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2012年1月4日水曜日

宇宙人ポール

(PAUL)

 SF者ならこの映画を見過ごしには出来ぬでしょう。昨年のうちから一部で話題になりながら、公開がこんなに遅れるとは、まったくけしからぬことです。しかも公開規模も小さいッ。
 この映画はもっと大勢の人に観ていただきたいのですがねえ。

 SFヲタクのコンビが、旅の途中で出会った本物の宇宙人と繰り広げる珍道中。
 劇中での宇宙人は完全CGキャラというのも見事です。外見が、まんまグレイと云うのもベタですが笑える。
 声を演じるのはセス・ローゲン。宇宙人の動きや仕草もモーション・キャプチャーでセスの動きを取り込んでいるとか。
 『グリーン・ホーネット』がイマイチだったので、個人的なセスの評価は下方修正されておりましたが、本作と『50/50 フィフティ・フィフティ』の二作で、再び上昇いたしました。
 加えて『ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン!』のサイモン・ペッグとニック・フロストの凸凹コンビ。もう楽しからぬ筈がない。脚本も自分で書いてますし。
 監督はグレッグ・モットーラ。でも私は『スーパーバッド/童貞ウォーズ』(2007年)も『アドベンチャーランドへようこそ』(2009年)も観ておりません(未公開のままビデオスルーだし)。観ておくべきか。
 字幕監修が町山智浩であるというのもいいですねぇ。判っていらっしゃる。
 この手のSFコメディとしては、『ギャラクシー・クエスト』(1999年)に匹敵する傑作と申せましょう。

 「コミコン」と云うと、日本で云うところのコミケのようなものと云われておりますが、特に同人誌販売に特化したイベントではなく、どちらかというとSF大会に近いような感じがしました。サイモン達もイギリスから来たSFライターとイラストレーターという役ですし(でも招待されたワケではなく、自腹です)。
 会場には『スターウォーズ』関係のコスプレ者がわんさか。スタイルに自信のあるお姉さんは皆、レイア姫のコスするのがお約束なのか(特にSW3の)。
 気合いの入った被りものとしては『指輪物語』のオーク鬼の御一行様とかもいて、なかなか楽しそうです。

 しかし男が二人で旅行すると、ゲイのカップルに間違えられると云うのはお約束か。これはアメリカだけの現象なんですかね。
 コミコン帰りに、SF者には定番の聖地巡礼ツアーを組むあたり、筋金入りです。ヴァスケスロックとか、エリア51とか、ブラック・メールボックスとか。
 『スタートレック』──と云うか『宇宙大作戦』──の古参マニアならば、ヴァスケスロックへ行ったら、アレはしなければならんでしょ。それはもうフィラデルフィアを訪れた『ロッキー』信者が、美術館前の階段を駆け上るのと同じくらい確かなことです。義務と云ってもいい。
 筋金入りなのは、他人に聞かれたくない会話はクリンゴン語で喋るというあたりにも、現れております。現実にそんなことする奴らっているのかしら(アメリカならいるのか)。
 一方、ブラック・メールボックスというのは、私も初耳でした。なんでもここに手紙を出すと、宇宙人から返事が来るという。それは鳥取県境港市にあるという「妖怪ポスト」みたいなものですか(ちょっと違うか)。
 まぁ、コアなSFファンとUFOマニアをゴッチャにしたような描写は、如何なものかと思うところ無きにしも非ずですが、SF者にも色々いると云うことで。

 そこへ偶然、エリア51から逃走してきた宇宙人と遭遇。ポールと名乗ったその宇宙人は、実にナイスで超フレンドリーな、いいヤツだった。
 成り行きから、ポールの母星から来ると云うお迎えとのランデブー地点まで、凸凹コンビが三バカトリオと化しての珍道中。だがエリア51からの追っ手が彼らに迫っていた。

