クリスチャン・ベールとメリッサ・レオは、なるほど納得の演技でありました(それでも私はジェフリー・ラッシュを推したいが……)。
主役であるミッキー(マーク・ウォールバーグ)の兄貴ディッキー役と、兄弟の母アリスの役。
助演女優賞には『ザ・ファイター』からもうひとり、ミッキーの恋人シャーリーン役でエイミー・アダムスもノミネートされておりました。
こうなるとマーク・ウォールバーグも主演男優賞にノミネートくらいしてあげればいいのにと思ってしまうのですが、こちらは残念。
まぁ、何を云うにしても、クリスチャン・ベールが実に印象的。主役を喰うと云うか、兄弟の物語なのだからこっちも主演でいいのではないか。なんかもう病的なまでにひょろひょろと痩せて、眼がギラギラしている。怖い。
これは実話に基づく物語。
実在のプロボクサー、ミッキー・ウォードが彼の兄ディッキーと共にどん底から這い上がり、栄光を掴み取るまでが描かれる。クライマックスの王座決定戦はボクシング史上で最もエキサイティングな試合だったそうであるが(2000年WBUスーパーライト級タイトルマッチ)、存じませんでした。
してみると、それほど昔の話ではないわけだ。
寡黙な弟ミッキーに対して、いつもヘラヘラと調子のいい兄貴ディッキーが対照的。ミッキーは兄に憧れてボクシングの道に入ったのだ。
しかしかつては地元の誇りとまで讃えられたディッキーは、薬物に溺れて引退同然。すっかりヤク中となり果て自堕落な生活を続けながら、過去の栄光にすがって生きている。
ミッキーの試合は全て母親がマネージャーとなって仕切り、兄貴がトレーナー。自分の思うような試合が出来ずにミッキーはストレスを溜め込んでいる。
実はミッキーの家族は大家族である。両親と兄弟の他に、姉が5人もいる。この大家族の家計は、ほとんどミッキーのファイトマネーで支えられている。一応、父親も働いているが稼ぎは少なさそう(真面目な人なんですけどね)。
兄貴はサボってばかりで、ほとんど仕事しないし。
序盤でのミッキーの生活描写が悲惨。戦えど戦えど貧困からは脱出できず、自分にまとわりつく家族が鬱陶しい。特に母親がすべてを取り仕切り、文句を云わせない。いやもう、よくここまで我慢できるものだと思います。
これはもう寡黙で我慢強くならなければ生きていけない。いくら家族を愛しているからって、ここまで我慢する必要はないだろう的に忍従の生活が続く。
シャーリーンと出会ったことで転機が訪れる。当然、恋人はミッキーに自分の人生を取り戻させようとするのであるが……。
恋人と母親(および姉5人)でミッキーをめぐる修羅場が展開する。
うーむ。どう見ても恋人の方に理があるのだが、母親は自分が間違っているなど絶対に認めない。母親なりに息子たちを愛しているのですが、この愛し方は間違っているよなあ。
愛しているからって支配していい訳じゃあるまい。本人は息子を支配しているとは思っていないようなのが、また始末に悪い。しかも兄貴の方を猫可愛がりし、弟は二の次のように見える。
出来の悪い子供の方が可愛いのですかねえ。こんな家庭でミッキーはよくグレずに育ったものだ。
そして中盤、ミッキーのトレーニング費用を捻出してやると大見得切ったディッキーがヤバイ仕事に手を出し──まぁ、ハナから真面目に仕事をする気のない人だから当然ですが──、逮捕される。その際に警官ともみ合いになり、ミッキーも拳に怪我する。
もう、どん底も極まれりである。
刑務所の中でのクリスチャン・ベールの演技が光ってます。
まぁ、この収監は結果的には悪いことではなく、ディッキーは自分のみじめな人生をイヤと云うほど思い知らされ、ヤクが抜けてマトモになり始める。一方、兄貴の影響から脱したミッキーは、試合でも勝ち始める。
ディッキーも刑務所で自主トレを開始。このあたりはなんか『あしたのジョー』みたいでした。ハリウッドでリメイクするときにはクリスチャン・ベールを起用してもらいたい(笑)。
でもクリスチャン・ベールは力石徹役の方がいいかな。
他にも父親役のジャック・マクギーがいい。主にTVドラマの方で活躍されているオヤジさんですが、良い味出してます。名バイプレーヤーですね。
数少ないミッキーの理解者で、微力ながら盾になってくれる。でも女房の剣幕にタジタジとなってしまうのですが……。
家庭内で、この父親の発言力がもっとあれば、事態はここまで酷くならなかったろうに(汗)。
ディッキーが出所してから、また元の木阿弥かと思われましたが、雨降って地固まってくれて本当に良かった。シャバに戻ったディッキーが、ドラッグ仲間からの誘いにまた乗ってしまうのか──と思わせ、見事に誘惑を振り切る場面が淡々としながらも素晴らしい。さすがクリスチャン・ベール。
そして兄弟で並んでトレーニングに励み始める。
しかし兄弟和解はいいが、母親との和解があっさりしすぎているような印象があります。そんなに簡単にいくものなのか。あまりしつこく描写するような場面でもないのは判りますが、わだかまりがアッという間に水に流されることに違和感を抱くのは、日本人だからなのか。米国人はこういうことにはドライなのか。
さて、家族の問題が解決し、恋人との仲も修復されてしまえば、もう障害などナニもない。あとは勝ちに行くだけである。
クライマックスの王座決定戦はもはやオマケのようなもの。それなりに激しいファイトではありますが、固い兄弟の絆の前には、どんな強敵だろうと敵ではない。
セコンドに付いたディッキーの励ましがミッキーを奮い立たせる。
「お前は俺のようになるな! 行け!」
この兄貴がいたからこその勝利。そして家族、恋人の支えがあってこその勝利という描写が美しいですね。
これは現代の『ロッキー』たり得るか。
うむ。かなり『ロッキー』に迫ってます。『あしたのジョー』よりは肉薄していると云える。ロッキー・バルボアとは異なり、ミッキー・ウォードは勝利しますが、別に勝ったからイカンとか負けるからイイというようなものではない。
が、いまひとつナニか足りないような……。
そうか。ビル・コンティの、あのテーマ曲に代わるものが無いのだ。ああ、惜しい! マイケル・ブルックの音楽はさりげなく、あまり劇的に盛り上げるような調子ではない。まあ、実話ベースの物語では仕方ないのか。
エンドクレジットで、本物のミッキー&ディッキー兄弟のインタビュー映像がオマケに付いてくるのが楽しかったデス。
いや、なんと云うか、クリスチャン・ベールの演技は本物でした。
ホントにディッキーってあんな喋り方するんだ(笑)。
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