2010年2月13日土曜日

インビクタス/負けざる者たち

(INVICTUS)

 「インビクタス」とは、ラテン語で「不屈」を意味するそうな。
 ウィリアム・アーネスト・ヘンリーによるこの詩は、獄中のネルソン・マンデラを大いに力づけたとか。

 監督する作品が片っ端から傑作揃い──きっともう何を撮ろうと傑作になるのだろう──という驚異の監督クリント・イーストウッドが、またやってくれました。でも今年のアカデミー賞の作品賞にも、監督賞にもノミネートされていないとは実に不思議です。
 とりあえずモーガン・フリーマンが主演男優賞候補に、マット・デイモンが助演男優賞候補にノミネートされていますがね。
 だったら監督賞にイーストウッドも入れてあげろや。毎年、ノミネートすると問題あるのかな?
 メリル・ストリープだって、またしても主演女優賞にノミネートされているのに(還暦過ぎても主演女優でノミネートされるのは、彼女とヘレン・ミレンぐらいのものでありましょう)。
 だったらイーストウッドも毎年、ノミネートしてあげてもいいのでは。
 少なくとも私は『グラン・トリノ』より気に入ったのですが。

 まぁ、ネルソン・マンデラ大統領役にモーガン・フリーマンという、あまりにも鉄板すぎる配役の方が印象強いですけどね。フリーマンは製作総指揮も務めており、イーストウッドは、今回は雇われ監督に徹していたそうですが。

 アパルトヘイト撤廃後の一九九五年ラグビー・ワールドカップで、それまで国際試合から閉め出されていた南アが初めて開催国となり、そして優勝するという、何かもうヤラセかと疑いたくなるような出来事ですが実話です。私は存じませんでしたが。
 多分、多くの日本人が知らない出来事だったでしょう。
 やっぱラグビーだし(失礼な)。

 スポーツにより国家が一つにまとまっていくというサクセス・ストーリーで、意外な展開は何一つ起こりません(笑)。
 にも関わらず飽きずに一三四分の長丁場を引っ張っていく構成と演出力は大したものです。試合の結果だって周知の事実だというのに。
 骨太、というのはこういう映画の為にあるようです。
 クライマックスの決勝戦は、もう『ロッキー』の再来を感じました。

 冒頭の一九九〇年のマンデラ釈放時点の南アの風景が印象的でした。
 白人の子供達が整備された芝生のフィールドでラグビーをしており、道路を隔てた荒れ果てた原っぱでは黒人の子供達がサッカーに興じている。その中間の道路をマンデラを乗せた護送車が走っていく。
 ラストシーンはこれとは対照的に、白人と黒人の子供達が芝生の上でラグビーをプレイしている。
 手堅いというか、当たり前というか、特別な演出など何もしないくせに人を感動させる監督って、スゴイなあ。

 長丁場ではありますが、やはり多少は省略されている部分も無きにしも非ず。マンデラ主役のドラマなので──そりゃそうだ──マット・デイモン率いるラグビー・チームが次第に国民の支持を得ていく過程がちょっと短く感じました。
 そこまでじっくり描いたら二時間半を超えてしまうでしょうが。

 よく出来たスポーツ・ドラマであると同時に、マンデラ大統領の人生哲学が味わい深い。実在の人物の言葉であるから、なおのことでしょう。
 モーガン・フリーマンのセリフはもう名言、名台詞のオンパレードの感があります。その中でも最たるものはコレか。

 「〈赦し〉こそが魂を自由にする」

 マンデラのセリフでなければ、単なるきれい事でありましょう。でもこれを実践したんだよな。〈偉人〉てのは、こういう人物のことを指すのか。
 マット・デイモンも、大統領の為人を不思議に思う。

 「三〇年近く自分を監禁してきた奴らを許せる人とは、どんな人だろう」

 こういうセリフを聞いていると、昨年の「足利事件」で冤罪になった菅家利和さんの記者会見での言葉とは対照的だなあと思わざるを得ません。まあ、誰もがネルソン・マンデラのように振る舞えたなら、世界はもっと平和じゃい。

 音楽にこだわりのあるイーストウッドらしく、今作でもアフリカ音楽がふんだんに使用され、本場のミュージシャンも多数起用されているとか。アフリカ音楽いいですね。サントラCD買おうかな。
 『ホテル・ルワンダ』と並んで、サウンド・トラックはお薦めです。


● 余談
 クライマックスの決勝戦で南アの前に立ちはだかるのは、優勝候補のニュージーランド。当時、最強とも云われたニュージーランド・チームのことをマンデラが尋ねるシーンが笑えます。
 「そんなに強いチームなのかね」と訊くマンデラに、南アのラグビー協会会長が、ニュージーランドの連戦連勝ぷりを披露した挙げ句……。

 「日本戦では 17対145でした」
 「一試合で 145点も?」
 「新記録です」

 事実、これは日本の記録的大敗だったそうな。国辱だ。




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