これはヒトラー暗殺計画についての物語。
実際には1934年以来、ヒトラーの暗殺は30回以上企てられたと云うが、結局そのすべてを生き延びた総統閣下はギネス記録ものと申せましょう。やっぱり常人離れしてるよなあ。
で、これはその数多くあった暗殺計画の中でも最大、且つ最後となった計画の発端から結末までの顛末を描いた物語。
主演のトム・クルーズ(以下、トム様)は首謀者クラウス・フォン・シュタウフェンベルク大佐。
よく考えると「ドイツ人が祖国ドイツを救おうとした物語」をアメリカが映画化するという、時代は変わったなあ的な企画の映画である。
製作開始当初は「ハリウッドがドイツの歴史をメチャクチャにしようとしている!」と批判されたそうですが──『パール・ハーバー』とかの前例もあるしねえ(笑)──、ブライアン・シンガー監督作品なので一応、ちゃんとしたサスペンス映画の体裁を保っています。
ぬう。『パール・ハーバー』もマイケル・ベイじゃなくて、ブライアン・シンガーに監督してもらいたかった。いや、そもそも制作がブラッカイマーだからダメか。
『ワルキューレ』も、やはりドイツ人が観ると穴だらけなのだろうか。
ハリウッド製なので仕方ないとは云え、ドイツ軍人が英語を喋るのはやっぱりおかしいか。『ラスト・サムライ』で武士が英語で喋るのと同じか。ああ、これもトム様主演か(笑)。
それでもヨーロッパ的なテイストを保とうとした努力の表れか、トム様以外はほぼイギリス人俳優を起用している。苦心の折衷案なのかな(笑)。
ケネス・ブラナー、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン、テレンス・スタンプ等の名前だけ並べると物凄く渋いキャスティグです。
史実として失敗に終わった暗殺計画であることが判っているので、映画としてはどうやってドラマを盛り上げるのかが腕の見せ所。
しかも主演がトム様である。
シュタウフェンベルク大佐は頭脳明晰、品行方正、深い教養と豊かな人間性を備えた愛妻家として描かれている。もう非の打ち所がないのである。
だから観ていて確信する。
この暗殺計画は成功する。成功しなきゃ嘘だ。ここまで完璧な作戦が失敗するはず無い、と。
でも失敗するのが史実である以上、興味は「如何にして失敗するのか?」という点になる。
結果として、シュタウフェンベルク大佐以外が全員ボケナスであったという描き方になってしまった(笑)。
いいのか、それで?
フロム上級大将、オルブレヒト大将、トレスコウ少将らがみんなヘタレであった──全員、シュタウフェンベルク大佐より階級が上だ(爆)──というのは、ギャグか?
運がなかった、という描写もある。たまたま、その日に限って、計画外の出来事が起こった、という展開。事実としても、かなり苦しい。
そもそも一介の大佐が、計画立案から遂行まですべて担う、というのが凄いわなあ。階級が上に行くほど、軍事的な作戦遂行が政治的判断によって曇らされる、と云うのも判るけどね。
チラリと出番のある総統閣下の役はデヴィット・バンバー。『ワルキューレ』以外には『ミス・ポター』に出演としか判らないが、割と総統の特徴をつかんでいた。多分、この人もイギリス人俳優でしょうね。
観終わってしばらくしてから、この総統閣下の出番は計画発動までしかなかったということに気づいた。
遂に大本営〈狼の巣〉内部で爆弾が爆発。トム様は作戦成功を確信。
連動してベルリン市内の拠点を次々に制圧していく中で、ラジオから総統自身の声明が発表されたりして計画が瓦解していく訳ですが、爆発以降はすべて「声だけの出演」に留まっている。
トム様擁護派の方から観ると、やはり総統本人は死亡しており、ラジオの声明等は影武者による演技である、とも解釈できる。そもそもTVの普及していなかった時代で、ラジオからの「声」がすべてなのだから。
でも立案当初は、「たとえ総統死亡が誤りでも、そう信じさせることでベルリンは掌握できる」筈だったのになあ。
信じるものが多数いれば事実はひっくり返せる、という情報戦としての側面が面白かったのに……。やはり責任は大佐以上の階級がヘタレだったからとしか云いようがない。
サスペンス映画としては上出来。さすがはブライアン・シンガー監督ですわ。
●余談
『ワルキューレ』>『ヒトラー最期の12日間』と続けて観ると、ベルリンの情勢が怒濤の勢いで悪化していったと云うことがよく判ります(笑)。たった9ヶ月の時間差しかないとは信じられん。
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