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2012年9月28日金曜日

ハンガー・ゲーム

(The Hunger Games)

 貧富の格差が極端に進んだ未来のとある国家パネムでは、中央に支配される十二の各地区から選出された二四人の男女が殺し合いを強制される殺人サバイバルゲーム〈ハンガー・ゲーム〉が絶大な人気を誇っていた。
 このゲームに生き残った勝者には富と名誉が約束される。抽選でプレイヤーに選ばれた幼い妹をかばって、主人公である姉は〈ハンガー・ゲーム〉への出場を志願する。

 本作はスーザン・コリンズの同名小説を原作にしたSFサスペンス作品でありますが、設定が高見広春の『バトル・ロワイアル』に似ていると批判されておりますね。
 確かにティーンエイジの子供達に殺し合いを強制する点はそのまんまという感じです。
 この点は日本だけでなく、アメリカ本国でも指摘されているところを見ると、指摘が日本人のひがみと云うわけでも無さそうな。個人的には指摘の内容よりも、『バトル・ロワイアル』がアメリカでも知られていたことの方がちょっと意外でしたが(こちらも映画化されていますからね)。

 類似性については、作者スーザン・コリンズは、知らなかったと云っておりますが、あまり責めるのも可哀想な気がします。「仲間同士で殺しあう」とか、「殺人ゲームが流行する未来社会」と云う設定自体は、よくあるパターンの一つですから。
 登場人物が互いに殺し合うと云うと、日本の小説でも貴志祐介の『クリムゾンの迷宮』とか、筒井康隆の『銀齢の果て』なんてのもありますし。
 どちらかと云うと「互いに殺しあう」展開が『バトル・ロワイアル』的であると云うよりも、「殺人がショーアップされ、生中継される」という設定が、アーノルド・シュワルツネッガー主演のB級SF映画『バトルランナー』的であると感じられました。

 しかし設定がイカニモなB級SFであるのに、本作は妙に背景描写が凝っています。
 中でも、中央の退廃的未来描写がイカしております。毒々しい色使いのブッ飛んだファッション・センスがいいです。また、中央に対して、文明レベルを制限された地方の描写──開拓時代のアメリカ並み──の対比も印象的です。
 総じて、七〇年代の寓話ぽいSFの匂いを感じます。
 十二の各セクターの位置関係はよく判りませぬが、地区ごとに特色となる産業が漁業であったり、鉱業であったりする設定や、国家の成立に関しても「過去に大きな戦争があった」と云うだけのあっさりしたもので、このあたりも寓話的ですね。

 主演はジェニファー・ローレンスとジョシュ・ハッチャーソン。
 ジェニファーは『ウィンターズ・ボーン』(2010年)で有名になりましたが、『X-MEN/ファースト・ジェネレーション』(2011年)にも出演しており、SF者にも馴染み深いです。先日はメル・ギブソンと一緒に『それでも、愛してる』(同年)にも出演しておられたし。
 ジョシュの方も『センター・オブ・ジ・アース2/神秘の島』(2012年)や『セブン・デイズ・イン・ハバナ』(同年)と、最近よくお見かけいたします。

 一方、独裁国家パネムの大統領役がドナルド・サザーランドというのが、いかにもB級SF的で嬉しくなります。出番はあまり多いとは云えませぬが、見ただけで悪役ぽい。
 他にも名優スタンリー・トゥッチが殺人ゲームの司会進行役であったり、過去のゲームの優勝者をウディ・ハレルソンが演じているなど、脇役が実力派で固められており、主演も共演も妙に豪華です。
 監督を務めるのは『シービスケット』(2003年)のゲイリー・ロス。あまりSFを撮るような監督には思われませんでしたが、『カラー・オブ・ハート』(1998年)なんてファンタジー映画も撮っていますし、理詰めの展開よりも人情話に重点を置く演出らしいのが、本作にも共通しております。
 こうなってくると本作がB級SF映画であるという認識を改めねばなりませんかねえ。
 音楽もジェイムズ・ニュートン・ハワードですし。

 冒頭の第十二区でのジェニファー達の生活ぶりや、登場人物の関係など、結構丁寧に演出されており、〈ハンガーゲーム〉そのものは後半になるまで行われないと云う演出が、ちょっと意外でした。
 プレイヤーに選出された後も、すぐにゲーム開始とはならず、開会前のセレモニーやら、他の地区から集められたメンバーと一緒に基礎的な訓練を受けたり(この場面は対戦相手達の紹介も兼ねています)、スポンサー集めのオーディションを行ったりします。

