2011年4月20日水曜日

ピンク・スバル

(Pink SUBARU)

 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2011審査員特別賞、記者賞の二冠に輝く映画であると云うのも納得です。
 イタリア・日本の合作だそうである。一応は邦画か。
 監督の小川和也はこれが長編初監督作品だとか。でも結構、面白かったです。

 タイトルの「スバル」とは、日本車のスバルです。富士重工業製。
 昔、『黄色いロールスロイス』という映画はあったがこちらは「桃色のスバル」。
 クリント・イーストウッド主演の『ピンク・キャデラック』と云うのもあったか。
 何故、こんな題名なのか。冒頭の説明が興味深い。

 イスラエルは七〇年代からの近代化に伴い、急速に自動車社会へと変貌を遂げるのであるが、多くの自動車メーカーは、より需要の高いアラブ諸国を重要視しイスラエルを二の次にしてしまった。唯一、日本の富士重工業だけが輸出に積極的に取り組み……。
 結果、イスラエルを走る車のほとんどがスバルとなってしまった(笑)。

 舞台となるのはイスラエルとパレスチナ自治区の境界にあるタイベの街。テルアビブへの通勤圏内であるという描写もある。
 テルアビブでもロケしているのですが、今でもスバルは多いみたいですねえ。まあ、ホンダもマツダも走っていましたが。

 タイベ在住でテルアビブの日本食レストランに勤める中年男性ズベイルの夢はマイカーを持つこと。妹アイシャの結婚式を目前に控え、遂に彼は決断する。

 「母さん、俺は車を買うよ」
 「そうかい。何の車を買うんだい」
 「レガシィさ!」

 メタリック・ブラックのレガシィ! 男の夢ですなあ(そうか?)。
 イスラエル国民にとってスバルは「希望の星」なのだそうだ。本当か。
 まぁ、「ユダヤの星」も六ツ星ですけどね。
 もう運転席に座ってハンドルにキスしてダッシュボードに頬ずりするほどである。
 まさに「俺のヨメ」状態。

 納車された晩は御近所さんが集まってのお祭り騒ぎ。いや、ホントは妹さんの結婚の前祝いの筈なのだが、どう見てもスバル納車を祝っているようにしか見えん(笑)。
 ところが翌朝、忽然とレガシィは消え失せてしまう。早速、盗まれてしまったのだ。
 アイシャの結婚式まで、あと四日。果たしてズベイルは盗まれた新車を取り戻すことが出来るのか。

 実はタイベは有名な「車泥棒の街」であると云う。パレスチナの西岸地区ではカーディーラーが少なく、需要に供給が追いつかない。その為、イスラエルから盗難車をパレスチナ自治区に運び込んで商売するのが街の産業となっているのだとか。
 そんな街でピカピカの新車をこれ見よがしに……。気持ちは判るが不注意なのでは。

 ズベイルの友人達もかつては車泥棒のプロだったりする。失意のどん底のズベイルを慰める友人達の言動も物騒だ。

 「俺のダチから車を盗むとはどこのどいつだ。見つけたら銃で脚を撃ち抜いてくれる」

 ツテを頼って車両窃盗団のボスにも頼み込んで車の行方を捜してもらう。
 ズベイルの頭の中は、盗まれたレガシィのことで一杯である。遂には夢にまで見る始末。
 死海のほとりで(さすがイスラエル!)、黒いドレスの美女──これがレガシィの化身らしい──が「早く私を見つけて」と訴えてくる(笑)。

 物語は最初から最後まで、盗まれたレガシィを探して右往左往する男達の姿しか映さない。イスラエルとパレスチナが舞台の映画なのに、爆撃とか紛争とか自爆テロとか、そんなものは一切描かれないのである。
 テルアビブの街の様子とか、実に平和なのでちょっと拍子抜けしさえする。
 陽光溢れるいい感じの街なんですけどねえ(紛争さえなければ)。

 イスラエルの日本食レストランというのも面白い(笑)。
 パレスチナ自治区への給水事業が日本政府の援助で行われている描写もあったりします。ちゃんと日本人の俳優さんが日本人青年の役で登場する。
 映画の中ではヘブライ語とアラビア語と日本語と英語が飛び交うという、非常に多国籍な感じ。なかなか興味深い。
 スバルの他にも、プレステやらPSPという日本製品がイスラエルにも浸透している描写が笑えました。

 そして盗まれたレガシィを追ってズベイルはパレスチナ自治区の街トルカレムへと向かう。
 実はタイベから境界線を越えた自治区側の隣町がトルカレム。丘を一つ越えた先にあるという印象ですが……。
 うーむ。実にのどかだ。

 本当に紛争地帯なのか?
 兵士の巡回があるというセリフはあれど、兵隊さんは登場しない。「国境」というイメージからはほど遠い。大体、フェンスも何もないのである。
 民間人がとことこ歩いて丘を越えていくだけで自治区に行けてしまう。
 道路も通っているので、車でフツーに走っていくだけで、もう西岸地区である。検問所とかも無い。なんじゃそりゃ。

 物語の展開よりも、背景となるテルアビブや、パレスチナ自治区の日常描写の方が興味深いと云う、不思議な映画でした。文化の違いがはっきり判るが、宗教色は皆無。ユダヤ教もイスラム教も描かれない。
 平和な映画だなあ。ほのぼのしている。

 そしてズベイルはトルカレムで盗難車の売買を仕切るという「スバルの母」を探すのであるが……。
 ネーミングが凄いデスね。まぁ、フツーのオバチャンでしたが。
 この「スバルの母」の元に、登場人物達が集結していく様がクライマックス。ズベイルも、その友人達も、アイシャと婚約者も、日本人青年も、テルアビブのカーディーラーまでもが集まってくる。
 物語的には大団円なのであるが、ちょっと脚本的に御都合主義な部分が無きにしも非ずか。少し説明不足な点が散見されたのは玉に瑕でした。

 メタリック・ブラックだったレガシィが、発見時にどんな色に塗り替えられていたのかは、題名で判りますね。なんというか、痛車の一歩手前。色だけで充分、痛車と云うべきか。
 すったもんだの末に元の色に戻すのであるが……。

 基本はコメディ・タッチのドラマなので、オチの部分で笑えるのですが、ちょっと演出が弱い。一応、劇中で妹の婚約者が「そうか。お義兄さんはピンク色が好きなんだな」と勘違いするという伏線がありまして。
 妹アイシャの幸せな結婚式でハッピーエンド……の筈が。

 勘違いから生じた善意のサプライズでズベイルが卒倒するというラストシーンは、もう少し巧く描写できたら爆笑ものだったのに。
 でもなかなか楽しい映画でした。こういう作品はもっと評価されて然るべきであると思いますねえ。公開する劇場も増やしてもらいたい。

 エンドクレジットで当然のように谷村新司の「昴」が流れます。
 しかし「盗まれたスバルを取り戻す」物語なのに、「♪さらば~昴よぉ♪」と云う歌詞はどうなんでしょね(笑)。


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