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2011年4月1日金曜日

ファンタスティック Mr.FOX

(FANTASTIC Mr.FOX)

 随分と遅れて公開されたものです。いや、公開されるだけマシなのか。
 昨年のアカデミー長編アニメ賞に『コララインとボタンの魔女』、『プリンセスと魔法のキス』、『カールじいさんの空飛ぶ家』らと共にノミネートされていた作品です。
 受賞したのは『カールじいさん~』だったが、私は『コラライン~』を推したかった。

 それはさておき──。
 監督はウェス・アンダーソン。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』も『ライフ・アクアティック』も『ダージリン急行』も観ておりませぬが、奇才と云うか独特なスタイルの映画監督であるとは聞いてます。が、アニメの監督という感じでは無かった。
 しかしそんな人だからこそ、いまどきストップモーションで人形アニメ(24コマ撮りですよ)なんて撮るのか。デジタル全盛の時代に。やはり変わった監督だ。

 もうなんというか、キャラクターが人形丸だしなのです。いかにも「人形を動かしてますよー」的にカクカク動く。わざと雑に動かしているようにも思える。監督の個性が反映された結果なのか。
 それに人形の表情もあまり豊かな方ではないな。
 同じ人形アニメの『コララインとボタンの魔女』とは対照的です。コララインの表情が実になめらかにクルクル動いたのに比べ、父さん狐の表情はほとんど変わらない。
 CG皆無。このアナログ感覚。

 しかしだからといって詰まらないワケではありません。日本の伝統芸能、人形浄瑠璃にも通じるような趣があります。人形の表情が変わらなくても、声とポーズで充分、感情が伝わります。
 でもその為には、人形を動かすアニメータの皆さんはかなり苦労していたのではないか。
 そして人形の声を演じる声優さんも豪華すぎる。
 ミスター・フォックス(父さん狐)にジョージ・クルーニー。ミセス・フォックス(母さん狐)にメリル・ストリープ。
 他にもビル・マーレー、オーウェン・ウィルソン、マイケル・ガンボン、ウィレム・デフォーと続く。すごいね、こりゃ。

 原作はロアルド・ダールの『すばらしき父さん狐』。ダールの児童文学はよく映画化されますねえ。『ジャイアント・ピーチ』とか『チャーリーとチョコレート工場』とか。
 児童文学以外の短編小説とかも、もっと映画化して戴きたい。

 そして何を云うにも、やはり映画は脚本なのです。奇妙な人形アニメではありますが、脚本がいい。
 ダールの原作にはない「父と息子の物語」という設定をアンダーソン監督が付け加えたそうですが、これが巧い。

 ミスター・フォックスは盗みのプロである。人間の農場に侵入しては、鮮やかに鶏や卵を盗み出す。
 しかしあるとき、奥さんから妊娠したことを告げられ、きっぱりと盗みから足を洗うことを約束した。そして息子が誕生し……。
 堅気となって二年(キツネ時間では十二年)後、新聞記者となったミスター・フォックスは生活に満たされぬものを感じていた(笑)。
 友人であるアナグマ(ビル・マーレー)の忠告も聞かず、見晴らしの良い丘の上に新居を購入したのはいいが、その丘の反対側には三人の農場主が経営する農場があり……。
 ミスター・フォックスは奥さんに内緒でつい……。
 ああ、盗みからは足を洗うと約束したのに。堅気になると誓った筈なのに(笑)。
 そして始まる人間の農場主(マイケル・ガンボンだ)達と動物達との攻防戦が楽しい。人間側の大攻勢の前に避難を余儀なくされる動物達であったが……。

 ミスター・フォックスの一人息子アッシュの活躍は原作には無いそうですが、これが本筋。父親に認めてもらいたいが振り向いてもらえない落ちこぼれの息子アッシュとミスター・フォックスとの関係回復がメイン。
 結構オフビートなギャグが色々盛り込まれて、奇妙な味わいではありますが、感動的であります。どこまで本気か判らぬが(笑)。

 ところでアニメ映画の声の収録と云えばスタジオで行うものですが、アンダーソン監督はこれを野外で行ったそうな。
 農場で動物達が会話するシーンでは、俳優達を引き連れて農場へ。更に森の中でも収録し、野原を駆け回りながら声の収録を行ったらしい。
 なまじアニメなど監督したことがない人だから、こんな型破りなことも出来るのですかね。それに付き合わされる音響監督の苦労も並大抵ではあるまいが。
 しかし本当にジョージ・クルーニーやメリル・ストリープを連れて農場や森で録音したそうなので、さぞかし珍妙な光景であったことでしょう。

 するとナニかね。
 クライマックスを前にした下水道の中で、人間側の手先となったドブネズミの殺し屋(ウィレム・デフォーですよ!)とミスター・フォックスの戦いの場面は……。
 うーむ。まさか……。

 他にもエイドリアン・ブロディがカメオ出演しているそうですが、何のキャラなのか判りませんでした(汗)。

 楽しいアニメであり、音楽もなかなか良い。サントラは聞きものです。
 劇中で歌われるカントリーソングがいい感じ。
 実はこの作品は、アカデミー長編アニメ賞だけではなく、作曲賞にもノミネートされておりました。音楽を担当したアレクサンドル・デプラは『ベンジャミン・バトン/数奇な人生』や『英国王のスピーチ』でもノミネートされたことのある割と常連なひとですね。まあ、常に受賞を逸している残念な人ですが。


 上映前に、ウェス・アンダーソン監督からのメッセージが特別に流されました。
 東日本大震災に被災された東北、関東地方の皆様に向けた励ましのメッセージ。
 公開前に特別に寄せられたものらしい。
 アンダーソン監督って、いい人だな。

●余談
 ところで2010年のアカデミー長編アニメ賞ノミネート作品と云うと、全部で五本でしたが……。
 まだ『The Secret of Kells』が公開もされず、ビデオ化もされず残っている。これはもう無理なのか。




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