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2011年4月9日土曜日

ザ・ライト/エクソシストの真実

(THE RITE)

 「ライト」とは“right”ではなくて“rite”なんですね。「儀式」です。
 何の儀式かというと、悪魔祓いの儀式。

 オカルト映画の王道的題材ですな。このジャンルではやはり何を云うにしても『エクソシスト』ですねえ。子供の頃は怖くてマトモに観られなかった。しかしマイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」のテーマ曲はもう、三つ子の魂にまで刷り込まれております。
 やっとマトモに『エクソシスト』を観ることが出来たのはディレクターズカット版が公開されたときと云う有様である(汗)。
 しかしその後はあまり「悪魔祓い」を正面切って描いたものは少ないような……。オカルト映画と云うよりはホラー映画の方が主流になったからか。

 なので、実に久々に正面切って悪魔祓いの儀式を描いた映画を観ました。
 バチカンが公認したエクソシストの資格を持つカトリック神父が十字を切り、聖水を振りまき、少女に憑いた悪魔を祓おうと奮闘する。
 なんかもう『エクソシスト』のリメイク版でも観ているかのようです。

 しかも主演はアンソニー・ホプキンスですよ。この貫禄!
 かつてのマックス・フォン・シドーより堂々としている。このオヤジに勝てる悪魔なんているのか。ある意味、悪魔より怖い。あの笑顔が!

 物語の語り手はアンソニー・ホプキンスの相棒となる若き神父。コリン・オドノヒューという全く無名のアイルランド人の俳優さんですが、なかなかイイ面構えの兄さんです(特に眉毛がいい)。映画デビュー作がアンソニー・ホプキンスとの共演とは凄いデスね。

 特に信仰心に篤くもないのに、学費の都合から神学校に入ってしまった若者が、一人前のエクソシストとなる過程を描くという筋立て。
 実家の家業は葬儀屋である。代々、葬儀屋を継ぐか神職に就くかの二つに一つしかないという家系(どっちも遠慮したい)。
 葬儀屋である父親がルトガー・ハウアー(おお)。あんまり出番がないのが残念です。
 幼い頃に母に死に別れ、母の遺体に死化粧を施す父親の姿を見て以来、宗教に懐疑的というのは理解できる。そこには魂なんて無いからねえ。

 悪魔祓いを取材する女性ジャーナリストの役がアリシー・ブラガ。近年の出演作は『ブラインドネス』、『正義のゆくえ/ICE特別捜査官』、『レポゼッション・メン』、『プレデターズ』……。うーむ。全部観ているのにイマイチ印象が薄い。云われてみれば思い出すのだが(汗)。
 いかん。キチンと憶えよう。

 監督は『1408号室』のミカエル・ハフストローム。腕は悪くはないと思うのですが、なかなかヒット作が出ませんねえ。この『ザ・ライト』もどうでしょうか。

 エクソシストは実在する正式な職業であり、バチカンにはちゃんとした養成学校まであるというのが興味深い。日本人には縁遠い世界ですけど。
 養成学校では、最新式のシステムが充実した視聴覚教室みたいな教室で、悪魔祓いの勉強をする。若い神学生や修道女らがコンピュータを操りながら講義を受けている様子がミスマッチな感覚で面白いデス。
 とは云え、悪魔憑きと統合失調症患者の区別をどこでつけるのか。

 イマイチ悪魔の存在に確信が持てない──と云うか、信じていない──主人公に講師であるザビエル神父が紹介するのがアンソニー・ホプキンス演じるルーカス神父。非常に胡散臭そうな神父さんですね(笑)。
 経験豊富で実績のあるベテランのエクソシストに師事することになった主人公が体験する驚異の出来事。
 やはり百聞は一見にしかず。

 妊娠中の少女(マルタ・ガスティーニ)に取り憑いた悪魔を祓う、と云う行為がなかなか信じられぬ。そんな儀式よりも神経科の診察が先だろうと観ている方も思ってしまうのですが……。
 イタリア人である少女は、突如として英語を喋り、主人公の個人的な過去のトラウマを語り始める。挙げ句の果てに口から五寸釘を吐き出す。
 首が百八十度回転したり、緑色のゲロを吐いたりはしませんが、それなりにショッキング。

 実はこのあたりまで、なんとなく科学的に説明の付く解釈もあり得るのではないかと思っていたのですが……。この映画はそんな物語ではなかった。
 もう明確に「悪魔は存在する!」と主張しております。ルーカス神父は警告する。

 「悪魔の存在を否定しても、身は守れないよ」

 もうカエルは異常発生するわ、眼が赤く光るロバが出現するわ、冥界から父親が電話してくるわ。派手な展開とは云えませぬが、なんか地味に怪奇現象が頻発する。

 そうこうするうちに悪魔祓いは失敗し、少女は急死。
 やはりベテランと云えど、自分の力が及ばなかったことはショックである。そしてこの頃からルーカス神父の様子がおかしくなり始める。実は悪魔が、今度は神父さんに取り憑いたのであった。
 ここからのアンソニー・ホプキンスの演技が怖い。さすが名優。
 ビミョーにCGや、メイクで表情を補正していますが、そんなもの必要無いデスね。むしろあの演技の邪魔になっているとさえ思える。熱演だ。

 一番、怖いのはCGで補強されて鬼の形相で叫ぶアンソニー・ホプキンスではありません。
 公園でにっこり笑って女の子を殴りつける場面。こっちの方が怖ろしいわ!
 果たして未熟な主人公はルーカス神父を救えるのか。

 信仰心のない者の儀式など、ちっとも効かないと云い放つ悪魔。大事なのはスピリットであり、スタイルではないのである。そりゃそうだろう。
 まぁ、悪魔にとって誤算だったのは、取り憑いた相手がアンソニー・ホプキンスだったことですかね。あまりにも素晴らしい迫真の演技に、悪魔の存在を疑うことなど出来はしないのデス。

 「信じる……。僕は悪魔の存在を信じる。故にッ! 神の存在も信じるッ」

 ああ、やりすぎちゃった。
 信仰の力さえあれば、儀式はちゃんと効果を発揮するのである。もう「過ぎたるは及ばざるがごとし」としか云いようがない。悪魔のバカ……。
 かくしてここに若きエクソシストが誕生したのであった。
 なんかクライマックスだけ一発大逆転な体育会系ノリでした(笑)。

 でも全体的には派手な場面は少なく、地味で静かなオカルト映画という印象。
 破綻することなく、キチンとまとまった作品ではあるのですけどねえ。
 アンソニー・ホプキンスの熱演が光ってました──って、『1408号室』のときと似たような書き方になっちゃった。うーむ。




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