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2013年4月2日火曜日

ジャックと天空の巨人

(Jack the Giant Slayer)

 近年、童話を基にしたCG特撮な実写のファンタジー大作が毎年のように公開されておりますね。
 『赤ずきん』(2011年)、『スノーホワイト』(2012年)、『白雪姫と鏡の女王』(同年)ときて、今度は「ジャックと豆の木」ですか。このままグリム童話を総ナメにしていくのか……とも思いましたが、「~豆の木」はグリム童話じゃなかったデスね。

 テリー・ギリアム監督の『ブラザーズ・グリム』(2005年)で、グリム兄弟の弟(ヒース・レジャーでしたねえ)が、牛と〈魔法の豆〉と交換してしまうエピソードがあったので、勘違いしておりましたが、「~豆の木」はグリム童話ではなく、イギリスの民話でした(ドイツではない)。
 しかも本作の元ネタは「~豆の木」だけでなく、「巨人退治のジャック」と云う民話もミックスされているとか。確かに、本作では「巨人の国から財宝を持ち帰る」ことはなく、後半はスペクタクルな巨人軍団とのバトルが描かれておりました。

 本作の監督はブライアン・シンガー。『ワルキューレ』(2008年)以来の久々の監督作品。
 主演は、ニコラス・ホルトとエレノア・トムリンソン。ニコラスがジャック役で、エレノアがお姫様役です。
 やはりファンタジーな冒険物語は、主人公がお姫様を助けて活躍せねばならぬのか。「~豆の木」はお姫様不在の童話でしたからね。華が無いか。
 ニコラスは、『X-MEN : ファースト・ジェネレーション』(2011年)でビースト役だったので存じております。世間一般的にはコリン・ファースがアカデミー主演男優賞にもノミネートされた『シングルマン』(2009年)に出演していたと云った方が通りがいいかも知れません。
 一方、エレノアの方はイマイチ憶えがありません。『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)にも出演していたそうですが、ジョニー・デップやヘレン=ボナム・カーターの仮装が強烈すぎて、印象に残っておりません。しかし本作のエレノア演じるイザベル姫は、なかなか活動的で元気なお姫様として好感持てますねえ(やはり現代的なお姫様ですね)。

 脇を固める配役が豪華です。
 姫の父親である王様役がイアン・マクシェーン。『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(2011年)の黒髭船長ですよ。この方は『スノーホワイト』でも小人さんの一人でしたし、ファンタジー映画への出演が続いておりますね。
 姫を守る騎士団の団長役がユアン・マクレガー。オビワン、ここでも騎士の役か。ジャックと姫を取り合う三角関係になるのかと思いきや、色恋沙汰には参加しないナイスガイでした。
 悪役になるのが、姫と結婚して王国乗っ取りを企む貴族役のスタンリー・トゥッチです。今回はコミカルな悪党を演じております。

 他にもう一人、大物が配役されています。攻めてくる巨人族のボス──の、片方の頭──が名優ビル・ナイでした。「双頭の巨人」という設定なので、片方(メインの頭)がビル・ナイで、もう片方(サブの頭)がジョン・カーサー。
 もっとも、CGキャラなので微かに面影が残るのみですケド。

 本作はCGテンコ盛りのアクション大作ですので、当然のように3D日本語吹替版で公開されております。字幕版は2Dで上映。
 随所に3Dを狙った画面のレイアウトが見受けられますが、私が観たのは2D字幕版でした。きっと3Dで観ると迫力ある構図なのだろうなぁとは察せられましたが、とても本作の吹替版を観ようという気にはなれず、やむを得ず断念した次第デス。
 だってねえ。本作の日本語吹替版は……如何なものか。

 主役のジャックが、ウエンツ・ゲゲゲの鬼太郎・瑛士なのはいいとして(いいのか?)。
 お姫様が、堤幸彦監督の『20世紀少年』三部作でカンナ役だった平愛梨。これもいいか(うーん)。
 イアン・マクシェーンが佐々木勝彦だったり、ユアン・マクレガーが森川智之だったり、スタンリー・トゥッチが内田直哉なのはいいですよ。ベテラン揃いで、安心して任せていられます。
 如何なものかと思うのは、巨人族の側でして。

 冒頭で呪文のように語られるお伽話のフレーズがあります。
 「フィー・ファイ・フォー・ファム。雷がどこからやって来るか知りたいか?」と云うフレーズ。雷鳴の音は天空で巨人達がたてている音なのだという御伽噺なのはいいです。
 実はこれが、あとで登場する巨人達の名前だったと云うのが判明します。その吹替の配役が……。

 フィー役が真栄田賢(スリムクラブ)、ファイ役が千原せいじ(千原兄弟)、フォー役が博多華丸(博多華丸・大吉)、ファム役が山里亮太(南海キャンディーズ)。そしてこの四人の上に立つボスであるファロン役が、ガレッジセールのゴリ。
 なんでやねん。

 何故に巨人族は吉本興業のお笑い芸人ばかりで占められているのだ。巨人族はブサイクだからか(それもまた失礼なハナシですよね、吹き替える側にも)。
 基本的に芸能人を吹替に起用するのは止めた方が良いと云うのが私の持論でありまして、中には巧い人もおられるのは承知しておりますが、今回の配役はあんまりだ。予告編を観た段階で、もう吹替版を観ようという気が失せてしまいました。
 更に巨人のボス役がゴリさんか! 謝れッ。この配役を考えた奴はビル・ナイに全力で謝れッ!

