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2011年9月19日月曜日

サンクタム (3D)

(SANCTUM)

 『世界侵略:ロサンゼルス決戦』と同じく東日本大震災の為に公開が半年遅れてしまいましたが、やっと観られました。別に災害シーンがあるわけでもないのに、配給会社も気を使い過ぎなのでは……と思いましたが、人が奔流に押し流されたり、溺死する場面が何回もあって、こりゃやっぱりマズいですかね。

 人跡未踏の洞窟を探検するという、実にシンプルなアドベンチャー映画です。3D映画に凝っているジェームズ・キャメロンらしく、洞窟の入り口を映した遠景とか、地下空洞の様子を3Dで堪能できます。
 特に序盤の、ニューギニアのジャングルの中に口を開けた巨大な洞窟のスケール感は見事でした。垂直の巨大な坑はまさに大自然の驚異。
 個人的には、この縦坑を降りていく場面に一番3D感がありました。ドラマが進行していくと次第に物語に気を取られて、風景の見え方は二の次になってしまうので(汗)。

 宣伝にジェームズ・キャメロンの名前が盛んに使われるので、監督もしているのかと勘違いしていました。キャメロンは製作総指揮だけで、監督はアリスター・グリアソンという方でした。これがハリウッド・デビューとなるオーストラリアの人。
 新人監督にポンと大作の監督を任せようというのが太っ腹。抜擢の理由になった日本未公開作『男たちの戦場』(2006年)というのも既にDVD化されているようなので観てみたいです。
 『男たちの戦場』はニューギニアのジャングルの中に取り残されたオーストラリア軍小隊の撤退戦を描いた戦争映画だそうで、『サンクタム』もニューギニアを舞台にしているので、このあたりにも監督起用の理由があるのでしょうか。
 そう云えば『サンクタム』にも、ジャングルの中に突然、放置された日本軍の装甲車が現れたりする場面もあって、ニューギニアの歴史を感じさせてくれます。これは監督の拘りなのか。

 初めに「実話に基づく物語である」と断り書きが出ます。キャメロンの共同製作者であり、脚本も担当しているアンドリュー・ワイズの体験に基づくのだそうな。
 しかし一緒なのは「洞窟に閉じ込められる」というコンセプトだけで、実際にはここまでハードなサバイバルにはならなかったそうです(そりゃそうか)。
 基本は未踏の洞窟に挑む探検家の冒険物語で、筋立てもシンプルな映画です。
 3D映画であることを強調するには、物語はシンプルで奇を衒わない方がいいという判断なんですかね。

 興味深いのは、探検がビジネスとして成立しているという描写。その所為で出資者の意向に気を遣わざるを得なくなったり、探検家としては不自由を感じたりする場面がリアルでした。
 特に多数のスタッフを揃えたベースを設営し、様々な機材の搬入が行われている様子が、規模の大きな洞窟探検であることを窺わせてくれます。イマドキの探検とはこうなってしまうものなんですかねえ。
 地上のベース・キャンプから地底の前衛キャンプまでのルートを、CGのモデルで説明してくれる場面がなかなか判り易い。

 さて、そこに降って湧いた悪天候。猛烈なサイクロンの上陸により前衛キャンプのメンバーは地上に退避できなくなって、座して遭難するよりも未踏の洞窟内へ進んで脱出口を探す他に助かる途はないという展開になるワケですが……。
 何となく、昔観た『ポセイドン・アドベンチャー』みたいだなあという感じが強烈にしました。既視感と云うか。
 不思議とリメイク版の『ポセイドン』の方は念頭に浮かばなかったのは、私の年齢的なものもあるのか(汗)。
 転覆した豪華客船の代わりに、洞窟が舞台になるという趣向か。かつてのジーン・ハックマンのように、探検隊長役のリチャード・ロクスバーグが強烈に生存者たちを先導していく。
 しかし次から次へ発生する困難に、脱落していく仲間たち。

 オーストラリア資本の映画なので、オーストラリアの俳優が多数起用され、日本で馴染みのある役者が少なく、誰が生き残るのか予測が付きにくいですね。
 一番、よく知っているのはヨアン・グリフィズくらいか。『ファンタスティック・フォー』のリード・リチャーズ役ですし。
 隊長役のリチャード・ロクスバーグも出演作を観ている限りは知っている筈なのですが、パッと思い出せませんでした。『ムーラン・ルージュ』の伯爵役とか、『ヴァン・ヘルシング』のドラキュラ役とか、『リーグ・オブ・レジェンド』のM役とか、いろいろ観ている筈なのだがなぁ。

 しかし豪華客船が洞窟に変わっただけと云うことはあるまい。プラス・アルファ的なものもあるのだろうと期待したのですが、そっちの方はチト当てが外れました。
 生存者の中に、隊長の息子(リース・ウェイクフィールド)もいて、長年家庭を顧みることなく探検に明け暮れた父親に反発しているというのは、ドラマとしては問題なし。疎遠なった親子の絆が、極限状況の中で回復していくというのだろうということも予想が付くし、そうなっていく。
 息子への誕生日のプレゼントとして贈られたというアイテムも、伏線であることが明快で、そうでなくちゃイカんだろうという期待を外すものではありません。

 でもジュール・ヴェルヌの古典SF『地底探検』みたいな描写もあったのと云うのに……。
 ぶっちゃけ、怪獣というか恐竜というか、地底に棲むナニか新種の生物的なものの登場も、ほんの少し期待したのですが……。
 古代のピラニアの御先祖様みたいな奴とか(そりゃ別の映画だろが)。独自の進化を遂げた地底人とか(それも別の映画ね)。
 何にも無しか。B級映画に毒されている私がイカンのか。

 徹頭徹尾、描かれるのは自然の驚異と人間との戦いだけ。
 一匹の魚も出てこない。
 虫とか、コウモリとか、洞窟に付きものな生物も少しは登場させてもらいたかった。まぁ、コウモリだけはチラっと登場しましたが。

 そうは云っても、巨大なタンクの中で撮影されたという水中撮影自体は見事なものでした。
 特に潜水服が『アビス』を思わせるデザイン──役者の表情が判るくらいに大きくてクリアなフェイスプレート──なあたりに、ジェームズ・キャメロン製作の映画であることが感じられました。水中のシーンも、『タイタニックの秘密』とか『エイリアン・オブ・ザ・ディープ』に通じるものがあります。
 洞窟内の水中に、ちゃんと減圧用のシェルターまで用意されているという描写もいいですね。ちゃんと判っているという感じデス。
 更に水中シーンだけでなく、洞窟内のシーンもほぼセットだったというから、背景美術の職人技も一見の価値ありと申せましょう。

 デヴィッド・ハーフシェルダーの音楽もなかなか印象的で(ニューギニアの民族音楽ぽいメロディが好き)、サントラCD買っても良いという気になりました。

 ジェームズ・キャメロンはこの先も3D映画布教に尽力していくのでしょうか。
 そこまで3Dに入れ込まなくてもいいような気がしますが。インタビューの中で、『ブラック・スワン』や『127時間』も3Dならもっと臨場感溢れた映画になったろうと云っておられました。
 うーむ。伝道者の目から見るとそういうものなのか。


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