 もうSF者には言わずもがなのパロディ──と云うかオマージュ──がてんこ盛り。
 『スタートレック』、『スターウォーズ』に始まり、『未知との遭遇』やら『E.T.』やら。『エイリアン』も『プレデター』も『Xファイル』も。SFと関係なくてもスピルバーグつながりで『ジョーズ』、『レイダース』等々(スピルバーグ自身も電話の声でカメオ出演しているし)。果ては『ブラインド・フューリー』とか『ロレンツォのオイル』まで。
 外見がベタな宇宙人なので、定番ギャグとして「捕らえた人間の身体にナニかを挿入する(主にケツの穴から)」と皆から云われて、ポールがゲンナリするという場面も笑えます。有名になりすぎた人ってのは辛いね。

 当初、ポールはもっとヒネた性格だったそうですが、セスが声を演じることになって、性格が随分と和らいだそうな。多分、それはいいことだったのでしょう。本作が魅力的なのは、ポール当人のフレンドリーさに負うところが多いと思います。人間よりも人間らしいというのがいい。
 ところで、やはり宇宙人と云えば、特殊な能力を駆使しなければイカンらしく、ポールも超能力を持っています。他者の怪我を癒す治癒能力と、透明になれる偽装能力。E.T.とプレデターか。治癒能力は『スターマン』でジェフ・ブリッジスも披露しておりましたな。
 まぁ、ポールの言い分では、自分こそオリジナルであり、人間の映画制作者らにアイデアを与えたのは自分だということなので、パクリじゃないそうな(笑)。
 その上、タイムトラベルまでやっちゃいますよ(凄くお手軽な)。

 本作はSFコメディでありますが、単なるパロディだけではなく、宗教と科学の対立というテーマも盛り込まれています。進化論もネタにされています。
 アメリカには、進化論を否定するキリスト教右派というか、バイブル原理主義がいまだに大勢いるんですねえ。
 ヒロインのクリステン・ウィグが大真面目に、神の存在を主張する役だったので笑ってしまいました。アメリカって難儀な国やねえ。
 しかしガチガチなキリスト教徒だったヒロインも、ひとたび偏見から解放されるや、抑圧されていたリビドーが全開になる。どうしてアメリカ人てのは、そう極端から極端へ振れてしまうのか。あまりにも自由になりすぎだろう(笑)。

 そしてヒロインに輪を掛けて難儀なのが、その父親(ジョン・キャロル・リンチ)。
 「神を冒涜している!」と勝手に誤解し、勝手に怒って、勝手に難癖付けた挙げ句、「奇跡の力だ!」と勝手に褒め称える(親子だねえ)。
 まぁ、神様も宇宙人もやることはあまり変わりが無さそうなのが皮肉です。

 追いかけてくる政府機関のエージェントが、ジェイソン・ベイトマン。一般市民の役が多かった人ですが、今回は『メン・イン・ブラック』並みにクールなエージェント役なのが新鮮です。でもやっぱり真面目な人だ。
 その上司で、追跡を指揮する黒幕がシガーニー・ウィーヴァーであるというのも笑えました。エイリアンつながりか。結構、シガーニーはこの手のパロディ・ネタにチョイ役で出演するのが好きな人なのでしょうか。
 『WALL・E/ウォーリー』でも、自爆カウントダウンをするコンピュータの声でしたし。

 ポールが「ポール」と名乗る原因となった最初のエピソードと、自分の所為で人生を滅茶苦茶にしてしまった老婦人(ブライス・ダナー)に償いをしたいと云うのは、結構しんみりしたイイ話でした。
 バカ話ばかりで笑うだけの映画ではないのです。

 最後の最後まで、どこかで観たようなSF映画のアングルやら、カットにこだわりまくった演出が素晴らしい。製作スタッフの執念を感じます。
 そしてエピローグ。コミコンに始まり、ネビュラ賞授賞式に終わるワケですが(劇中では「ネビュラン賞」と云っているのでビミョーに違うのか)、SF者としては、そこはヒューゴー賞と云って戴きたかった。

 そうか-。オッパイを三つにすれば、何でもSFになるのかぁ(四つはただの変態ね)。


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