 コレ、DVDでリリースされるときには別バージョンの吹替も収録してもらえないものですかねえ──などと云う吹替版へのクレームはさておき。
 字幕版で観ている分には、本作はしっかりしたアクション・ファンタジー活劇であります。ジョン・オットマンの勇壮なテーマ曲もワクワクです。

 アバン・タイトルとして、少年時代のジャックが父親から御伽噺を読んでもらっている場面から始まります。同じ頃、お城ではイザベル姫がお妃様から同じ物語を聞かせてもらっている。
 カットの切り返しで、二人の少年少女に繋がりが感じられる編集はお見事でした。
 そして語られる御伽噺も、CG全開な人形劇として繰り広げられます。これは『白雪姫と鏡の女王』でも見られたパターンですね。メルヘンチックで味わい深い人形劇でした。
 「冒険がしたい」と云うお姫様に、お妃様は「良い女王になるには、どんどん冒険しないと」などと語っております。この言葉が三つ子の魂百までになろうとは。

 そしてタイトルがドーン。十年後。
 ジャックは両親を亡くし叔父の農家に引き取られ、イザベル姫は母を亡くして父王からは早期の縁談を持ちかけられていた。姫の縁談の相手は、腹黒いロデリック卿(スタンリー・トゥッチです)。
 実は冒頭の巨人にまつわる御伽噺は実話であり、王国の始祖は巨人を従えさせる王冠を作っていたと云うワケで、伝説の王冠を手に入れ、巨人族を率いて近隣諸国まで手に入れようと企むロデリック卿に対して、善良な修道院の僧達は〈魔法の豆〉だけでも盗みだし、ロデリック卿の野望を阻止しようとしていたのだった。
 たまたま城下を訪れていたジャックが、その陰謀に巻き込まれると云う図式です。

 決してジャックがマヌケで、騙されて「馬と豆を交換してしまう」なんて展開にはなりません。結果として、豆を託され、修道僧に馬を乗り逃げされてしまうのですが。
 これが客観的に見て、「馬と豆を交換した」ように見えてしまい、叔父さん大激怒。
 時を同じくして、縁談から逃げだしたイザベル姫がジャックの農家に転がり込んで来て、更に運の悪いことに大雨の所為で〈魔法の豆〉が発芽してしまう。ほんの少しの水分だけで、驚異の成長を見せる〈魔法の豆〉の映像が見事デス。
 物凄い勢いで発芽した豆は、床下から農家を持ち上げ、姫を家ごと天空に連れ去ってしまう。豆の木の生長が実にダイナミックです。

 姫を助けられずに転落し、気を失っていたジャックは翌朝、騎士団に発見される。姫を連れ戻せという王の命を受けた騎士団長とロデリック卿らの救助隊に、ジャックも志願し、かくして天空にまで届く巨大な豆の木を登っていく冒険が始まると云う展開が、スピーディに無駄なく進行していきます。
 これらのビジュアルに文句付けるところはありません。
 スカイツリーに素手で登っていくような描写がなかなかスリリングです。高所から見下ろすようなカットはやはり3Dで観た方が良かったのかしら。

 登攀中からロデリック卿は策をめぐらし、大半の騎士達は滑落して悲運の最期を遂げ、巨人の国に到着したのは、ほんの数名のみ。
 初めて巨人が登場するシーンは実に怪獣映画ライクな演出で嬉しくなりました。
 そこから先はロデリック卿があっさり本性を現し、ドラマは滞ることなく進行してくれます。まったく悪びれずに巨人族を従え、壮大な悪事の構想を得々と語るスタンリー・トゥッチが素敵デス。
 姫とユアンは囚われとなり、巨人のシェフに料理されそうになる。春巻きにされたユアンの姿が笑えます。

 劇中ではジャックが巨人族の宝物庫に侵入する場面もあって、莫大な金銀財宝を目の当たりにするのですが、それらには一切手を付けません(そんなことしている場合でもないが)。せっかく〈黄金のハープ〉とかが画面に登場するのに、ストーリーには関係ないのが残念でした。〈金の卵を産む鶏〉に至っては省略されてしまいましたし。
 出番が無いなら宝物庫の場面は全部カットしても差し支えなかったような。
 財宝よりも姫の救出が最優先だと云う演出でしょうか。おかげでジャックがヒーローらしくはなりました。

 紆余曲折の末、ジャックは姫を救出し、ユアン団長はロデリック卿と対決してこれを倒すが、巨人族の侵攻を阻止することは出来なかった。
 クライマックスはもう怒濤の迫力で、地上まで攻め寄せてきた巨人軍団と人間達の攻防戦が描かれます。圧倒的に巨人族が優位かと思われましたが、文明の利器を駆使する人間側が、頑張って善戦するのが興味深かったデス。
 城に立て籠もって抵抗する人間達と、城壁を破壊しようとする巨人側の攻防戦が熱いです。
 思わず、昔の日本の特撮映画『大魔神』(1966年)を彷彿とするような展開でした。

 ラストはお約束どおりのハッピーエンドとなるのですが、エピローグの処理がまた捻ってあって、御伽噺のまま終わることなく、現代にまで続いているのが面白い。
 そうかー。英国王は巨人族の王でもあるワケですね。




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