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2011年4月19日火曜日

エンジェル ウォーズ

(SUCKER PUNCH)

 ザック・スナイダー監督の大バカB級アクション大作ですよ。もう予告編を観たときから脳がクラクラするほどのインパクトを受けました。
 『300』よりも『ウォッチメン』よりも、趣味が炸裂していると申せましょう。思えば『ドーン・オブ・ザ・デッド』も『ガフールの伝説』も、今までの監督作品はどれも原作付だったか。
 オリジナル作品はこれが初めてか。製作・監督・脚本ザック・スナイダー。
 もうやりたい放題(笑)。

 金髪セーラー服のヒロインが日本刀でサムライ型巨大魔神や、ナチスのゾンビ兵士や、火を吐くドラゴンを退治していく。
 日本のアニメーションに精神が毒されておる。多分、もう手の施しようも無い。
 俺達の仲間だぁ。

 冒頭の状況説明に台詞を一切使わない演出が巧いです。もう観ているだけで何がどうなっているのか判る。
 とある資産家の婦人が病没する。しかし遺言により、財産はすべて二人の娘に。再婚相手だった姉妹の継父には一銭も入らない。継父の凶行により妹が犠牲となり、姉は精神病院へ送り込まれてしまう。
 継父の奸計でロボトミー手術が手配される。外科医の到着までに姉は病棟から逃げ出すことが出来るのか……。
 過酷な現実に参りそうになる姉は、虚構の世界と現実の世界を重ね合わせ、すべての出来事は虚構の世界に投影された事件として展開していく。

 階層毎に分けられた複数の世界で事件は進行していく──と云うと『インセプション』みたいです。夢の中の夢、という入れ子構造が似ているが、作品としてのテイストは『オズの魔法使い』なんかに似ていますかね。
 ある登場人物が、夢の中では別の人物の役を振られて登場するというあたりが。

 現実ではヒロインは精神病院に収容されているが、空想世界の中では病院が娼館になる。
 病棟の用務員は、娼館のボスに。精神科医は、娼館のマダムに。そして病棟内の他の患者達は、娼館に囚われた娼婦達となる。
 空想世界で展開される娼館からの脱出計画が、そのまま現実世界での精神病院からの脱出に重ね合わされているという、非常に判りやすい構造です。

 物語はほとんど空想世界である娼館を舞台に展開する。現実世界は冒頭に描かれただけ。
 しかし物語は空想世界から、更にファンタジーな妄想世界へと飛躍していく。

 脱出の為に手に入れなければならないアイテムが提示され、娼婦達は警備員や看護士の目を盗んでアイテム調達を行うのであるが、その過程は妄想世界での戦闘シーンとして描かれる。
 ひとつの戦闘に勝利したとき、必要なアイテムがひとつ入手されるというのが、アクション・ゲームのノリですね。あるステージでのミッションをコンプリートさせて、次のステージに進むという感じ。

 この妄想世界でヒロイン達を導くのがスコット・グレン。
 最初の登場シーンである「寺院」では導師の姿をしている。もうほとんどデビット・キャラダインのパロディかと。『燃えよ! カンフー』なんて若年層は知らないのではないか(笑)。

 しかし、どうにもタラ公の『パルプ・フィクション』以降、日本刀最強伝説がハリウッドに蔓延しているように感じられてならない。どんなマシンガンも日本刀の前には無力なのである。弾を刀ではじき返すのはお約束ですね(笑)。

 他にも、サムライ魔神は『未来世紀ブラジル』へのリスペクトが感じられるし、もろに『指輪物語』な描写や、過去の戦争映画やアクション映画へのオマージュが随所に見受けられる。
 勿論、それらをジャパニメーションのフィルター越しに観るわけですが(笑)。

 もう映像的には趣味丸出しで、好きな人には堪らぬ魅力でしょう。
 第一次大戦風の戦線に、蒸気で動くゾンビ兵士が登場したり、二足歩行型パワードスーツが登場したりすることに違和感を感じる人には、お薦めできませぬ。
 このノリに付いてこられない、世界観を共有できない方は、この映画を観てもナニがナニやらでしょう。

 まぁ、日本人が観てもちょっと……と思わぬところが無いではない。
 ザックが日本アニメ大好きだというのは判った。きっとゲームも大好きなんだよな。
 しかし何でしょうね。本当に「萌え」の概念を理解しているのかイマイチ不安だ。或いは、日本人の感じる「カワイイ」と多少、ズレていると思う部分も無きにしも非ず。

 ぶっちゃけ、エミリー・ブラウニングに萌えますかね?
 劇中でも設定上は「二十歳」になっている。いくらセーラー服に、ヘソ出しルックで日本刀振るってもなあ。頑張って童顔にしているし、役名も「ベイビードール」ですけど……。
 まあ、色々規制があるのは判りますよ。
 なんせ空想世界は「娼館」ですからね。未成年者を娼婦として登場させるのは、やはり差し障りがあるのでしょうが……。
 逆に、未成年者でもいいように脚本を変更できなかったのか。

 脚本といえぱ、もうひとつ。
 個人的に深読みしすぎたところがありました。

 スコット・グレンだけは、現実世界に対応する役がない部分がね……。ひょっとして、実は階層構造状の世界はもう一つあるのではないかと思ったりして。
 そもそも五人の少女に五つのアイテム。
 ミッション途中から脱落していく仲間達。
 何かイヤな予感があったのですが……。

 ひょっとして現実だと思われていた精神病院も、幻想の一つなのでは。これは多重人格患者の治療過程で人格が統合されていくという物語なのでは……と、あらぬ疑いを抱いてしまいました。
 全ッ然、そんなこと無かったデスね。そういう解釈もあり得るとは思いますが、そういうことは観たひと各人に委ねられるのか。
 まあ、映像的には何の不満もないし、過程の描写が見所の全てであるので、結末については、あれはあれでもいいか。それなりにハッピーエンドではあるし。




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