 スポンサー受けがいいプレイヤーには「援助」が行われ、ゲームを有利に展開できる「アイテムの差し入れ」があるなど、細かい部分の設定が面白いです。賭も公然と行われている。
 しかしプレイヤーは特に宣伝活動は行わないので、スポンサーと云うよりは、これは単なるパトロンでしょう。
 殺人ゲームのプレイヤーが企業ロゴを背負い、各企業の提供するアイテムを使って殺しあいをすれば、それはそれで毒のある風刺になったと思いますが、本作ではそういう展開にはなりません。
 また、単なる殺人ゲームではなく、年に一度の熱狂的イベントであることが強調され、過去のゲームの勝者からアドバイスを得たり、準備段階の仕込みが描かれていくあたり、世界観の構築にこだわった演出になっています。独裁社会に溜まった民衆のストレス発散も兼ねていると云う設定もお約束。

 他にも、ところどころにSF的な設定が見受けられます。
 ゲームのフィールドも、広大なドーム内の森林で、至る所にカメラや仕掛けが施されていて、プレイヤーの行動はすべて中継されている。ゲームに進展がないと仕掛けが作動し、強制的に進行を促すあたりが外道です。
 更にフィールド内には遺伝子操作された殺人スズメバチや、食用に見せかけた猛毒の木の実も配置され、命の危険がいっぱいなワケですが、特にラストで登場するCG全開な凶悪肉食獣が怖ろしい。
 とは云うものの、火傷を負っても剣で斬られても一晩で治してしまう万能軟膏なんてゲーム的なアイテムもあったりして(ゲームですけど)、いささか御都合主義的に感じられる部分もありました。

 この手のディストピア&殺人ゲームもののSFでは、主人公がゲームに勝利するのと同時に、反体制運動の象徴ともなって、体制打倒の気運が盛り上がったりするのがお約束ですが、本作ではそこまで描かれません。これもちょっと物足りないところですね。
 せっかくドナルド・サザーランドを悪の大統領に配しているのに。最後はクーデターと云うか、革命まで起こらないとイカンと思うのですが、それは後続のシリーズのお楽しみなのか。
 ゲームの勝者は一人だけの筈が、主人公の活躍や成り行きでルールの変更を余儀なくされ、面目を潰された大統領が何やらリベンジを企みそうなところで終わりです。

 そして堂々と『ハンガー・ゲーム2』制作決定の告知も入ります。
 原作もこれ一作だけでは終わらないシリーズでしたか。既に第二部『ハンガー・ゲーム2/燃え広がる炎』の翻訳が文庫本で出版されており(メディアワークス刊)、しかも続編だけでは終わらず「第三巻に続く」になっています。第三部『ハンガー・ゲーム3/マネシカケスの少女』の翻訳も刊行間近だとか。
 映画化の方もそれにあわせて三部作化が図られているようです。特に第三作は前後編になって映画としては四部作になるとか(もうそこまで決まっているのか)。
 さすが原作がベストセラーなだけのことはあります。若年層に受けているあたりが、〈トワイライト〉シリーズのようです。制作側は次なる〈トワイライト〉シリーズになるのを狙っているのでしょうねえ。
 予定では毎年一作ずつ公開していくそうなので、完結まであと三年はかかる計算です(そんなに順調にいくのかな)。

 とりあえず第一作だけ観た印象としては、ロマンス全開な〈トワイライト〉シリーズよりも、もう少し重くてシリアスな物語になるような感じではありますが、ヒロインには幼なじみの気になる青年(リアム・ヘムズワース)がいて、それとは別に一緒にプレイヤーに選出されてしまった青年(こっちがジョシュ)とも親密になるあたり、三角関係になる仕込みは怠りなしです。
 本作だけではこの三角関係は発動せず、ただのネタ振りだけに止まっていますが、これ以降のドラマの展開では重要な伏線に発展していきそうな気がします。

 ネタ振りだけと云えば、本作に登場する「マネシカケス」と云う架空の鳥もそうですね。何やら意味ありげに言及され、「幸運のお守り」の意匠にもなっていますが、生態等の詳細は不明なままです。
 どうにもシリーズ化前提なので、本作だけで何もかも解決するわけでなく、逆にネタ振りのみで終わってしまう演出もあって、ちょっと消化不良の感があるのは否めませぬ。

 日本語吹替版も同時に公開されており、ジェニファーが水樹奈々、ジョッシュが神谷浩史、出番の少ないリアム・ヘムズワースにも中村悠一が配され、この先もこの吹替で三角関係が進展するのかと思うと楽しみなところがあります。
 その上、ウディ・ハレルソンは山寺宏一だし、ジェニファーの妹役の女の子には釘宮理恵がいるし、なかなかアニメライクな布陣になっているので、吹替版を観る方が楽しかったような気がします。
 いや、いっそ日本でアニメ化してしまえばいいのでは(笑)。

 ところで続編『ハンガー・ゲーム2/燃え広がる炎』では監督が交代してフランシス・ローレンスになるそうですが、大丈夫なんですかね。
 フランシス・ローレンス監督と云えば『コンスタンティン』(2005年)や『アイ・アム・レジェンド』(2007年)の監督さんですが……。まぁ、当初に予想したB級SFぽくなりそうなので、それはそれで構わないような気もしますが。
 ちゃんと完結するまで制作出来るのか、ちょっと心配ではあります。




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