2011年2月19日土曜日

ヒアアフター

(HEREAFTER)

 クリント・イーストウッド監督作品。本人も作品も共に燻し銀の魅力を漂わせておりますな。淡々としながらも味わい深い逸品デス。
 某ウィスキーの宣伝文句がどうしても連想されてしまう。

 ──なにも足さない。なにも引かない。

 本当に特別な演出なんてナニもない──事件そのものは結構、大掛かりだったりしますが──のに、この味わい。

 イーストウッド監督には珍しく〈死後の世界〉をネタにしたスピリチュアルな物語ですね。制作がマルパソ・プロダクションだけではなく、アンブリン・エンターテインメントも関わっていた。そもそもイーストウッドに脚本を送ってきたのがスティーブン・スピルバーグだったと聞けば、何となく納得。

 〈死後の世界〉と云うと、昨年も『ラブリーボーン』とかありましたが、CG駆使しまくりのファンタジーな映像になったり、或いは『ゴースト/ニューヨークの幻』みたいに、霊になって愛する人に密着したりする映画になりがちですが、これは全然違う。
 あの世の描写がない。霊も喋らない。霊として登場もしない。
 すべてマット・デイモン演じる霊能力者が代弁しているだけなのである。特撮なんぞ一切、使いません。
 おまけに宗教色が皆無というのも米国映画にしては珍しいのでは。

 宗教色もなく、したがって魂の救済とか云う大上段な演出もない。
 登場人物達はほんの少し、以前より前向きに生きて行けそう──と云う淡い描き方が素晴らしいのデス。

 物語の軸は三つ。
 東南アジアの観光地で津波に遭遇し、臨死体験したフランス人ジャーナリストの物語。蘇生した後も、垣間見た謎の光景が忘れられず、臨死への執着から職を解雇されそうになる。
 イギリスの貧困層の家庭で生活する双子の兄弟の物語。母親が薬物依存から立ち直ろうとしている最中に、兄である少年が交通事故で亡くなってしまう。家庭は崩壊し、弟は兄にもう一度、会いたいと切に願う。
 アメリカで港湾労働に従事する元・霊能力者の物語。能力は本物だが、死者との対話に耐えきれず、廃業してしまった。新たな生活を始めようとするのだが、自分では制御できない霊能力によってなかなか上手くいかない。

 三者三様のドラマが、やがてロンドンで交錯する流れになっていく過程が実に自然でした。ひねりなし。時系列のシャッフルなんぞという小細工も無し。
 単調と云えば単調なのだが、飽きずに観ていられるというのが名人芸の演出ですな。
 特にマット・デイモンがチャールズ・ディケンズの愛読者であるというのが上手い伏線でした。
 さりげない。さりげなさ過ぎる。さりげないにも程がある(笑)。

 マット・デイモンは『インビクタス/負けざる者たち』に続いての出演です。おお、こうして見るとマットが名優に見えてくる(失礼な)。アクションは一切無いがいい感じだ。
 霊能力者が自らの能力を嫌悪する、という設定はスティーブン・キングの『デッド・ゾーン』でも描かれておりましたな。実際、のべつまくなしに他人からすがられていては堪らんでしょう。

 霊能力が原因でマットが失恋してしまう娘さんの役を演じるのがブライス・ダラス・ハワード。ロン・ハワード監督の娘だったとは存じませんでした。なかなか可愛い娘さんですね。
 この「マットが失恋した」という描写が、またさりげない。いやもう、ホントに巧い演出なんですよ。

 双子の兄弟役はオーディションで採用されたマクラレン兄弟。なかなか印象的な少年達でした。

 フランス人ジャーナリストを演じるセシル・ドゥ・フランスは初見ですが、なかなかいい女優さんですね。
 セシルに限らず、この映画のフランスでのパートは、すべてフランス人俳優達がフランス語でセリフを喋っている。英語字幕が下に付く。
 フランス人がフランス語で喋るという、あまりにも当たり前の事実を、そのまま映像にしているだけなのですが、こうして観るとグローバルな映画だなあと思ってしまいますね。イーストウッド監督は『硫黄島からの手紙』でも日本兵に日本語を喋らせていましたが。

 冒頭での津波のシーンも、大掛かりなスペクタクルではありますが、比較的大人しい演出でした。
 韓国映画『TSUNAMI ツナミ』と似たような場面もあります──商店街を人や車が流されていく──が、過剰なCGでビルが飲み込まれるなんて画はありません(笑)。

 総じて、台詞で過剰に説明しない。演技と画で判らせる。
 いや、映画ってのは普通はこうあるべきなんじゃね? ──という姿勢をただ黙々と積み上げているだけなんでしょうが。
 シンプル・イズ・ベストという言葉がこれほど似合う監督も少ないですねえ。
 監督の人柄がフィルムに滲み出ているようだ。

 パンフレットに監督へのインタビュー記事が載っておりましたが、こちらにも監督の謙虚な人柄が滲み出ております。落ち着いた物腰と静かな語り口。
 とても若い頃にマグナム振り回して悪党退治していた人と同一人物とは思えませぬな(いや、そりゃそういう役だったんで)。

 シンプルな作品にふさわしく、楽曲もシンプル。イーストウッド自身が音楽も担当しています。飾り気無いメロディに哀愁が漂いまくり。
 音楽も担当する監督というと、ジョン・カーペンターもそうですが、監督自身のスコアってシンプルなものになりがちですね(いや、カーペンターとイーストウッドでは方向が全然違いますが)。

 作品自体に飾り気が無く、派手な印象など全くないのに、この風格。
 名人の技とはこれやね。


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