それにあっちは角川で、こっちは小学館。
『とある飛空士への追憶』はガガガ文庫の一作品でしたが、好評につき続編も出され、映画化にあわせてソフトカバーの単行本化まで出されましたね。
単行本版は文庫版にあったイラストが付いていないので、萌え要素は少ないですが、文庫版から加筆訂正されているので、小説としての読みごたえはあるようで。でも最近は読書量も落ちてしまって、次々に出版されるラノベに追いつく術は、もはやありませぬ(汗)。
これをマッドハウスが劇場用映画としてアニメ化したのが本作。
原作も知らず、まったく予備知識のない状態で鑑賞しました。もう製作がマッドハウスであると云うことだけ信じて劇場に足を運んだワケです。
結論から申し上げると、期待を裏切られることはありませんでした。
非常に丁寧に制作されたアニメ映画です。良作と云って良いでしょう。
しかし、逆にあまりトンガった部分がない──過剰な「萌え」に走ることもなく、壮大な風呂敷を広げることもない──ので、非常におとなしい作品であるという印象も受けました。お行儀がよいと云うべきか。
物語がつまらないわけではないし、人物の心情や背景の描写、なかんずく飛行機の空戦シーンの演出なんかは気合い充分なのですが。
松原秀典のキャラクターデザインが実に魅力的。加えて奥寺佐渡子の脚本も良い。原作にない部分の描写や、原作からの省略に無理が感じられず、一本の映画として筋が通っている。
監督の宍戸淳の手腕なんでしょうか。
ファンタジーと云っても、魔法のような超自然の力があるわけではない。ごくフツーの物理法則に支配された世界。
文明レベルは二〇世紀前半くらいか。技術的にはプロペラ飛行機が飛べる程度には発達していますが、社会的には帝国主義が全盛な時代。人種的な偏見や差別も横行し、封建的で、貧富の格差が埋まらない。
但し、この世界の技術は一部だけ非常に発達しており、化石燃料を使用しないらしい。海水から水素を分離して稼働する水素エンジンなるものが普及しており、飛行機はそれで飛んでいるという設定。
したがって給油する必要がなく、どこでも給水しながら飛行機は飛んでいける。大気中の二酸化炭素濃度は上がらず、地球温暖化とも無縁な世界。
どおりで空が綺麗なわけだ。
そんな架空のファンタジー世界が舞台ですが、西洋ぽい国と東洋ぽい国が戦争しております。
西洋ぽい国は「神聖レヴァーム皇国」。まぁ、イギリスかフランスみたいな国か。主人公の乗る飛行機が「サンタ・クルス」と呼ばれているところを見ると、スペインかも。
東洋ぽい国は「あまつかみ」と呼ばれる帝国であるとな。「天ツ上」と表記するのか。 これがもう、あからさまに日本。
こちらの戦闘機は名前も「真電」(「震電」じゃなくて)。戦闘機乗りは武人で「サムライ」と呼ばれている。大空のサムライか。坂井三郎か(笑)。
双方の国とも、飛行機が主たる交通手段らしく、海上交通については描写されていない。この世界には船舶がないらしい。存在したとしても飛行機の発明と同時に廃れてしまったのか。
劇中では「艦隊」という言葉が使われますが、これは空中戦艦のことでした。
このあたりの設定はレトロなSFと云うか、スチームパンクと云うか、ぶっちゃけ『天空の城ラピュタ』ですわな。
戦時のやむを得ぬ事情により、身分の低い(だが腕は立つ)パイロットの青年が受けた命令は、王女様を一二〇〇〇キロ離れた婚約者の元へ送り届けること。敵中突破しての隠密飛行任務だった。
これは基本的にごく普通の青年とお姫様の淡い恋物語。
本作を観ていて、いくつかの映画を連想しました。まぁ『天空の城ラピュタ』もそうなんですけど、一般人の青年と王女様という組み合わせが『ローマの休日』みたい。
──と、思ったらパンフレットにもそう書いてありました。もともと原作小説からして、そういうコンセプトだったのか。
更にもうひとつ、私が連想したのは『ハイ・ロード』という映画。トム・セレック主演のヒコーキ映画。それを云い出すと『紅の豚』なんかも入ってますかね。
アレンジが巧いので特に気になるところは無かったです。
まぁ、色々と不思議な設定もありますが──水上偵察機のフロートが主翼に格納できる仕掛けだったり、空中戦艦が追尾式のミサイルを発射したりする──異なる技術体系を持つ異世界のなのだと割り切れば、まぁいいか。
それより気になるのは、演じる声優さんですね。
主役のパイロット、シャルル役が神木隆之介、王女様が竹富聖花。俳優を主役に起用せざるを得ない、制作側の事情というのもあるのでしょうが、お気楽に観ている側としてはもうちょっと何とかならんかと思うところも無きにしも非ず。
竹富聖花は特に問題ありませんです。ごくフツーの新人声優さんと云う感じ(甘いかな)。
神木隆之介は『借りぐらしのアリエッティ』の時にも感じましたが、何となくまだ違和感あるような。頑張っているのは判るんですけどね。
王女の婚約者(チョイ役)に小野大輔を起用するくらいなら、小野Dをシャルル役にしてもらいたかった。他にも浪川大輔とかも出ているのに……。
一方、漫才コンビ〈サンドウィッチマン〉から、富澤たけしが敵役のパイロットとして起用されております。こちらの方が巧いんじゃ(出番は少ないが)。
命懸けの冒険飛行の中で次第に惹かれ合っていく二人。妙齢の男女が二人きりで数日間、過ごすわけですが、プラトニックな関係で終わるのがもどかしい(それがいい)。実は幼い頃に二人は出会ったことがあったとか、青年の母が、幼い頃の姫の乳母だったとかいう設定もあって、駆け落ちしてしまうラストも有りなのかと思いましたが、そうはなりませんでしたか。
だってファナ王女、いい娘なんですよ。美人な上に健気で可愛い。完璧超人かっ。こんないいコに惚れない方がどうかしている。
王女様が偵察機の旋回機銃を撃ちまくるシーンもありましたが、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』のショーン・コネリーみたいな大ボケはしでかさなかった。シリアスな物語ですし、それやったら墜落だから。
まあ、『ローマの休日』ですからね。プラトニックな関係で終わるのがよろしいのでしょう。
潔くスパッと終わってくれる綺麗なエンディングに好感持てました。しかも実に美しい。
続編なんて必要ないくらい綺麗な終わり方。小説の方は更に続編が幾つかあるようですが、映画としてはこれ一本で充分という感じデス。
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