2011年6月1日水曜日

インサイド・ジョブ/世界不況の知られざる真実

(INSIDE JOB)

 今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門で受賞した所為で、緊急劇場公開が決定した作品です。受賞しなければ多分、ビデオスルーされていたのか(下手すれば日本未公開のままだったかも)。
 かつてはドキュメンタリー映画なんぞ面白くないと云って敬遠していた私ですが、マイケル・ムーア監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』以降、ドキュメンタリー映画でも割と観るようになりました。最近はもう並のフィクション映画より面白いんじゃないかと思うくらいです。
 この作品もそう。2008年の世界的金融危機の真実に肉薄するという興味深い映画デス。一見の価値ありと申せましょう。

 アカデミー賞授賞式では、オプラ・ウィンフリーが長編ドキュメンタリー部門のプレゼンテイターとして登場しておりました。オプラ・ウィンフリーからオスカー像を手渡してもらえるとは、こりゃ凄いわ。
 さて、オプラ曰く──

 「人は辛いとき、哀しいときには何をするか。現実逃避の為に映画を観ます。でも長編ドキュメンタリーは観客に現実逃避をさせない映画です。(中略)。撮影は楽ではありません。投獄された人もいます。だからこそ私たちはこれらの作品と向き合い、世界を理解するよう務めましょう」

 実際、『インサイド・ジョブ』は逃避する為の映画ではなく、観た後に逃避したくなる映画です。こんなことが罷り通るなんて、世の中間違っとる。正義はどこへ行った。

 製作、監督はチャールズ・ファーガソン。二度目のノミネートで初受賞。最初のノミネート作品『ノー・エンド・インサイト』(2007年)は「ブッシュ政権によるイラク戦争とその後のイラク占領に焦点を当てるドキュメンタリー」だそうな。観ておりませんが。DVD化されていないのか。
 この年はマイケル・ムーア監督の『シッコ』も同時にノミネートされておりましたが、どっちも受賞を逸しておりましたな。

 授賞式のスピーチではチャールズ・ファーガソンと、共同制作者のオードリー・マーズが壇上に登っておりましたが、かつてのマイケル・ムーア監督と同様、自己の信念を表明して拍手喝采を受けておりました。

 「大規模な不正に端を発する金融危機から三年が経過しました。なのに金融企業幹部は今も自由の身です。これは間違っている!」

 これで喝采を受けるというのだから、大勢は同意見なのであろう。ワシもそう思う。
 マイケル・ムーア監督作品とは異なり、この映画にはユーモア溢れる語り口はありません。実に真面目でお堅い作風ですな。まぁ、笑い事ではないと云うのも確かなんですが。
 ナレーションはマット・デイモン。
 うわ。またマット・デイモンか。今年はマット・デイモンの当たり年だというのは本当のようですね。『アジャストメント』に続いてまたか。
 それにしてもアクション映画に出るばかりではなく、こんな地味な映画のナレーションも務めるとは、社会派な人ですな。

 映画は冒頭、手始めに「如何にしてアイスランドが国家的規模で財政破綻の道を歩んでいったか」を説明していく。静かに淡々としたマットのナレーションですが、怖ろしい。たった数年で天国から地獄へ真っ逆さまか。
 誠に規制緩和とは諸刃の刃よの。
 何でもかんでも規制は緩和すればいいと云うものじゃないだろ。
 この映画を観てしまうと、規制緩和というものに慎重にならざるを得なくなります。特に声高に規制緩和を主張する連中に疑いの眼差しを向けたくなる。

 そして映画は、アイスランドの悲劇が生み出された原因に迫っていく。実に判り易い構成です。アイスランドはほんの一例に過ぎない。
 これはアメリカで如何にして短期間で金融業界が政治的に巨大に成長していったかを記録した映画とも云える。今や米政府は「ウォール・ストリート・ガバメント」であると揶揄されるまでになった。いや、ひどいもんだ。
 『ウォール・ストリート』のマイケル・ダグラスも真っ青というか、あれの劇中で「もはやゴードン・ゲッコーの時代ではない」と語られていたことがようやく実感できたというか。ホントに八〇年代のゲッコーさんの時代は、のどかで平和だったんだねえ。
 「今や強欲は合法なのです」とは、よくぞ云ったものだ。結局、誰一人責任を問われず、大金を手にしたままのうのうと暮らしているのだから、やっぱり合法なのだろう。
 そりゃファーガソン監督でなくても義憤に駆られるわな。

 散々、投資家に判断を誤らせた格付け会社の連中もお咎め無しか。
 「我々の格付けは単なる意見に過ぎません」だと。もう公聴会のシーンは、厚顔無恥の見本市の様相を呈しています。どいつもこいつも、恥を知れ。

 映画では著名な経済アナリストや業界紙の編集者へのインタビューと同じく、アラン・グリーンス○ンをはじめ、金融危機の原因を作り出した(と思われる)連中へのインタビューも行おうとしますが、これがことごとく取材拒否される。
 マイケル・ムーア監督なら、それでもアポなし突撃取材を敢行したかも知れませぬが、ファーガソン監督はそこまで過激ではない。ただ静かに「○○○氏は取材を拒否した」と字幕で表示するのみである。
 しかし片っ端から「取材を拒否した」が繰り返されるので、ちょっと笑ってしまいます。そんなに訊かれるとマズいことがあるのかよ(あるんだろう)。
 逆に金融危機とは、取材に応じなかった連中の責任であることが何となく判る。

 この映画の教訓は、モラルの無いところで規制緩和なんかしちゃイカンと云うことに尽きる。せめて罰則規定を作ってから、緩和するべきでした。
 観終わった後、デスノートが欲しいと思うのは私だけではないでしょう。どっかの悪魔が落としていってくれないものか。書きたい名前がいっぱい出来ちゃったよ。

 あと、これは作品の所為ではありませぬが、字幕がちょっと読み辛かったです。
 ドキュメンタリー映画なので、画面には頻繁に公文書や論文の紙面が表示される。そこにマット・デイモンのナレーションが流れるワケですが、白い紙面を表示しているときには、白抜きの字幕が読めない! これは問題なのでは。
 森永卓郎が字幕監修とか務めていますが、読めない部分があるのは困ります。
 幾らマット・デイモンの声が良くても、吹替版の方が絶対にもっと判り易くて面白くなったと思うのですが。DVD化する際には、平田広明の吹替を是非、付けて下さい。

●余談
 そう云えば今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門では、『インサイド・ジョブ』と一緒にノミネートされていた『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』も日本での公開決定だそうで、めでたい。


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