最初から三部作前提で制作されているようで──本家の『カーズ』に三作目はまだ無いというのに──、本編終了後に早速、続編『プレーンズ2』の予告編まで流してくれました。まるで東映の「仮面ライダー」か「プリキュア」の映画のようです(笑)。
二番煎じぽい印象ではありましたが、作品としてのクォリティはさすがのディズニー。脚本もしっかりしておりますし、チープなところは見受けられません(お手軽だとしても)。
レーサーになることを夢見る田舎の農薬散布機が、特訓の末に数々の障害を克服し、念願の世界一周レースに挑みます。仲間との友情、信頼の絆もしっかり描かれ、そつのない仕上がりです。
ストーリーもテッパンと云える王道展開。逆に意外性がまったくありませんが、黄金のパターンなのだから、定石通りなのが当たり前。アレンジの仕方を楽しむのがよろしいのでしょう。
長丁場のレースが本作の見どころですが、何となく昔のディズニー作品にそういう作品があったなあと思わずにいられませんでした。実写映画ですが『ラブ・バッグ』(1969年)ってそういう筋書きだったような……(シリーズ化された続編のどれかでしたかしら)。
また、ディズニー作品から離れると、飛行機レースと云うのがケン・アナキン監督の『素晴らしきヒコーキ野郎』(1965年)みたいとか、世界一周レースなのがブレイク・エドワーズ監督の『グレートレース』(同年)みたいとか、ビリー・ワイルダー監督の『翼よ! あれが巴里の灯だ』(1957年)みたいな場面が見受けられたり……(すみませんね、年寄りが難癖付けて)。
多分、過去の色々なものにオマージュ捧げておられるのでしょう。
本作の監督はクレイ・ホール。ディズニーの『ティンカー・ベルと月の石』(2009年)の監督さんですね。でも、アレもまたスピンオフのシリーズものだったような……。それ専門なのかしら。
私が鑑賞したのは日本語吹替版でしたが(他に選択肢が無かったような)、原語での配役は次のとおり。
主役の農薬散布機ダスティ役がデイン・クック(吹替版では瑛太)。
主人公のコーチになる老戦闘機スキッパー役がステイシー・キーチ(吹替版では石田太郎)。
主人公の親友スパーキー役がダニー・マン(吹替版では河本邦弘)。
主人公と恋仲になるインド代表がプリヤンカー・チョープラー(吹替版では小林沙苗)。
世界チャンピオンで主人公を目の敵にする嫌なヤツがロジャー・クレイグ・スミス(吹替版では森田順平)。
うーむ。コメディアンやTVドラマ系の人が多い所為か、あまり馴染みがありませんです。
訊くところに拠ると、米国では当初、OVAの予定でしたが途中から劇場公開に変更になったのだとか。何となく配役に格落ちした感があるのはその所為か(失礼な)。
まぁ、有名俳優を起用すれば良いと云うものではありませんけどね。
知ってる役者はどこかにいないのか──と、配役を見ていくと、脇役の中にヴァル・キルマーの名前を発見しました。今でも『Virginia/ヴァージニア』(2011年)のように肥えているのかしら。声だけでは判らんか。
ヴァル・キルマーは劇中に登場する、太平洋艦隊の空母〈フライゼンハワー〉──アイゼンハワーのもじりですね──に所属する航空隊のジェット機の役でした。まんま『トップガン』(1986年)のパロディですねえ。
しかも一緒に登場する僚機の役がアンソニー・エドワーズ。
『トップガン』のアイスマンとグースが一緒に飛んでいる(吹替版では山口智充と中田隼人)。
そんなお遊びするなら、ここはマーベリック役のトム・クルーズを起用するとか、バイパー役のトム・スケリットも登場させて戴きたかった。そんな予算はありませんか。でも、グースの相棒はアイスマンではなく、マーベリックであってもらいたかった……。
そう云えば、あからさまに『トップガン』のような場面もありましたですねえ。是非、ケニー・ロギンスかチープ・トリックの歌曲もガンガン流して戴きたかったところです。
配役で云うと、カメオ出演のようなチョイ役でジョン・ラッツェンバーガーも出演しておられました(吹替版では立木文彦)。
もはやピクサー作品ではないと云うのに、皆勤賞を目指しておられるのか。執念か。
総じて吹替版でも特に問題になるようなところは無かったです。
むしろ本作は、石田太郎の遺作として忘れ難いものになるでしょう。うう、カリオストロ伯爵も遂にお亡くなりになられたのか(2013年9月21日逝去)。ディズニーはこの先、『くまのプーさん』をイーヨー抜きで作らなくてはならないでしょう。
