実はアニキ、ハードなアクションものには向いていないのではないか。最近の顔立ちに穏和すぎるような印象があって、どうにも非情なアウトロー役が似合わなくなっている気がする。
そんな凋落著しい感が漂うディーゼル兄貴の唯一のヒット・シリーズが『ワイルド・スピード』。ああ、『ピッチブラック』にも続編がありましたが、あれは二作で終わってしまいましたねえ。『トリプルX』に至っては、残念と云う他ない(作品自体が)。
それなのにこの『ワイルド・スピード』はもう第五作ですか。何が理由でそんなにウケるのか。第三作以降、監督を歴任しているジャスティン・リンの腕が良いのか。
実は今までの四作は完璧にスルーしております。昔は『キャノン・ボール』とか『激走! 5000キロ』とか、カーアクション映画も好きだったのですが。近年のこのジャンルはほとんど観ていないです。『トルク』とかもスルーしちゃったし……。
かろうじて『デスプルーフ IN グラインドハウス』と『デス・レース』あたりなら観ておりますが。
本作は前評判が非常に良かったので、半信半疑で観に行ったのですが、それなりに満足しました。単なるカーアクションだけでなく、大金強奪を計画する犯罪チームの映画にしてくれたお陰で物語が面白くなっています。
ディーゼル兄貴一派と、敵対する暗黒街のボス、加えてFBIから派遣されてきた強面の捜査官という、三つ巴の対立が巧い。
この新たに登場するFBI捜査官役がドウェイン・ジョンソン。狙った獲物は逃がさない、ルパン三世に対する銭形警部みたいな役。
でもドウェイン・ジョンソンだとなぁ。なんかディーゼル兄貴とキャラがカブっているような気がするのですが。どっちも褐色のスキンヘッドなマッチョ。二人並ぶと兄弟かと云いたくなるくらい似ている。
だから本作では一目で見分けが付くように、ドウェイン・ジョンソンをヒゲ面にしております。更に強そうに見えるし。
これでディーゼル兄貴とド突き合いの大格闘シーンを演じても大丈夫。劇中ではもう、ドシンバタンと建物を壊しながら重量級の激突を披露してくれます。ここ、見せ場なんですよね(笑)。
登場人物の関係がシリーズを通して観ているともっと判りやすいのでしょうが、特に不都合は感じられませんでした。
かつての恋人レティ(ミシェル・ロドリゲス)が亡くなっていて、ディーゼル兄貴は形見のロザリオを身につけている。ライバルだったブライアン(ポール・ウォーカー)が、今では相棒になっている。
そのあたりの相関関係も、ビミョーに説明的な台詞のやりとりで察しが付けられますから問題なし(笑)。
本作では舞台がブラジルであり、リオ・デ・ジャネイロでのロケがいい感じ。やはりリオと云えば、キリスト像。そして陽光溢れる海岸に水着美人。
速い車と綺麗なねーちゃんと云う、ベタな組み合わせを開き直って見せてくれる姿勢が素晴らしいデスね。
そしてファヴェーラという──『インクレディブル・ハルク』にも登場した──スラム街は実に画になる(あまり住みたいとは思いませぬが)。
泥棒映画としてもなかなか見どころがあります。
まずは計画に必要な技能を持つ仲間を集めるという定番な展開から始まり、立ちはだかる難問を知恵を絞ってクリアしていく。
標的が運営する裏金作りのアジトを襲うと決めたものの、市内十一ヶ所にも分散保管されている金をどうやって奪うのか。
最新式の金庫を開けるには、施錠機構のスキャナーに敵のボスの掌紋を読み取らせる以外に方法はない。ガードの堅いボスに気づかれず接近し、掌紋を取るにはどうするか。
保管庫に強襲を掛ける際に、干渉不可能な監視カメラをかいくぐる必要がある。カメラの旋回スピードを上回る早さで必殺のコーナリングを決めるには。
数々の難問をクリアしながら進められていく準備が楽しいです。
特に保管庫への侵入経路と同じコースを倉庫内に作ってコーナリングの練習する過程がいい。こういう「泥棒さん達が困難な目標に向かって準備を進めていく描写」は、ある種のスポ根ものにも通じる演出で、私は大好きです。
が、脚本上そのような仕掛けをいくつも用意しながら、本番ではあまり活かされなかったのが、ちょっと不満。
FBIの動きをつかむ為に、予め捜査官達の車に発信器を仕込むというのはいい。でもそれが活かされず、逆に発信器を逆探知されて自分達のアジトがバレてしまうというのは、かなりお粗末なのでは。
まぁ、FBIもバカではないと云うか、裏のかきあいをしていると云えなくもないが、その為に必要な説明シーンが明らかに抜けている。多分、テンポが落ちるから編集段階でカットしたのでしょうが、そのお陰で逆にFBIのガサ入れがすごく唐突に感じられました。
また、せっかくコーナリングの練習を重ね、使用する車種を選んだりもしていたのに、クライマックスではもはや問答無用に強奪しちゃう流れになるのも残念。
映画としてイキオイだけはあるのですがね。もう少し細かい説明や、辻褄合わせにも配慮して戴きたかったデス。
その辺の、準備段階に於ける用意周到さと、ダイナミックな強奪シーンがチグハグで噛み合っていないという不自然さはあるものの、一旦走り出したら止まらない怒濤のカーチェイスは凄いです。もう巨大な金庫を引きずりながら街中を疾走する姿は笑うしかない。ほとんどギャグ。
深く考えると(いや、ちょっと考えただけでも)出来るわけねーだろッ、とツッコミたくなること請け合いの強奪&逃走シーンですが、面白いので許します。もう理屈じゃないという演出方針が実に楽しい。
それでも、こと車両に関する描写だけは手抜かり無く描かれるので、無茶苦茶なカーチェイスでも妙に納得してしまうのが巧いデスね。
そして暗黒街のボスには天誅喰らわし、FBI捜査官とは奇妙な友情で結ばれ、一件落着。
──と思いきや。
堂々と次回作への引きをエンディングに滑り込ませるあたり、更なる続編製作が既に確定しているようです。続ける気、満々ですな。ドウェイン・ジョンソンも続けて登場してくれないと困りますよ。
しかしその場合、原題がどうであれ、邦題は『ワイルド・スピード GIGA MAX』になっちゃうんでしょうねえ。
エンドクレジットで、またもや云わずもがなの注意書きが表示されます。これは『デス・レース』でも観たぞ。
──この映画のカーアクションは閉鎖された環境で、プロのスタントマンが云々。危険なので絶対に真似をしないでください。
最近のカーアクション映画には、こういった表示が義務づけられているのでしょうか。
アニメを観るときは明るい部屋で離れた場所から……と云うのと同じですね(笑)。
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