2011年6月17日金曜日

赤ずきん

(RED RIDING HOOD)

 グリム童話「赤ずきんちゃん」の映画化……なのですが、童話の通りでは勿論ありません。そもそもこの童話自体が、グリム童話になる以前にもシャルル・ペロー版とか、ルードヴィヒ・ティーク版とか色々あって、展開や結末が異なるし。
 この映画はどっちかと云うと、ペロー版に近いか。ダークな民間伝承だった頃のネタも復活しているあたり、ホラー映画になるのが前提だったのか。
 レオナルド・ディカプリオの製作会社の作品で、デカプーもプロデューサーの一人として名を連ねていますが、この会社はホラーやスリラー系の作品が多いようなので、こういう映画になるのは、まぁ納得か。

 しかし監督は『トワイライト/初恋』のキャサリン・ハードウィックですから、別の要素が入り込んでいるような。
 いや実は、個人的に「恋人がバンパイヤ」とかいう設定には辟易しておるのですが、これもまた似たような物語か。恋人が人狼? いや『トワイライト』のシリーズにも、そういうのはあったか。
 自分が歳食った所為で共感できないのか。
 『SOMEWHERE』を観たときに、娘役のエル・ファニングから「恋人がバンパイヤな小説を読んでるの」と云われて、戸惑うスティーヴン・ドーフの姿の方に共感してしまう私デス。
 しかし若年層にそういうのがウケるというのであれば、ちゃんとそういう映画を製作すると云うのは正しいのでしょう。

 とは云え、人狼を描くに当たって「赤ずきんちゃん」を持ってくるか。ある意味、正統派ではあるか。民間伝承の頃は狼は動物ではなく人狼──狼のように悪意ある人間から転じたのですかね──だったそうなので。言葉を話すしな。
 だからこれは童話の映画化ではなく「人狼に襲われた村」を描くファンタジックなスリラー映画なのデス。

 最新の特殊効果を駆使して描く「赤ずきん」の童話──と云うと、その昔、『狼の血族』(1984年)と云うファンタジー映画を観たことを思い起こします。映像が寓意的でなかなか印象的でした。特に狼への変身シーンが独特で。
 でも、この『赤ずきん』にはその手のシーンはありません。最新の特撮技術を使えば容易いのでしょうが、別に『ウルフマン』と張り合うつもりは無いらしい。このあたりの演出にポリシーが感じられます。
 だから人狼、と云ってもいわゆる「狼男」にはならない。人でいるか、さもなくば「巨大な狼」の姿でいるかのどちらか。途中の変身シーンは無い。瞳の光彩が形を変える程度のCGがさりげなく使われているくらい。
 でも村を蹂躙する狼の姿はバリバリにCGですね。本物の狼を使うとリアルではありますが、人より小さいからね。並の馬や牛より大きな狼が納屋の屋根を飛び越えていく、なんてシーンはCGでないと無理。

 『狼の血族』の頃から、「大人になった赤ずきん」と云うイメージに、なにやらエロい展開を期待してしまうのですが、こちらはティーンな男女の恋愛映画でもありますから、あからさまではありませぬ。
 赤ずきんちゃんがモノローグで「私、良い子じゃないの。悪いコなのよ」などと嘯いてみせるのも可愛くて宜しい(笑)。

 この赤ずきんちゃん──この映画ではヴァレリーと云う名前──を演じるのは、アマンダ・サイフリッド。『マンマ・ミーア!』ではメリル・ストリープの娘役だったあの娘か。あれも可愛かった。最近、続けて主演作が公開されていますね。『CHLOE/クロエ』とか『ジュリエットからの手紙』とか。

 これは赤ずきんちゃんをめぐる三角関係の物語である(笑)。
 赤ずきんちゃんに思いを寄せる二人の青年、ヘンリー(マックス・アイアンズ)とピーター(シェイロー・フェルナンデス)。本命はピーターであるが、両親は裕福なヘンリーとの結婚を望んでいるという図式。

 そこへ降って湧いた殺人事件。長年、家畜の生贄を捧げていれば人を襲わなかった狼が遂に村人に手を出したのである。しかも犠牲者はヴァレリーの姉だった。
 と云うところで「狩人さん」の登場となるのだが、この狩人は只のハンターではない。聖職者なのである。
 ゲイリー・オールドマン演じるソロモン神父がなかなかイカすキャラでした。もっと活躍してもらいたかった。

 村人が山狩りの末に討ち取った狼の死骸を前に一安心していると、「それはヤツではない。普通の狼だ。ヤツはまだ生きている」と警告する。
 なんか『ジョーズ』のパターンですね。
 このソロモン神父、人狼退治の専門家ではありますが、かなり狂信的でもあり、正義を貫く為には犠牲も厭わない。敵は人狼であり、そいつは村人の中に紛れ込んでいるのだと断じて、異端審問めいた拷問で村人を苦しめる。こんな専門家を招聘してしまったことを後悔しても後の祭り。

 そしてベテラン女優ジュリー・クリスティが赤ずきんのお祖母ちゃん役で凄みを効かせています。でも童話の「病弱で優しいお祖母ちゃん」とはちょっと違うような……。
 こんな凄みのある婆さんなら、狼だってあんまり襲いたくないだろう(笑)。

 さて、こうなると物語は「殺人事件の犯人がこの中にいる」式のミステリの様相を呈して来ます。容疑者は村人全員。誰もが疑心暗鬼。
 ミステリ好きの観客なら「一番怪しくない奴が犯人」とか「一番意表を突ける奴が犯人」だろうと推理し始めてしまう。そこをどう躱すかが演出の腕の見せ所……って、なんかもう恋愛モノじゃ無くなってしまいました。

 意表を突くなら、「食べられてしまうお祖母ちゃん自身が人狼」とか「狩人であるソロモン神父自身が人狼」あたりなのですが、これはハズレ。
 そもそも神父は途中で狼と戦いますからね。「神の方が強いのだァ」と叫んで突撃するゲイリー・オールドマンの狂信的演技が素晴らしいデス。

 ひょっとして恋人のピーターが人狼なのか。ほら、『ピーターと狼』という作品もあることですし(笑)。
 一応、ラストの謎解きでは結構、意外な人が人狼でした。でも辻褄は合うし、それなりの伏線もあった。ミステリとしては合格でしょう。

 童話の元ネタも可能な限り取り込もうとする姿勢もなかなか良かったです。
 ベッドで寝ている祖母に「お祖母ちゃんの耳はどうしてそんなに大きいの?」と訊ねる下りとか。
 ダークな民間伝承ネタも取り込まれていて、お祖母ちゃんの家を訪ねた赤ずきんちゃんが、食べなさいと薦められるシチューの肉の材料が……とか。
 狼の末路についても同様。
 この「狼の腹を割いて石ころを詰め込む」というのは、同じグリム童話『七匹の子ヤギ』と一緒ですね。このラストはグリム兄弟の創作らしい。ペロー版『赤ずきん』にはそんなラストは無いそうな。
 割と原典に近いネタまで色々と取り込んだ映画化なワケか。

 雪の降る白い森の中で、アマンダ・サイフリッドの真紅のマントが実に鮮やかでした。
 でもやっぱりハードウィック監督は「恋人は人外キャラ」ネタの誘惑には勝てなかったようである。うーむ。




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