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2011年2月25日金曜日

ナルニア国物語 第3章 アスラン王と魔法の島

(THE CHRONICLES OF NARNIA : THE VOYAGE OF THE DAWN TREADER)

 シリーズ第三作『朝びらき丸、東の海へ』の映画化ですね。でも何故に原題とはかけ離れた題名にしてしまったのだろうか。
 〈朝びらき丸〉と云う名前が気に入っていたのに。いや、原作は依然として読んでいないのですが(もう諦めよう)、瀬田貞二さんの翻訳のセンスは『指輪物語』で存じておりますので。
 イマドキの翻訳なら、そのままカタカナで〈ドーン・トレーダー号〉なんぞという名前にしてしまうのでしょうが。

 題名についてはもうひとつ、邦題の「アスラン王」と云うのも謎だ。
 ナルニアの国王はカスピアンでしょ。前作『カスピアン王子の角笛』で王位に就いた筈だ。アスランはナルニアの創造主であり守護神だったのでは……?
 この邦題は原作をよく知らない配給会社の担当者が決めたのだろうが、なんだかなあ。由緒ある児童文学の映画化なんだから、そのまま『朝びらき丸、東の海へ』にしておけばいいのに(原題は原作通りなのだから)。

 今作からディズニーではなく二〇世紀フォックス製作の映画になってしまった。ファンタジー大作映画はコケると悲惨ですからね。怖くなったのだろうか。
 まぁ、製作会社が変わってもシリーズ作品として違和感はありませぬが。
 前作まで監督だったアンドリュー・アダムソンは製作に退き、マイケル・アプテッドが監督に。うーむ。この監督は『訴訟』(1991年)が割と好きな作品ではありますが、『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999年)の監督でもあると云うのが心配だ。ああ、TVシリーズの『ROME [ローマ]』の監督でもあったか。

 主役のペベンシー四兄妹の配役がそのままなのは嬉しいが、次男エド(スキャンダー・ケインズ)はどんどん成長していきますね。一作毎に別人(笑)。
 逆に末妹ルーシー(ジョージー・ヘンリー)の方は、成長しつつも面影はかなり残している。お年頃やねえ。
 しかし今回はピーターとスーザンの出番が少ない。と云うか、年長組はナルニアには行かないのだ。どうもナルニアへ行くには年齢制限があるらしい。
 代わってエドとルーシーに同行するのが、従兄弟のユースチス(ウィル・ポールター)。最初は実にイヤな奴として登場しますが、この嫌われ者っぷりが見事なので私は気に入りました(笑)。
 そうそう。こういう奴がいないと物語は面白くならないよな。

 そして前作に続いて登場するのが王になったカスピアン(ベン・バーンズ)。イケメン王子も、王に即位してからはヒゲを伸ばして貫禄付けようとしているらしい(笑)。
 前作公開時にはベン・バーンズが来日した筈だが、今回は来ないのか。以前はかなり熱狂的ファンがいたような記憶があるのに……。聞くところに拠るとナルニア第二章と第三章の合間に、『ドリアン・グレイの肖像』の何度目かの映画化で主役を演じたそうだが、日本では公開されないのか? そっちの方が観たい。

 まぁ、主役はルーシーやユースチス、それからネズミのリーピチープなので、カスピアンはちょっと影が薄くなってしまったのが残念ですが。

 実は隠れた皆勤賞なのが〈白い魔女〉役のティルダ・スウィントン。またしてもチラ見せ登場に留まっていますが、ことある毎に誘惑の手を伸ばそうとしているのが怖い。執念深いのう。
 まさかシリーズを通しての敵になったりするのだろうか。

 特に重要な役ではないが〈朝びらき丸〉の船長がなかなかイイ感じでした。ゲイリー・スウィートというオーストラリアの俳優さん。ハゲのオヤジ船長なのですが、なかなか頼もしく渋い面構えのお方でした。海の男やねえ。

 で、原作を読んでいないのですが、何やら相当、変更があったらしい。公開前からアプテッド監督は、ストーリーが原作と大きく異なると語っていたそうだ。いいのか、そんなことして。
 なんでも第四作『銀のいす』の一部を付け加えて作り変えたそうな。をい。

 うーむ。どおりで妙な展開だと思った。
 だって事件が全然、解決していないのだから。全部、次回作への引きか!

 くらやみ島で進行していた怪奇現象について、明確な説明がないとは如何なものか。得体の知れない〈霧〉が、何故に大量の人間達を拉致していたのか、さっぱり判らぬ上に、掠った人間達をどうしようとしていたのかも判らない。
 大怪獣も登場するし、チャンバラも用意されていて、CGとアクションの見せ場は巧いのですが、そもそもファンタジー映画としてあまりにイージーな結末ではないか。

 七本の剣をアスランのテーブルに置くと奇跡が起きる……って、理由も何もない。困難の末に剣を七本、かき集めてテーブルに置いたら、くらやみ島の暗雲は吹き払われ、謎めいた〈霧〉は霧消し、掠われていた人間達が戻ってきて、万事めでたし──って、どういう理屈だ。
 〈霧〉の正体についても説明無し。
 そもそも航海途中の島々で出会う賢者や妖精の言葉以外に信じるべきものが何もないというのは……。あまりに苦しい。ただのアイテム集めの旅だし。

 なんか非常に安直なファンタジーRPGをやらされているような気がしました。マスターはもう少しシナリオを練ってもらいたい(笑)。
 多分、私が不自然に感じる部分は原作者の責任ではないでしょう。読んでないけど(汗)。
 航海中に主人公達に仕掛けられる様々な誘惑というのが判りやすくて良いが、ちょっと説教臭くも感じられました。教訓話的なのは原作の味か?

 総じて、次回作への布石の所為で、全体が壮大なプロローグになってしまった。

 もうひとつよく判らないのは東の海の果てにあるという〈アスランの国〉。
 創造主に出身地があったとは意外でした。アスランはナルニアのひとでは無かったのか。
 一面に花が浮いた水面や、逆巻く波に隔てられた砂浜の映像は幻想的だし、なかなか見事ではありますが……。
 素晴らしい場所らしいが、一度訪れると二度と戻っては来られないらしい。カスピアンの死んだ父もそこ幸せに暮らしているとか。おいおい。完全にあの世というか〈死後の世界〉ではないか。
 東の海の果て、と云うのがまた〈常世の国〉ぽく感じられる。
 そもそもナルニア自体が異世界の筈だが、その外にまた別の世界が?

 リーピチープも何故、そんな国を観たがるのか。
 これもまた次回作への伏線なのか?

 一件落着したとはどうしても思えぬが、とりあえず再び別れの時が訪れる。
 エドとルーシーもどうやら今作で引退のようである。年齢制限ギリギリだったのか。うーむ。
 一方、ユースチスの方はアスランから、「君にはまだ役目がある」と云われたところをみると、次回作の主役は彼か。次は第四作『銀のいす』ですが、早いところ映画化していただきたい。ユースチスが主役なら、彼に免じて観てあげてもいい(それくらいウィルくんは良い役者デス)。

 でももう3Dにはしなくてイイです。フツーに公開して下さい(汗)。


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