本作(の吹替版)で聴く石田太郎の声には、まったく衰えは感じられず、名調子であったのに残念デス(死因は心筋梗塞ですから)。謹んでご冥福をお祈りいたします。
ところで日本への配慮としてか──やはりラセターさんが制作総指揮だからか──、劇中に日本の飛行機も何機か登場するのも、興味深いです。
レースの予選の場面で登場する「ツバサ」なる飛行機と、本選で日本代表として登場する「サクラ」と云う飛行機。男性がツバサで、女性がサクラ。判り易い。
まぁ、ツバサくんの出番はあまりありませんでしたけどね。本人よりも予選の順位表に登場する名前の表示の方が目立っておりました。
サクラは如何にも日本の飛行機らしく、白い機体に桜の花びら模様があしらわれたヤマトナデシコ的な飛行機です(吹替版では仲里依紗)。
実はこれは日本公開版のみのサービスなのだとか。本作の北米版ではカナダの飛行機だったり、公開される国によって名前と国籍の設定が差し替えられているのだそうな。
CGアニメだとそんなことが出来るのか。ディズニーも手間の掛かることをするものです(商売のためでしょうけど)。ちょっと残念デスが、ツバサくんだけは万国共通に日本機として登場するのが救いか(出番少ないけど)。
劇中では長丁場の世界一周レースが続いていく間に、ダスティがインド代表のイシャーニと親密になる傍らで、メキシコ代表のチュパカブラがしきりにサクラにアタックを繰り返してはフラれると云う展開が繰り返されます。
つれない素振りのサクラに対して、主人公が一計を案じて仲を取り持つ秘策を授けると云う、王道的ラブコメ展開。策が当たって、最後には主人公達よりも熱烈なカップルが誕生するというのもお約束です。
しかしメキシコ代表が「チュパカブラ」か。如何に各国のお国自慢と云うか、よくあるパターンな描写がお約束とは云え、チュパカブラって家畜を襲う未確認動物(UMA)の名前なのでは。メキシコの人は自国代表のキャラがそんな名前で納得しているのでしょうか。
まぁ、コメディ・リリーフの役回りで、メキシコ的プロレス(ルチャリブレね)の覆面を被ったキャラですから、リングネームとして問題ないのか。
ついでに、ちょっと寸詰まりの太っちょ飛行機として描かれているので、ジャック・ブラック主演の『ナチョ・リブレ/覆面の神様』(2006年)を想起いたしました。予算がついていたら、ジャック・ブラックを起用していたのかしら。
そして出場前の特訓で実力を付けたダスティは、コーチであるスキッパーに全幅の信頼を置いていたのに、世界一周レースの終盤を前にしてスキッパーの嘘がばれる。
戦争の英雄、歴戦の勇士だと信じていた老戦闘機が、実は……というのが、よくあるネタですが手堅いです。外しませんねえ。
本作はあちらの映画、こちらの映画と、色々なところからよくあるネタをかき集めてきたような様相を呈しておりますが、巧くアレンジされているので気にはなりませんです。むしろ「今度はそうきたか」とニヤニヤしながら観てしまいました。
無論、お子様達はそんなこと関係なく、ダスティの冒険を楽しんで観ているのでしょうが。
スキッパーは「F4Uコルセア」をモデルにした飛行機で、劇中には若かりし日の回想シーンが短く挿入される場面がありました。
実はスキッパーは太平洋戦争中にガダルカナルで撃墜されて以来、それがトラウマになっていたのだと云う設定。
回想シーンでは、どう見ても日本の戦艦(大和ぽい)を始めとする大艦隊が物凄い対空砲火を浴びせておりました。つい先日も『永遠の0』(2013年)を観たばかりなのに、ここでもまた太平洋戦争ネタとは。最近、流行っているのかしら(笑)。
そして一度は失墜した信頼も、クライマックスで挽回されるのがお約束。
ライバルの汚いレース妨害に、主人公の危機を救うべくスキッパーが駆けつける。吹きまくっていたホラが現実のものとなる展開は、観ていて気持ちがいいですねえ。
伏線もしっかり回収され、努力と友情と信頼が最後には勝利するのだと云う流れが素晴らしいデス。人は皆、決められた役割以上のものになりたいと思うことがある。そんな市井の人々の(飛行機ですけど)夢を、君は叶えてくれたんだよ。
──と云う、何やらデキスギなくらいのハッピーエンド。特に続編が必要になるとは思えませんが、やっぱり商売的には続けないとイカンのでしょうかねえ。
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